第8話 CEOから白羽の矢。私がですか!?
「やっぱりCEOは格が違うわね〜」
「うん…」
恒例のランチタイム。昨日の出来事を由紀に洗いざらい伝えた。
「ま、これでCEOも味方同然だから、遠慮なく色々と聞いてみたらいいわよ」
「もうあんな心臓が止まる思いしたくない」
室長も特に気にした風なく、接点の無いまま時が過ぎている。
「結局彼女いるのか分からないままだしね〜」
「うん…」
〝腐れ縁よ〟
…友田さんはどうなんだろう。
「CEOに頼んで食事のセッティングをしてもらうとか!」
「由紀…。もっと現実的な事を考えてよ」
「え?駄目かな?」
「当たり前じゃない!我社のトップに平社員が何頼むのよ!!」
「真紀子、あの時こうしていればって思っても時間は戻って来ないのよ?」
「…」
「私も、自分が動かなければ結婚していないしねー」
「由紀ってイケイケドンドンだよね」
当時、積極的に今の旦那さんを食事に誘ってた由紀を思い出した。
「違う。後悔したくなかったの。自分の気持ちに」
「由紀は旦那さんの方から由紀を好きになったんじゃん」
私も出席した合コンで知り合い、旦那さんは由紀に一目惚れした。それは私から見ても分かるほどで。
それでも、オタクを絵に書いたような出で立ちの彼に由紀は最初よく思ってはいなかった。
散々愚痴を聞かされ、それに便乗して私も当時の旦那さんを貶していた。…今考えると悪い事したなー。
「由紀、散々文句言ってたでしょ?」
「そうねー。あの連絡攻撃がねー…って、それはいいの!それでも、悪い人ではないから後悔の無いように対話を重ねたのよ」
「…」
「真紀子だって室長ともう少し接点があって、普通に話す事が出来たら、何かが変わるかもしれないでしょ?」
「…室長と普通に話すって…チャレンジャー」
考えたら恐い。
「…ぇえい!好きなんでしょ!?だったらまずは行動!」
結論の出ない私に痺れを切らしたように由紀が話す。
「話したり仲良くなって、好きだと思ったらまた考える。あ、違ったと思ったら普通に上司と部下に戻る。それだけ!シンプル!」
「ひゃー!それ戻れ…」
「真紀子は結果を気にし過ぎ!結果も〝今〟が無ければ到達しない!」
「由紀…」
由紀の言うとおりだ。両思いになる人と年中片思いの人との決定的な違いを見せつけられた。
私は振られる事を想定して、傷つかないように自分を守ってる。
「真紀子は工程よりも結果重視だからなー。…あ!そういう所は室長と似てるかもね!」
最悪の結果を恐れて動かない私。
それを…まざまざと垣間見た気分になった。
✽✽✽
「戸塚、少し良いか」
「はい!」
昼休み終了後、室長から呼ばれた。
行動しようと思った矢先の出来事に妙に緊張する。
「お呼びでしょうか?」
「…明日、CEOに会食の仕事がある」
「はい」
「本来なら第二秘書に頼みたいのだが…あいにく忌引でな」
「はい」
「…CEOが戸塚に、と」
「………は?」
誰が?誰に?
「CEOの会食の付き添いだ」
「…私が…?」
…CEOの
…我社のトップの
…我社の最高経営責任者の
…サポート!!??
「ッわ!私がですか!!??」
あり得ない!信じられない!会社の顔が平社員連れて行くって!
「勿論残業代は出る。仕事だからな。夜の予定は?」
(いえいえいえ!)
頭が混乱している中で、室長はどんどん話を進めて行く。
「私では役不足です!」
恐ろしい。雑用係しかしたことないのに。
「…」
「室長…?」
手をぶんぶん振って断っていたら室長が黙り、私も冷静さを取り戻した。
「分かった。出来ない奴には頼まない。CEOには私から断っておく」
「…え?」
物凄く冷えた…凍てついた声が頭上から降ってきた。
「私が行けば良いだけの事だ。それをCEOが戸塚を指名したんだ」
あ。…しまった、怒らせた。
「要件はそれだけだ。席に戻りなさい」
…違う。
失望させたんだ。室長を…。
(あんなに仕事頑張って室長に認めて貰いたいって思ってたのに)
ぐっと拳を握る。ここで怯んだら永遠に室長は私を認めてくれない。
「やれます。先程は申し訳ございませんでした」
俯いていた顔を起こし、室長を見つめる。
「突然の出来事に混乱してしまいましたが、私で良ければ…」
室長が真っ直ぐと私を見ている。あの無機質な目で…。
負けじと見つめ返していたが、やっぱり落ち着かず言葉も目線も宙を浮く。
「無理するな。相手側に迷惑があると不味い」
「…っ」
どうしよう。やっぱり恐くなって来た。
私に出来るか…
「が…頑張りたいですっ…」
出来るかは分からない。結果は分からない。
だけど〝今〟を積み重ねないと…
私と室長は永遠に打ち解けない
「分かった。CEOに伝えに行く。戸塚も一緒に来なさい」
「はい…」
室長の表情は変わらない、声色も変わらない。
結局失望させたままなのかどうなのか…
室長が立ち上がり釣られて私の目線も上がる。
(か、かっこいい…)
斜め上から見上げる室長がかっこよくて…
「戸塚?」
「あ、すみません」
無機質で、無表情。
今まで何度も見てきたのに、意識したら益々意識してしまって…
室長の少し斜め後ろを歩く。細身で無機質。その背中はかなり近寄りがたいオーラを発している。
「…」
「…」
お互い何も話さないこの無機質な空間もなんだか温かい。
少し、勇気を出せた。
それで…私にはとても幸せな〝今〟となった。
由紀ちゃんの当時の文句はシリーズ小説
〝一生に一度の素敵な恋をキミと〟の〝第7話 援護射撃〟
にて!
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