12 奪われたブラッドダイヤモンド
通常スキルの使用時には適切量のMPが消費されて発動する。しかし、深い集中と高い魔力操作能力が組み合わさることによって稀により多くのMPを消費し、増強された効果を持つスキルを放つことができる。
詳しい仕組みと完璧な再現は未だ解明されていないが、実践が可能な者は、魔力とスキルを組み合わせた、「魔術」の真髄にいち早くたどりつけるだろう。
ーーーーー「魔導魔術教本」より抜粋。
透き通るような空。
乱れひとつない晴天に、静寂を切り裂く雷鳴が轟く。
霹靂。雷電。稲妻。
万雷纏て、轟音を成す。
晴天の霹靂。
【ルーン魔法】のスキルから、見たこともないような規模の電撃が発せられる。
稲妻は取り囲む冒険者達の体内を駆け巡り、体は痺れ、肉は焦げ、血管は途切れる。
そのまま地面を舐めるように雷電は爆音と共に消えていった。
冒険者達から押さえられてた力が一気に弱まる。
バタバタ動いて重い体をどかし、なんとか拘束から脱する。
い、今の…とんでもない威力の電撃だった…
なんであんなことが起きたのか不明だが、とりあえずは窮地を脱することができた。
だが動ける冒険者はまだ数人残ってるし、さっきの【ルーン魔法】が通常より多くのMPを使ったらしく、完全に尽きた。0だ。
跳躍でなるべく冒険者の山から離れる。
被さってなかった数人の冒険者が回り込むようにして迫ってくる。そうは行くか!
全力で最速の跳躍移動で包囲を突破しようと猛進する。
「くそっ、逃すな!」
逃げ道に回ろうとする冒険者と、地面を駆ける俺。
MPが切れた以上、ここで絶対に捕まる訳にはいかない。捕まろうものなら、俺もカーバンクルもどんなことをされるかわかったもんじゃない。
捕まったカーバンクルは生捕にされるだろうが、俺は最悪その場で殺されるだろう。勇者を殺した俺を放っておくとは思えない。
そう、絶対に捕まってはいけないのに…
俺は、冒険者に追いつかれてしまった。
冒険者に横から組みつかれ、動き封じられる。
振り払おうとした時、内側に激痛が走った。
蓋を貫き、中身の肉を裂き槍が体内の中心を捉えられる。
視界が白黒に反転する。ディストーションのエフェクトがかかったかのような吐き気のする感覚で五感が狂う。
「ギィイャア”ア”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”!!!」
初めてミミックとして発声をした。
それが激痛による叫び声とは思いもよらなかったが。
体に走る激痛。
冒険者を払うどころでは無い。
痛い。痛い痛い痛い!
クッソ、こんな攻撃を受けてこんな激痛が走るなんてっ…
いてぇよ…
この世界には痛覚耐性みたいなスキルはねえのか…?クソがっ、ハードだなぁ。
ああぁ!いてぇよ!
傷口から溢れた血が箱内に血溜まりを作り、カーバングルの足先の毛を赤く染め上げる。
さっきからカーバンクルが必死に【レッサーヒール】をかけてくれているが、ヒールに痛覚軽減や快楽感覚を与える効果はない。
冒険者たちによって蓋がこじ開けられる。
今の俺にそれに抵抗しきれるエネルギーはなく、箱の外から伸びてきた手にカーバンクルが抱かれ持ち出される。
「ピィッ!ピィーッ!!」
カーバンクルが必死に訴えかけるように鳴き、哀しそうな目でこちらをみている。
激痛を感じなくなり、意識が薄れていくのを感じる。
あぁ…すまねえな…
カーバンクル…お前を守るって…言ってたのに…
「ピィーーー!!!」
カーバンクルは俺の意識が途切れるまで、【レッサーヒール】をかけるのをやめなかった。