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第3話 私の気持ち、小さく変化

「ふぅー。いいお湯〜」


独り暮らしのアパートに帰り、お風呂に入る。湯船に浸かり、ようやく仕事から解放された気分になった。


「……やってしまった」


冷静になって、青ざめる。室長相手に話しかけるって、私はなんてチャレンジャーなの!!


「こ、怖かった…!」


思い出して心臓がドキドキする。室長が誰かと話す事は滅多にない。ましてや雑談なんて…。


いつも感情を悟らせない凍てついた人、そんな常に無表情の室長が一瞬だけ見せた驚いたような顔を…ふと思い出した。


思い出すと、何故か胸がポカポカしてきた。あの氷の様な室長の始めて見た表情……

きっとお風呂のおかげで身体が温もったのだろう。室長は恐い人だ。


…室長のように仕事に生きれば、私もこの寂しさを感じなくなるのかな?

今の私は、仕事も恋も…全てが中途半端だ。

生活の為に働くけど、仕事が好きなわけではない。恋はしてみたいけど、傷つきたくはない。


これまでの人生、ずっと脇役だった。

中学の時好きになった人は私の友達の事が好きだった。

高校の時始めて告白した先輩は私の存在を知らなかったし、大学の時始めて出来た彼氏は…私の友達と浮気をしていた。

…今思えば、私が浮気相手の方だったのかも、、。

皆…私以外の人と幸せになっていく。以来、恋愛はご無沙汰。傷つかないように自分をガードしてる。



あの時に比べれば今のままが、一番自分が安定してる。

このままが幸せ、だけど満足出来ない。


…ああ、中途半端だなー。


―――好きな人に愛されたい。…いないけどね、好きな人。




✽✽✽


「おはようございます」


出社すると、黒崎室長は既にデスクに座って、仕事をしていた。


朝早くて、夜遅い。大丈夫なのかな?体とか。

激務ながら、一切シワの無いシャツにピシッとしめたネクタイ、そして冷たい印象を与えるシルバーカラーのスーツ…この人、実は人間じゃないのかも。


昨日の今日でこの隙のなさは…益々恐い。


「真紀子ー!おはよう」

「由紀、おはよう」


室長からの返事が無いまま、由紀に声をかけられ、体を由紀の方に向ける。


「昨日はあれからすぐに帰れた?」

「あー、うん、ぼちぼち」

「室長もさ、定時に帰るなら部下のミスフォローしろっての!ね、真紀子?」

「え…」


由紀からボソボソと耳打ちされ、その内容に驚いた。

室長の事を誤解してる…。


「ち、違うの!」


咄嗟に大きい声を出す。


「違うの、あのね!…、」

「真紀子?あ、やば!私今日ポット当番!給湯室に行ってくるね!」

「え、あ、う、うん…」


時計を確認して慌てて去っていく由紀の後ろ姿を見つめる。


(私、なんでこんなに焦っているの?)


ただ、由紀に室長の事を誤解されたくなくて…、室長は仕事で定時に抜けて、それから戻ってきた。それから私より遅くまで仕事をして――…


それを由紀にどうしても伝えたくて。普通に伝えればいいだけなのに、何故かものすごく弁明したくなって…。


駄目、自分が分からない。


「戸塚」

「は、はいいぃぃ!!」


突然背後から呼ばれ、肩を震わせる。この声は室長。まさか先程の話を聞かれ――


「昨日のスケジュールだがな、今回は大丈夫だ。これで進めてくれ」

「…はい」


何か言われるかと身構えていたら、いつも通り淡々と仕事の要件だけを告げられた。


(聞かれて無かったのは良かったとして、…あれ?私何かがっかりしてない?)


何かを期待していたんだろうか。室長に?

室長は変わらずいつも通りだったのに、何でこんなに落ち込んでるの?怒られなくて良かったじゃない。本当ならホッとしてる所なのに…


室長の席まで歩いて行き、昨日私が修正した役員の取りまとめスケジュールを受け取る。私が受け取ったのを確認した室長はそのまま目線をパソコンに戻し、作業を再開した。


私も、踵を返して仕事をしよう。もう就業時間になっている。…


「…あの、」

「…なんだ?」

「あ、えーっと、その…」

「…要件は纏めて手短に言いなさい」


無意識に話しかけた為に、何を話したら良いか分からない。室長の目線がパソコンから私に移動する――恐い。この無機質な目で見つめられると、恐怖に足が震える!


「あ、えっと、そ、そう!昨日は遅くまでお疲れ様でした!!」

「…」


回らない頭を叩き起こして、ぱっと思い出したように声をかけた。室長の表情は変わらず、じっと私を見つめている。


「い、いつもあんな時間まで頑張ってらっしゃるのですか?」

「それを聞いてどうしたいんだ?」

「…え?」


怒られなかった事をいい事に、会話を続けようとしたら冷たい声色が返ってきた。


「どう…とは…」

「私に無駄口を叩く暇があったら、早く仕事に取りかかりなさい」

「す、すみません…」


あまりの冷徹ぶりに背筋が寒くなり、慌てて席についた。

先程までの自分の行動を思い出して改めて背筋が凍る。


(鬼の室長を前に自分からまた話かけるって…!)


触らぬ神に祟りなし。なるべくかかわらず、そつなく…そういう関係でしかない、私と室長は。


それなのに…

やっぱり私は、何かおかしい…


落ち着いて、落ち着いて考えよう…


室長が気になる、恐いのに。

室長に話しかけた、恐いのに。

それは…何を望んでいたの?


…話しかけて、返事を期待してた。期待してたんだ、私。


どうして?それは…

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