1 英雄たちよ、出ておいで
目の前が真っ暗だ。
かろうじて顎の感覚があり、四肢の感覚はなく、体全体の感覚はぼんやりとだが掴めていた。
なんだ?様々な感覚の場所や感じが不可思議だ。
体の感覚が顎を覆う、囲むような?感覚だ。
な、何が起きてるんだ…?
思い当たることも、何が起きてるのも検討がつかない。
とりあえず感覚が一番しっかりしてる顎、口を開いてみよう。
バッと口を開く。
とたんに重心が後ろへと傾き、バタンと倒れる。
な、なんだこれ!?背が思いっきりちちんで、というか体の構造が変わってる??
現在口を開けて仰向けで地面に横たわってる状態だ。
ふん、と口を勢いを付けてようやく口を閉じて起き上がれた。
ギィ、バタンという音と共に
な…なんだ?体が箱のようになってる?しかもRpgとかで見るような宝箱のように上辺が丸くなってる。
口を少しだけ開けて、閉じる。
…うん、箱だ。
口を開けると薄暗いが外が見える。
つまり体は箱の中。
舌や歯もあり、いや歯というよりは牙のように尖っていて、音もよく聞こえる。
むしろ音が一番感覚がいい。
てか、箱の中に入ってて、牙なんかあるって、これ「ミミック」じゃねえか!
《自我意思を確認、ステータスを表示します》
ちょ待て待て、誰だ?箱の外から話しかけてるのか?
『種族:ミミック
状態:なし
-[スタッツ/Lv:1]-
HP:30 MP:18
攻撃:35 敏捷:22 頑丈:10 魔力:13
-[スキル]-
〈通常スキル〉
【超音波:Lv1】
【デス:Lv1】
〈特性スキル〉
【シェイプシフト:Lv1】
-[称号]-
【擬態者:Lv-】【ダンジョンの厄介者:Lv1】【Dランクモンスター:Lv--】』
脳内にツラツラと文章の描かれたイメージが映し出された。
うおっ、なんだこれ…
なんだ?このゲームのインターフェースのようなもの...
俺はいまどんな状態なんだ?ミミックに変化した?
理解は追いつかないが、意識はちゃんとしてる、俺は確かに人間だった…
あれか、転生ってやつか?こんなステータスとか言うものがあるし…
不安感が襲って来た、俺は人間からこのミミックに転生したのか?
けど…なんだ?こういうのって死んだ時の記憶があるもんじゃないのか?
記憶を探ると、過去に人間としたことの経験などは思い出せるが直近の記憶がおぼつかない。
当然こんな箱に詰まった生き物にされる心当たりもない。
ないない尽くしだ、俺はこれからどうすればいい?
正直向こうにそこまでの未練は残してないが、できるならば戻りたい。
そりゃあ、転生したならその世界を楽しみたいって妄想はしたことあるさ、あああるとも。
けど、なんだってこんな転生ガチャ大外れのキャラにならなきゃ行けないんだ、ミミックだぞ?擬態生物ミミック。
元の世界に帰る方法を探さないと...
でも探すにしてもなぜこんなことに...
もう、あれだ。
どうこうしたって俺の一言で何かが変わるわけじゃない、状況確認しよう。
箱の蓋をうっすら開けて、隙間から周りを見る。
大理石畳の床と石レンガで出来た壁、通路から飛び出した形のスペース、おそらくダンジョン的な場所に俺は置かれているのだろう。
ミミックとして宝箱に擬態し、罠にハマる獲物を待って食らうために。
そして何も知らず宝箱を開けた無防備な冒険者にあんぐりと口を開け、バクっと行く!
ぶしゃっ
え?
気がつくと俺は人間を上半身から喰らっていた。
ミミックとしての本能か、ごく自然的な流れに身を任せて、俺はモンスターとして行動していた。
「あ、アルドっ!?」
「おいっ、大丈夫か!?」
廊下の奥から石畳をコツコツと踏む音が聞こえる。
まずい、仲間がいるのか。
ていうか、やばいやばい、俺人殺した!?
だがなぜだろう、そこまでショックは受けてない、人間ではなくミミックになったからだろうか。
このままだと俺はおそらくやってきた仲間に討伐される、なにか対抗策を考えないと!
食った男は切断したわけじゃない、腰のとこで咥えた形になってるから、すぐには噛み付けない。
ミミックのメイン武器の牙が使えないってなるとどうすればいい?
「これはっ、ミミックか!?」
片手斧を持ったガタイの良い戦士風の男が駆けつけた。
隣には指揮棒?のような杖を持ち、戦闘用とはあまり思えない可愛らしい衣装に身を包んだ聖女風の美少女がいる。
やばい仲間だ!何か…
そうだ!ステータスにデスってのがあった!おそらくゲームとかのミミックが使ってくる即死魔法だ!
え、えーと、【デス】!
頭の中で強く念じると、空中に禍々しいオーラを纏った髑髏の紋章のようなものが現れた。
えーとこういう時は、回復が厄介そうな、聖女を殺す!
俺の意思に従って髑髏はふわっと聖女に向かって飛んでいったが、ぶつかる寸前でバチっ!っと何か障壁のようなものに阻まれ、力を失ったように地面に落ちた。
な、なんだ今の衝撃は!?
