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第13話 私は誰よりも最愛のダーリンの事を理解しています!


「そんな黒崎くんも戸塚さんと付き合ってから変わったよね!?」


私の怒りを遮るようにCEOが間に入る。


「過去も捉え方一つでいい風にも悪い風にも自分で出来るから。そんな過去があるからこそ今、戸塚さん一筋なわけだし!」

「CEO…」


酔っ払ってると思っていたCEOからフォローされる。この人はいつもフォローの達人。


だけど私はCEOからフォローされたいわけではない!


「…室長。言葉にして言って下さい。今ここで」

「何をだ」


目の座った私は真っ直ぐと室長を捕らえる。室長に動揺の色は感じられない。いつもの無機質な視線を私に向ける。


「〝今は真紀子だけだ〟です!」

「アホか」

「〝これから先は真紀子だけだよ〟でもオッケーです!」

「くだらん」

「はあっ!!?」

「まあまあ、二人とも…。こんなにギャラリーがいたら黒崎くんがかわいそうだよ。もうお開きにしよう。ここから先は二人で話し合って」


完璧に二人の世界に入っていたらCEOが間に入る。


「えー!?チューは?」

「塚本くんは真っ直ぐ家に帰りなさい」

「えー!次行きましょうよー!」





結果、お開き。


私は幹事として何もせずに、いつの間にか会計を済ませていたCEOからまたしてもご馳走になり、室長と共にタクシーで帰る。



✽✽


「ほら、水」


そのまま室長のマンションへとやってきた私はソファーの上で体育座り。水を差し出されたが受け取らない。


「いつまでそうしておくつもりだ」


室長は水の入ったグラスをテーブルに置いた。


「ヤキモチです」

「……」

「…ジェラシー」


体育座りしている膝の上に顎を乗せる。



知っていた、室長はモテることを。


…だけど、悔しい。


「〝今は真紀子だけだ〟…これでいいか」

「……」


先程言ってほしいと頼んだ言葉を口にする室長。


私の心は晴れない。


だって…


「そんなにも心無い愛の言葉は無価値です……」


いつもの、抑揚のない無機質な声。


それは私の望みではない。


「…お前がそう言えと言ったんだろう」


そして少し怒ったような室長の声。


「…う〜」


膝に顔を埋めて泣いてしまった。


私は結局この人の何なんだろう。


最初は彼女になれただけで嬉しかった。

不器用な優しさに触れて愛しかった。


――愛されていると…信じていた。


「私だけが、室長の事を好きなんですね…」


(結局の所…そんな感じ)



「それは私への侮辱だな」



恐れていた、冷酷な…声。


「それだけ喋れるなら歩けるだろう。タクシーを呼ぶから帰りなさい」


そう言って、スマホを取る気配がした。


「…っ室長!!ここは後ろから抱きしめるのが正解です!」


私は勢い良く顔を上げ室長を目で捕らえる。


「そして…〝そんな事ない、愛してる〟って…」


室長の冷酷な目と合って…俯いたら涙が頬を伝って落ちた。


「私にだけは…して下さい…」


この人の特別になりたい。それが願いだった。


人を寄せ付けない室長はきっと今まで、こんな状態になるまで女性と一緒にいなかった事だろう。


だからきっと…この状況は室長に取って初めてなはず……


私は…この世でただ一人…室長のそれまでの女性になれたと……信じたい。


「…室長だって……私の事好きなはずです……」


先程の否定を撤回する。


だって…そうでしょう?


室長への侮辱って事は……


「……私の事をよく理解してるじゃないか」


――キュッ


優しく、優しく抱き締められた。


……前から。


「う〜」

「おもしろい顔だな」


軽くゆとりのある抱き方に変わり、顔を覗かれる。


「ひどい…」

「女の泣き顔に笑わされるのは初めてだ」


私の悲しかった気持ちも止まった。



無表情の室長が…


私に


微笑んでる。



「そこは〝女性〟です…」

「そうだったな。それから?」

「〝真紀子だけだよ〟です…」

「ほう」


おもしろそうに笑う室長に少し。不貞腐れた私。


「…言わないんですか?」


おずおずと室長を見上げる。


「…お前は、追う」

「え?」


愛の言葉を待っていたら、検討違いの言葉が降って来た。


…追う?


どういう事?



お前は…


私は、追う…


私は…


――あ…!



〝来る者拒んで去らぬ者追い払う〟



「…私は…去っても…追いかけてくれるんですか?」

「去るのか?」


勝ち誇ったように室長が笑う。



〝お前は、追う〟



これが…



室長の最上級の愛の言葉。




「去ると思っているんですか?」


私の涙はもう止まっている。私も勝ち誇ったように室長を見る。


「…愛してる」

「――っ…」


――キュー


真っ直ぐ見つめて、言われた。そしてすぐに顔が見えないように抱き締められた。


「…私も愛してます」


手を回して私も伝える。


「室長の顔が見たいです」


冷酷で無機質な氷の室長は…きっと今、私しか知らないかわいい顔をしていると思う。


「…〝真紀子にだけだぞ〟」


そう言って、顔を見せてくれた。



――ほら、


やっぱり。



この人は言葉を知らないだけ。

それはこれまで人を寄せ付けなかったからで…。


覚えたら……


ちゃんと言ってくれる。



「私のどこが好きですか?」


私は調子に乗って、今なら!とチャンスを逃さず聞いてみる。


室長は…難しい顔をして…


「ふてぶてしいところだ」

「なんですか、それ」


私もおかしくなって笑った。


「………これから先も…お前だけだ」



私はいつも、この大好きなダーリンに



――地に落とされ、天に登る。

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