11 簒奪者
前に載せたステータスから【跳躍】のスキルが抜けていました、申し訳ありません。
カーバンクルが真っ直ぐな目でふふん、といった表情を取っている。
こいつ、最初から俺の思考を読んでついていこうと判断したのか。
明らかに神聖的な生き物がなんでミミックなんかに?って思ってたが納得した。属性というより、その者の本心で判別してるんだ。
人の本性を暴く時とかに使えそうだな、その人の前に置いてカーバンクルがそっぽ向いたら心が汚れてて…みたいな。
あ、もしかしてそんな使い方も冒険者に狙われる理由なのだろうか。一種の嘘発見機だしな。
だが俺にとってはそんなことより全然有用な使い方を思い付いた。
コミュニケーションだ。俺が何かを提案、質問なんかした時、カーバンクルに心を読んでもらい、首を縦か横に振ってもらえればいい。
それだけで今までどうしたいんだろう、って時に俺が頭の中で「これか?」って思うだけでカーバンクルとの意思疎通がある程度取れるようになる。
だろ?
そう思考するとカーバンクルが頷く。
ほら、なんて簡単なんだ。
今までのがばからしいほどに簡単に意思疎通が取れる。
言葉でのやりとりができさえすればなんだが…実際何度か発音ができないか試したみたことはあるが、ミミックの複雑な構造の口ではほとんど吐息のような声しか出ない。
そういえば言語のことだが、冒険者たちは普通に日本語を話していた。
俺がこの世界に来ると共に頭に別言語がインプットされてて自動的に変換されてる説も考えたが、文法というか、言葉の並びから考えて完全に日本語だ。
てか、なんならステータスも日本語だ。
そうだステータス、カーバンクルのスキルをもっと見てみないと。
【レッサーヒール】
《最初期の回復魔法》
《軽度の怪我などを治せるが、あまりに大きい重傷などはいくら時間をかけても治せない》
最初の回復系魔法だろう、「ホ◯ミ」とか「ケ◯ル」のような。
あの時箱の中から使ってくれてたのもこれだろう。
【深緋のルビー】
《カーバンクルの額のルビーにより回復系統のスキルや魔法が強化される》
《ルビーは強力な魔力伝導体になる》
カーバンクルは回復に特化してるらしいな。
これで【レッサーヒール】の効果も上昇しているだろう。
それと二行目、不穏だな。
魔力伝導体が何かはわからないが、予想をつけるなら杖とかの先につける宝石なのではないだろうか。
最近【ルーン魔法】のスキルレベル上昇によって得た知識でルーンというのはある程度の魔力伝導体になることを知った。あの魔法使いが杖先につけてたのを考えるとこれで合ってる気がする。
つまり、上質な杖などを作るためにカーバンクルが狙われるってことだ。
複雑だ。
もともと人間だった身からすると、そういうことが起きてることは知っててもそれにちゃんと向き合わずほとんどの人間が生きている。
食べる時、いただきますを言うことで貰う命に感謝した気になってる。それで許されると思ってる。
実際家畜となる動物たちは知能があまり高くないことが救いなのかもしれない。
カーバンクルはかなり知能が高い、故に何をされるか理解してしまうだろう。
そんな恐怖計り知れない。
俺だって人間の頃、もし何か別のものが生存するために命を差し出せと言われたら、屠殺場の前で命懸けで抵抗するだろう。実際命がかかってるわけだからな。
だが、ヴィーガン思想に共感できるわけではない。
俺だって自分が生きるために人間を喰らう。
人間も生きるために家畜を殺している。その家畜達が抵抗もできず屠殺されるのは知能の低さがもたらす欠点かもしれない。
それに文化の否定にもつながる、家畜に抵抗の手段がないのが気に障るが、100歩譲って許せるが、許せないケースがある。
象牙などだ。
象牙は人間が生きるために必要なものでは決してない。密猟者の経済的な面を考えると間接的には関わってるかもしれないが経済なんてものが生まれるのも人間だからこそだ、生命的に必要なものではない。
カーバンクルのルビーは過酷だろう。
美しい宝石でありながら魔力伝導体という使い道が存在している。
象牙と家畜肉、両方の側面を持ってるんだ。狙われる理由はさまざまだろう。
「ピィ〜…」
カーバンクルが哀しげに鳴く。
こんな思考も感情も読めちゃうんだったな、悪かった。お前のルビーは絶対守ってやる。
カーバンクルについて色々知ることができた。
ルビーはあれだが、その他は大体吉報だ。カーバンクルとほぼ会話のようなことができるようになったんだ。
雪洞を出る。
やけに白い一面の雪を眺め、今日やることを考える。しっかし、冬が明けないと本格的な活動はできそうにないな…
そこをどうするか…
どうせなら動物を探しながらあのベリーのところに向かって貯蔵を増やそうか。
ほら、行くぞカーバンクル。
「ピィ!」
カーバンクルがタタッと側に走ってくる。
ぴくっ、とカーバンクルか体を震わす。
やけに警戒した様子で雪洞外を見渡すカーバンクル。
どうしたんだ?