あれか、即死無効みたいな装備があるのか?
だったら狙いは戦士だ!それによくよく考えれば即死するなら回復役がいても意味はない!
もう一度、【デス】ッ!
再度髑髏が現れ、戦士の方に飛んでいく。
「これは…待てっ!」
戦士は斧で髑髏を向かい打とうとしたのだろうが、髑髏はスッと斧をかわし、戦士の厚い胸板に沈んでいった。
「がふっ!」
ほどなくして戦士は全身から黒い煙を吹き出して地面に倒れ込んだ。
《称号【戦勇殺し】を得ました》
「嘘っ、アラン!?」
「セスティア様!そいつまずい!」
脳内に先ほどのアナウンサー声が響くが、俺は廊下の奥からした声により注意を引かれた、まだ仲間がいたのか。
待てよ、今の言葉完全に悪役だな、なしなし。
くそっ、まだ仲間がいるのか!
体を強引にずらして除いてみると、杖を握りしめ、頼りなさそうに腰の引けた魔術師風の少女がいた。
聖女が魔術師の方を向いて「そ、そうね」と立て直おそうという隙は見逃さない。
咥えてた男を吐き捨て、箱内の体を思い切り動かして跳躍する。
そして聖女の体めがけて口を目一杯開く。
「セ、セスティ---」
ばちゅん!
聖女の胴体部を思い切り食い千切る。
《レベルアップしました》
《ステータスが上昇しました、称号【聖者殺し】を得ました、スキル【デス:lv1】がLv2になりました》
頭にアナウンスが流れるが、今は気にできない、この魔術師をやらないと。
「よ、よくもセスティア様を…ラ=フラム!」
聖女の死を目の当たりにして絶望しかけてたが、急速に感情を転換し、魔法のような物を唱えた。
持っていた杖についてる三つの宝珠のうち赤い玉が光り、魔術師の前に火球が現れた。
まずい!
危機を察して箱の蓋を噛み締める。
火球が外側の壁にぶつかった衝撃と熱が伝わってきた。
かなり熱いし痛かったが、致命的なダメージにはなってない。
ジャンプ移動で魔術師と距離を詰める。
「う、うわぁ!?こっち来るなぁ!サンダーブリッツ!」
今度は杖から雷撃が発せられるが構わず突撃する、3つの宝珠は光ってない。
魔術師に体当たりをかます。
「がひゅっ!」
うめき声を出して地を転がる魔術師。
起きあがろうとするところにさらに距離を詰め、頭からばくっと行く。
《レベルアップしました》
《ステータスが上昇しました、称号【魔導殺し】を得ました》
戦闘が終わり、あたりには静けさが戻る。
ふぅ…ひと段落だ…
にしても人を殺しても罪悪感や嫌悪感がない。
ミミックになったからだろうか?まぁいい。
先ほど頭にレベルが上がったとの報告があった。
人間を殺し、経験値を得、レベルが上がったということだろう。
よく出来てる、将来こういうVRゲームが出ても面白そうだが、人間の精神はこのグロに耐えられそうにないな。
あのステータスは、見ようと思えば見れる物なのだろうか。
『種族:ミミック
状態:なし
-[スタッツ/Lv:3]-
HP:45/21 MP:23/2
攻撃:43 敏捷:27 頑丈:16 体力:26 知力:28 魔力:22
-[スキル]-
〈通常スキル〉
【超音波:Lv1】
【デス:Lv2】
〈特性スキル〉
【シェイプシフト:Lv1】
-[称号]-
【擬態者:Lv-】【戦勇殺し:Lv--】【聖者殺し:Lv--】【魔導殺し:Lv--】【ダンジョンの厄介者:Lv1】【Dランクモンスター:Lv--】』
そういうものだった。
能力値が上がって、アナウンスされた称号も追加されてる。
てか、人間1人殺すだけで、トロフィーがもらえるって難易度低すぎないか?と考えたが思い直してみる。
今、魔術師、聖女みたいなやつ、戦士風の男、それと…
最初に噛み付いた男の元へよる。
よくみると少しだけ動いてる、こいつまだ生きてた!
一歩下がって大ジャンプし、頭を踏み潰す。
頭蓋骨がバリバリ割れた感触が伝わってきて、流石に気持ち悪かった。
《レベルアップしました》
《ステータスが上昇しました、称号【勇者殺し】【魔物の英雄】【人類の敵】【英雄殺し】を得ました、称号【ダンジョンの厄介者:Lv1】がLv:6になりました、スキル【闇魔術:Lv1】を得ました》
…え?
《称号【勇者殺し】【戦勇殺し】【聖者殺し】【魔導殺し】を得たことにより、称号【伝説殺し】へ統合されました》
え、待て待て。
俺は俺の行動を振り返り、地面に転がった無残な死体を観察する。
1人、腰に白銀の長剣を携えて青い衣装を纏う青年。
2人、ガタイの良い筋肉質な体に斧を片手で振り回す腕力を持った戦士の大男。
3人、半ばドレスのような衣装を着て指揮棒のように細長いステッキを持った少女。
4人、魔女帽を被り、黒いローブを着て3つの宝珠が埋め込まれた杖を持ち歩く魔術師。
……………
俺、もしかして勇者パーティ殺しちゃった?