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第7話 これが、私の自慢の彼氏

ももちゃん達と駅で別れて、一人。

自宅の最寄り駅にたどり着いた。


金曜日の夜はカップルばかり。


私は虚しい気持ちを持ちながら一人改札を抜ける。


(きっと、室長はもう帰国してる。連絡も無いって事は…)


一人の週末…


ネガティブな気持ちを抑え、どうしてこうなったかを考える。


「電話…出てくれるかな」


元はといえば付き合いたてのこの時期に合コンを断らなかった私が悪い。


「はあ…」


出てくるのはため息ばかり。私はがっくりと肩を落とし駅構内を歩く。




「秘書が下を向いて歩くな」



……


………え?



突如聞こえてきた声に驚き、慌てて顔を上げる。


この声は…!


「し、室長!!?」


目の前にいたのは


最愛の、ダーリン…


「遅い」

「え?…えっ?ど、どうしてここに…?」

「木崎だ」

「え?由紀が…何か?」

「私が会社に帰り着くのを待ち伏せしていてな。時間と場所を聞いてもないのにベラベラと…」


由紀がそんな事を。もしかして…


「待ってて…くれたんですか?」


直くんみたいに、ずっとここで…


「私がそんな非合理的な事をすると思うか?」


そう言って室長は指を指した。その方向には…


コーヒーショップ…。


「…室長、ここは嘘でも〝ずっとここで待っていた〟って言うところです」


この感動が少し薄れてしまった。コーヒーショップでコーヒー飲みながら待ってて、私が見えたから出てきた、と。


「…お前ごときになぜ嘘をつかねばならん」


何その俺様…


「ふ…。室長嬉しいです。ありがとうございます」


今のは貶して言った言葉では無い。信頼して言った言葉だ。

だから…つい、可笑しくて…


笑顔になった。


〝私には嘘をつかない〟って…


そう言う意味だ。


「…今日、直くんの奥さんにも来て貰ったんです」


私も室長に嘘はつかない。


「知っている」

「あ、由紀から聞きました?」

「…店のビルの前でずーっと待っていたからな」

「見たんですか?」


…ということは


「本当は店の前まで迎えに来てくれたんですね。ありがとうございます」


だけど、先に直くんがいたから、このプライドの高い彼氏はそこで一緒に待つとか、見つかるとかが嫌だったのだろう。


「…私は直くんほど忍耐強くは無いからな」

「二時間何もせずに待ってるなんて出来ないですよね」


うん、確かに忍耐強い。


「ボケっと突っ立っているなど非合理的の極みだ」

「私は…そう言う室長の方が好きです」


ももちゃんを見て、いいなぁと思った。

羨ましいと思った。


だけど、私なら手放しで喜べないって今になると分かる。


私なら、きっと後で長い時間待たせてしまった罪悪感に駆られるだろうから。


だから…


室長が時間を潰せる場所で待っていてくれて、良かった。



温かい場所で、ゆっくりコーヒーを飲みながら、きっと愛読のビジネス書を読みながら、待っていてくれた。



…私が、後で気にしなくて済むように。



さっきまでの気持ちもどこかに行ってしまった。私は室長の不器用な気配りに簡単に高揚する。



「…室長、合コン行ってすみませんでした」


改めて、伝える。


「お前は押しに弱いからな」

「はい…」

「こうなる事は想定内だ」

「以後気をつけます」


次からは私も、ももちゃんみたいにしっかりと信念を持って伝えよう。


「出張でお疲れの所、ありがとうございました」


会いに来てくれて。


「…お前はこの私が彼女の称号を与えたんだ」

「はい?」


何?急に。


「もう少し、その称号に自信を持て」


………へ?


「じゃあな」

「えっ!?ちょっ、ちょっと待って下さい室長!」


くるりと背を向けて帰ろうとする室長を止める。


ここで帰す訳にはいかない。


この照れた俺様を…


見逃す訳には……


いかない。



「室長!今日は金曜日です。恋人同士なんですからもう少し一緒にいましょう!」


私はこの人にまた…


「…今日と明日だけは付き合ってやる」


地に落とされて、天に昇る。


「泊まって行って下さいね」

「…仕方ないから24時間は付き合ってやる」

「日曜は?」

「株だ」


こんなラブラブな雰囲気なのに、氷の室長の声は抑揚が無い。


だけど私の気持ちは最高潮…!


「合コンがどうだったか気にならないんですか?」


私は室長の腕を取って、体を寄せてテンション高く歩き始める。


「その肩の落とし具合を見たらな」

「ひど!これは合コンのせいじゃないですよ!」

「知っている」


室長も当たり前のように受け入れて、歩き出してくれた。


その声は…甘い。


恋人の時間だ。


「結果は友田さんの一人勝ちです」

「あの女豹のどこがいいんだ」

「ももちゃんなんて自己紹介もする隙間なかったんですよ」

「直くんは安心しただろうな」

「室長は?」


(焼きもち焼きました?)


「お前を良いと言う物好きは私ぐらいだ」

「なんですかそれは!」

「これから先、合コンに行っても成果は出ないぞ」

「そうですね。私には室長以外いません!」


素直に言うなら〝だからもう合コンには行くな〟ですよね?

室長の真意を分かる女性も私しかいませんよ?室長。


「出張お疲れ様でした。そちらはどうでした?」


そのまま駅を出て、私のアパートに向かう。


「新規案件が進みそうだ」

「そうですか」


仕事の話をする彼はキリッとしていてかっこいい。内容は教えられないから深く聞けないけど、CEOと対等に渡り合えるのは室長だけ。


これが、私の自慢の彼氏。

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