フー、とカーバンクルが外を威嚇している。
何か気配を感じたのだろうか。
動物などだったらできれば狩りたいが…
確認しようと、外に跳躍する。
跳躍。
ただ移動の一環としてミミックの本能に染み付き、ミミックに適した移動方法。
人間で言えば歩くために足を一歩前に出すのと同じ感覚。
ここで跳躍という選択肢をとってしまったことで、俺は双六でいう裏ルートへと駒を進めてしまった。
ズボッ
着地先で、俺は落とし穴にかかった。
体が半分雪に埋まり、身動きが取れない。
くそっ、なんでこんなところにこんな物…
「「「かかった!!」」」
直後、周囲から掛け声とともに多数の人影が姿を表す。
10人前後の冒険者だ。
中にはカーバンクルを追っていた弓使いと、ダンジョン内でタンスでやり過ごした冒険者たちもいた。
こいつらっ!
冒険者達の狙いは確実、カーバンクルと入手と俺の始末だろう。
そうはさせるか!!
箱を閉じ、【聖閃光】を発動させる。
俺に害のある聖のオーラを箱で防いだのを感じたら、箱を開け、体の周囲に【ルーン魔法】火を使い雪を溶かす。
自由を取り戻した体で跳躍し、カーバンクルの方に向かう。
逃げるぞ!
口を開けると、カーバンクルが迷わす中に入ってきた。
急いで方向転換をし、冒険者たちの包囲網から出ようと跳んでいく。
ようやく視界を取り戻したであろう、目を擦っていた冒険者に体当たりをかまし、下敷きのようにして踏みつけて跳んでいく。
「ロイド!カーバンクルがいねえ!」
「なっ…まさかあのミミック!」
後ろから冒険者の話し声が聞こえる。
まずい、こっちにくるだろう。
後ろに向かって【デス】を放つ。
咄嗟に出したから確認はできないがおそらく当たってはいない。
くそっ、なんだってこんな急に!
だが虚をつかれたのは確か…悔しいが冒険者達の行動が思ったより早かった…
なんで住処を移すってことを思いつかなかったんだ…!
兎にも角にも逃げないと!
バスッ
背が貫かれた感覚とともに激痛が走る。
矢が当たったのだろう、かなり体の中心に刺さってる。
カーバンクルはかわしている、ここで【危険察知】や【脱兎】のスキルが生きているんだろう。
痛みに移動する体を止めそうになるが、激痛を振り払い、跳躍する。
その時、体が引っ張られるように一気に後ろに引き寄せられる。そのまま後方の地面に転ぶ。
地面を引きずられるようにして後ろに引っ張られる。
これは一体…
体をぐりん、と回転させて後ろを向く。
背から縄が伸びていて、それを冒険者が数人がかりで引っ張っている。
さっきの矢にくくりつつけてあったのだろう、ハープーンの用に。
【ルーン魔法】火を使い縄を焼き切る。
力いっぱい引っ張っていた冒険者達が急に抜けた力によって後ろへ倒れる。
今のうちに…!
と思い逃げる方向に振り向くが、回り込んできた冒険者達に道を塞がれる。
くそっ、だったらもう一回!
【聖閃光】を発動させ、蓋を閉める。
箱に当たる衝撃であのオーラをやり過ごし、蓋を開ける。
冒険者達は目を押さえて悶えてるが幾らかは閃光を読んで目を各位していたんだろう、何事もなかったように武器を構えている。
まずいな…今のが読まれるならもう一発撃っても意味はない…そして今気づいた、この【聖閃光】、MP消費がバカにならない、すでにMPが1/3になっている。
「ミミックを捕らえろ!カーバンクルを食ったかもしれない!ルビーだけでも取れ!」
その掛け声で冒険者達が詰め寄ってくる。
まずいな、【デス】がほぼ確実に当たる距離だが使い所を考えなきゃいけない。
ここの手は…
ジリジリつけてくる冒険者が、咄嗟に掴みかかるように腕を広げて動いた、今だ!
上方にできる限り早く跳躍を行い、冒険者を踏みつける。そのまま外に向かって二段ジャンプ。
バスッ、と矢に射られる。
まずいっ、空中に逃げたのは悪手だったか?
包囲網は抜けられたが飛び道具を避けようがない。
矢の痛みでうまく角度を調節できず地面にどしゃあっと落ちる。
箱内のカーバンクルがひっくり返って目をぐるぐるさせてる。
急いで体制を立て直そうとするが、冒険者にガシッと押さえられる。
連なるように次々と冒険者達に取り押さえられる。
やばい、動けない。
ミミックの跳躍は重心を移動させる勢いで跳んでるため、地面に踏ん張ることはできない。
つまり力尽くではのしかかる冒険者達を突破できない。
ならばスキルでなんとかならないだろうか…
【デス】は使って殺しても、力が弱まるだけで重みはそのままだしMP的に2回しか打てない。
【ルーン魔法】は火と氷は射程がないと意味ないが…雷なら?
火と氷は実体があって、発動に空間が必要だが、雷なら。
連なる冒険者達を一斉に感電させ大いなる好機が訪れるのでは…
【ルーン魔法】の雷が、この場の最適解に思えた。