第7話 最強協力者現る!?
「失礼致しまーす…」
結局由紀に負けて、CEOの来客のコーヒーを下げにやってきた。…悲しい。
「コーヒーありがとう。ご馳走様でした」
CEOは由紀に変わって私なのを気に留めた風でもなくお礼を言ってくれた。
我社のCEOは優しいと評判で、私も優しいのは承知済みだ。
うん、確かに穏やかな人だ。よし!
「あの…CEO!」
コーヒーカップをお盆に乗せて、意を決して声をかける。
「うん?」
「あ、えーっと、えーっと」
パッと目が合い、意気込みもどこかに行ってしまった。キョロキョロと目が泳ぐ。
どうしよう…
「あの!えーっと…あ!お土産ありがとうございました!」
忘れていた。出張した際、いつもCEOはお土産のお菓子を買って来てくれる。これは普通に声をかけても問題無いどころかきちんとお礼を言っておかなければならないものだった。
「ああ、どういたしまして」
「美味しかったです…」
穏やかに微笑んでくれる。しどろもどろで挙動不審だったのに…。由紀と一緒なら便乗してCEOと話す事も出来るのに…。
私…由紀の影に隠れてるだけしか出来ない奴だ。…最悪。
「仕事はどう?」
「え…?」
落ち込んで、動けなくなった私に、CEOが声をかけてくれた。
「黒崎くんが戸塚さんに時間がかかる仕事を頼んだって聞いてたけど、大丈夫そう?」
あ、そうか…。CEOは室長の部下との接し方を気にかけてくれているんだ。
〝黒崎くんには僕から弁解したから〟
以前由紀にそう言っていたのを思い出した。
「ぜ、全っ然大丈夫です!!室長はいつも誰よりもお仕事されていらっしゃるので!」
(もしかしたらCEOは室長の事をパワハラと気にしているのかもしれない。だから私を探っているのかもしれない)
「室長の力になれた事を誇りに思っています!!」
なんとか室長の事を良く伝えたくて、鼻息荒くCEOに伝えきった。
「そう。戸塚さんのような女性が部下で黒崎くんも幸せだね。ありがとう、これからも黒崎くんをサポートしてあげてね」
CEOが穏やかに微笑む。
「はい…。…黒崎室長はあんなに激務で…プライベートは大丈夫でしょうか…?」
ついポロッと言ってしまった。
(あ。…だ、だって!CEOがびっくりするほど穏やかで、全て包んでくれそうなおおらかなオーラを発動させてるから!!)
「うーん…そうだよね。僕も分けて頼むようにはしてるんだけどね」
…確かに。我社のトップであるCEOには秘書が二人ついている。第一秘書は勿論室長。その室長のお休みの日などは第二秘書が請け負っている。その第二秘書に任せればいい仕事も沢山あるはずだ。
だけど、室長は人を頼らない。
「あんなに激務ですと…ほら、その…彼女さんとかと…揉めたり…ですとか…」
あぁ…!ついに言ってしまった!CEOに!
「……そうだね。そうならないように配慮が必要だね」
間!今の間!今の間は何ですか、CEO!?
「あ、いや、そう言う訳では…」
もう消えて無くなりたい。彼女はいるのか?と聞きたいことは伝わらず、先程の空白の間に怯える私は100%返り討ちにあった気分だ。
「彼女がいるのかはプライベートだから、僕は知らないんだ」
「…〜!」
先程の穏やかな微笑みとは少し違う。若干口角が上がったような…!
(もしかして…バレた!?)
私の顔は赤くなり、もうどうしたら良いか分からない…きっとそんな顔をしているはずだ。
(…もうおしまいです…)
きっとCEOはこの事実を室長に伝えるはずだ。そしてそれを知った室長は…
――コンコン
「はい?」
突如CEOの部屋がノックされ、驚き過ぎた私の心臓はバクバクと音を鳴らす。
「失礼致します」
「あ、黒崎くん」
「!!!」
そしてまた入ってきた人物に驚き、慌て過ぎて持っていたコーヒーカップを落とそうとしてしまった。
「…なぜ戸塚がここにいる?」
「あ、」
室長の無機質な声が頭上から降ってくる。
(そうだった…いつもなら由紀の筈なのに)
もう、全てがバレた。何もかも終わった。CEOにはベラベラ話しかけて、仕事もしないで…
「…僕が呼んだんだよ。ちょっと聞きたい事があってね」
私が下を向いていたら、CEOが話し始めた。
「CEOが?」
「そう。パワハラ調査」
怪訝な室長相手にCEOはしれっとした態度で室長に話す。
「…私の事ですか?」
「戸塚さんはよく頑張ってくれてるよね。戸塚さん、いつもありがとう」
おずおずと頭を上げた私にCEOが目線を合わせる。そして全てを悟ったように穏やかに微笑んだ。
「いえ…」
「もし何かあったら遠慮なくいつでも言ってね。本当に些細なことでも構わないから」
そう言ったCEOの表情は先程とは少し違っていて…。
「はい。ありがとうございます…」
CEOに全てを知られてしまった。そして、それを気にしないように根回しとフォローまでしてくれるとは。
さすが、我社のトップだ。
「僕も話し相手がいると楽しいから」
「…ありがとうございます…」
CEO相手に遠慮なく話になんていけない。それを見透かしたように付け加える。気遣いの達人だ。…確かにここまで言われたら、ちょっとならいいかな?と、思ってしまった。
なんとかこの場は丸く収まった。全てはCEOの機転のおかげだ。