第6話 悲しい気持ちのまま始まった合コン…
翌日、三井さんが秘書室に返事をしに来てくれた。
室長はCEOと出張。今日から金曜日まで会社にはこない。
私達の間は未だに会話も電話のやり取りも無い。
「戸塚さん」
「はい!」
「今回こっきりという事で」
目を閉じて地蔵のような無表情の三井さん。
「いいの?ありがとう!」
なんであれ、人数確保!良かった!
「…直くんは大丈夫だった?」
三井さんも私と室長のようになっていたらどうしよう…
「先輩からのお誘いなら仕方ない、とのことです」
「…そっか…」
どうしよう。二人に悪い事したなってこと以上に私が悲しくなってしまった。
〝付き合いもあるだろうから、話し合って〟
…この二人に焼きもちやいてる。羨ましい。
きっと、CEOも直くんも一緒に考えるパートナーだ。
私達とは違う…。
なんだか…それが無性に悲しい。
「本当にごめんね。食べるだけ食べたら帰ろうね」
「はい!たっぷり食べます!」
屈託のない笑顔にますます卑屈になる。直くんとの間に蟠りが無い証拠だ。
私達とは違う。
違う…!
「戸塚さん?」
「あ、ごめん…」
つい、考え込んでしまった。慌てて三井さんに向き直る。
「戸塚さんは良かったですか?室長の了承貰いましたか?」
「…」
私を気遣っての三井さんの言葉にどう返事をするか迷う。
なんて言えばいいの?
私達は貴方達と違って、その件で仲違いしてますよ。
なんて。
…そんな事言えない。ますます私が惨めになる。
「うん…。三井さん、下の名前なんて言うの?」
無理やり話題をそらす。
「百子です!」
「かわいい名前だね。…ももちゃんって呼んでいい?」
「はい!嬉しいです!」
そう言われてますます卑屈になる。
行きたくもない合コンに無理やり誘った私に、屈託なく笑顔を向ける、ももちゃん。
愛され女子。私とは違う。
室長との仲が上手くいかないのも当たり前だ。
悔しい。
悔しい…!
✽✽✽
「「「カンパーイ!!」」」
そして始まった合コン。私は室長と連絡すら取っていない。
合コンの為、定時ダッシュした。出張だった室長は戻りが夜になるそう…。
「じゃあ、自己紹介を…」
「あの会社の秘書さんって本当ですか!?」
男性の音頭で自己紹介が始まる。うちの会社の秘書ってそんなにブランドがあるのかな…男性陣が瞳を輝かしている…。
「戸塚真紀子です…秘書室秘書課勤務です…」
当たり障りない自己紹介をして無理やりテンションを上げる事も出来ず、早々に料理を口に運ぶ。
「友田鞠子、社長秘書ですわ」
中央に鎮座する友田さんは夜になり昼間以上の妖艶さを醸し出している。
「社長秘書!」
「友田さんお美しいですね!」
「友田さんは出身大学は!?」
…相手側の男性陣が一斉に友田さんに目を輝かせて話しかける。
…あれ?
あれ〜〜…!??
✽✽
「友田さん、是非もう一軒!」
「いや、友田さん!是非僕と!」
「友田さん…!」
…
あれから男性陣は友田さんに食いつき、私から始まった自己紹介も、ももちゃんまで行くことなく…
友田さん一人勝ち…。
…や、いいのよ。
友田さんはフリー。私とももちゃんは相手がいる。
…いるんだから!
「ふふ。皆様落ち着いて…。抜け駆けなんて…いやよ」
「「「と、友田さん…!」」」
よ、妖艶!!なんか鼻血でそう!凄い!
「では、私は殿方ともう一軒…」
「あ、私とももちゃんはここで!お疲れ様でした!」
友田さんに挨拶をして別れる。
「ももちゃん、来てくれてありがとう」
「いえ!美味しかったので満足です!」
私とももちゃんは話しながらテナントビルのエレベーターを降りる。
「あ!直くん!」
エレベーターが開いた瞬間にももちゃんが走り出した。
開いたエレベーターはすぐに歩道に隣接している。
視界には行き交う人々、歩道のガードレールの前に…
CEOの弟、直くんがいた。
「…お疲れ様です」
「あ、お疲れ様です」
ももちゃんの後を追って、直くんに近づくと挨拶をされた。
…恐い。これ怒られるパターンかな?〝俺の妻を合コンに誘って!〟みたいな…
「直くんずっと待ってたの?」
「…仕事終わったから」
嬉しそうに直くんを見上げるももちゃん。ぶっきらぼうな言い方だけど、約二時間近くここで待っていた事になる。
…羨ましい。
「…いつも兄がお世話になっております」
怒られるかと思っていたが、挨拶をされた。
「いえ、こちらこそ…」
どうしよう。泣きたくなってきた。
ううん、今泣きたくなったわけじゃない…本当はずっと泣きたかった事に今気づいた。
室長と喧嘩してから…
私、ずっと泣きたかった…
…悔しい。泣いてなるものか…!
「いつもCEOにはとても良くして頂いております」
「そうですか…」
「本日は奥様をお借りして大変申し訳ございませんでした。今回のみですので、ご容赦下さいませ」
私は秘書然とした態度でなんとかその場をやり過ごす。
「直くん、お料理とっても美味しかったよー!皆様飲んでばかりだったからね、沢山食べた!」
私の気持ちと正反対のももちゃんの明るく楽しそうな声。
パートナーに愛されていることを確信してる…そんな声。
「あの…妻がご馳走になったと伺いました。お代を…」
「えっ!?いいですいいです!無理やり来てもらったので!」
「いえ、そんな訳には…」
直くん、律儀で真面目だな!
「寧ろいつもCEOにご馳走になっているのはこちらなので…!」
秘書室で行われる飲み会は基本的にCEOが支払ってくれる。
だけど断る理由はそれじゃない。
ここでお金まで貰ったら私はもう立ち直れない。
…惨めさから。
「じゃ、じゃあももちゃん、今日は本当にありがとう!直くんがいるなら帰り道大丈夫だよね。それでは私はここで!」
慌てて早口で話す。早く一人になって、この虚勢を解放させたい。
「えっ?戸塚さん駅まで一緒に行きましょう!もっとお話したいです!」
ももちゃんが明るく声をかけてくれる。
「いやいや、金曜日、デートでしょ?後は二人水入らずで…」
「…戸塚さんが宜しければ駅まででもご一緒してくれませんか?」
直くんに声をかけられる。
「夜道に女性一人は…ちょっと…」
「…」
恥ずかしそうに…照れながら直くんが続けた。
「CEOと一緒でジェントルマンだね…」
室長はそんな事しない。
「…え?」
「あ、照れるんだ」
お店の灯りも強く、街灯もある。直くんが赤くなっているのは充分認識出来た。
CEOみたいにサラッとやってのける子じゃないんだな。
なんだかかわいい後輩だ。
笑顔になってきた…。
「戸塚さん、駅まで一緒に行きましょー!」
「うん、ありがとう」
泣きたい気持ちだけど、この二人の好意を受け取ることにした。
自分の奥さんを合コンに誘った女になのに、優しくしてもらったからかも知れない。
いいなぁ。
きっと直くんは先輩命令だから仕方なく了承した。だけど、ちゃんとももちゃんの事を愛していて、心配だったから、お店の目の前で、ずっと…待っていた。
…いいなぁ。
いいなぁ。私もそんな事されてみたい。
室長の…バカ…




