間話 A-2 この勇者だけは(後半)
前回の8話にて、一部書き足した部分があるので確認してない方はそちらも合わせてお読みください。
「ギルマス!ギルマスはいるか!」
「ギルマス!話がある!」
「ひゃうっ!?」
許可なくギルドマスターの部屋の扉を開け放ち、2組のパーティが入ってくる。
本を読んでいたセレネは焦るように急いでその本を閉じ、入ってきた人たちを確認する。
冒険者たちはズカズカと部屋に踏み入りセレネの真前まで来る。
「「急いで
報告しなきゃいけないことが!」
報告をしないといけないことが!」
「ロイドとレゾネア、一回落ち着け!報告は片方ずつからだ!」
冒険者たちの筆頭は大剣使いのCランク冒険者ロイドと、Dランクの弓使いのレゾネア。
「クロード!そこの樽もってこい!」
ロイドが高らかに言い、クロードは無言で樽を部屋の中心に設置する。
ロイド、レゾネアが両者樽に肘をつける。
「はじめ!」
手を握りあった両者が一気に力を込める。
腕相撲。それが冒険者流だ。
「【クロスパワー】!」
「なにおう!【フラッシュ・ストレンス】!」
レゾネアのパーティの魔術師、レフティスが筋力増強魔法を発動したのを見て、ロイドも負けじと自己強化スキルを使う。
スキルのかかったロイドが一気に押し返し、レゾネアに勝利する。
スキルの使用は各陣営一回のみ使用が許可されている。誰の手によって組み込まれたルールかは不明だが、このルールによって無駄に競技性が上がっている。
【クロスパワー】のような無難な無難な筋力ブースト魔法を使うか、不意をついて一時的だが強力な増加効果のある【フラッシュ・ストレンス】を使うかなど。
意外なメタが出回ったりする。
2人の大声で冒険者たちの野次馬が集まってきた。
「痛ってー!」
「ギルマス!勇者捜索のためにダンジョンに向かった折、とんでもない光景を見つけました」
ロイドが血相を変え、怪談でも話すのかと言う雰囲気で話を進める。
「何を見た」
「床に塗られた大量の血痕と共に、これが」
といってロイドが一つの杖を机に置く。
「これは…魔導士様の…」
「はい、もしかしたら…危惧された事態が起きているかもしれません」
それを見てレゾネアも続けて声をあげる。
「魔導士様のだって!?ギルマス、私たちの報告とロイド達の報告は関連してるかもしんねえ!」
「い、言ってみろ」
「ついさっき、カーバンクル捕獲の依頼中、異様なものを見た。ミナスの森に、ミミックがいたんだ」
野次馬で集まった冒険者たちがざわめく。
「そのミミックは私たちが追ってたカーバンクルを守るようにして立ち回り、【デス】以外の魔法も使えてた、それだけならまだはぐれのインテリミミックだが、あれは間違いない、そのミミックは【聖閃光】を発動させていた」
冒険者たちのざわめきがより一層騒がしくなる。
「ミミックは混沌の使いとも…運命の加護をもしかして…?」
「ってことはまさか勇者パーティが…」
「いやでも、勇者の遺品は…」
皆が考察する中、セレネは青ざめた顔で膝から倒れそうになるのを机に腕を立てて持ち堪える。
「ギルマス…!」
片肘を机につけ頭を押さえる。
「まずい…本当にまずいぞ…」
セレネは顔面蒼白になりながら目をあちこちに泳がせている。
セレネの流石におかしい様子に声をかけるレゾネア。
「そ、そこまでか?今回の勇者は予言によって選ばれたんだろ?ってことは数年以内に次の勇者が…」
「違う!」
ギルマスが机を叩く。
声の気迫で冒険者たちは全員黙り込む。
セレネは机の上に置かれた王国印の手紙をチラッと見て絶望に打ちひしがれたような力ない声でつぶやいた。
「この勇者は…この勇者だけはダメなんだ…」
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