第5話 合コンメンバー、人選入りまーす
ランチタイム。私と由紀は相変わらずピリピリとした雰囲気を壊すことなく、一言も喋らずに会社のカフェスペースへと座る。
「…」
「…」
喧嘩していたとしても、変わることなく一緒にお弁当を広げる。
それが…私達の絆だ。
「…メンズにはこの会社の秘書って伝えているから」
「…残り二人の女子メンバーは?」
由紀が先に話出したが、お互い不貞腐れた態度のまま視線を交わさず要件のみを言い合う。
「決まってない。後二人未調達」
「後もう3日しかないよ」
今日は水曜日。合コンは金曜日だ。
「真紀子…友達…」
「…」
はぁー。そこからか。もういい。仕方がない。
室長も何も言わないんだし。私は行くかもと報告はしたし。
拝啓CEO。彼氏に相談したら彼氏との雲行きが怪しくなりました。世の男性は…どうなんでしょうかね。
「…分かった。私と、あと二人ね」
私は吹っ切れたように、由紀に向かって微笑む。
「いいの!?真紀子!」
「…これっきりだからね」
「勿論!ありがとう〜!これで私の顔が立つわ」
そもそも由紀がいなかったら室長と付き合えてもいない訳だし…。
「後二人…誰かいるかなぁ」
まだ問題は残っている。
「うーん。メンズ側は〝秘書〟の響きに食いついてたからなぁ」
秘書、かぁ…。誰か…
「…あ、友田さん!!」
秘書、で思い出した!我社の秘書の鏡!社長秘書の友田さん!
「友田さん!?合コンとか行かなそうだけど…。てゆーかあの人、人間に興味あるの?」
「聞いてみる!」
そうよ、友田さんがいた。友田さんの好きな人はCEO。だけどそのCEOは結婚して、友田さんは今さぞ傷心なはず!
適役がいたじゃない!
✽✽
「合コン?」
「はい。金曜日なんですけど…」
昼休みが終わり、友田さんの作業スペースを訪ねた。
「人数が集まらなくて…お願いします!」
私は深々と頭を下げる。
「ふふ。良いわよ。金曜日なら私も暇してるから」
「本当ですか!?」
よし!一人ゲット!
「お酒でも飲みたい気分なのよ…。殿方に付き合って頂こうかしらね」
「…ははは」
憂いを帯びた妖艶さと真っ黒な影を感じる言い方に、背筋が寒くなる。
「CEOも…結婚してしまいましたからねぇ…」
CEOに憧れる我社の女子は多い。その中で、きっと一番身近で手の届く所にいたのは友田さんだ。同じフロア内にいたのだから。
だからこそ、友田さんのショックは大きいだろう。
「…何の話?」
「ヒッ!な、何でもありません!!」
恐ろしいまでの低い声に背筋が凍った。
何はともあれ、後一人…
✽✽
友田さんと別れ、自席に戻ってきた。室長はCEOの外出に同行の為、空席である。
「…」
(室長のバーカ!)
自席にいないのを良いことに、室長の席に向かって悪態をつく。
後一人…
(うーん、誘えそうな人…)
私の人脈を総動員して探す。
私の大学時代の友達は皆、会社違うし、既婚者だし、秘書ではないし…
(うーん。この際人数調整で良いから誰か…)
由紀の話だと、うちの会社ということで男性陣が食い付いてきたらしい。そして更に秘書と聞いて乗り気になったらしいし…
(だけど、もう秘書室に適役は…)
いない。
人数集め。友田さんもいるんだし、もう秘書じゃなくても良いかも…
うちの会社の人…会社の…
…あ、CEOの奥様…
以前デート中なのを見かけた事がある。なんか綺麗な人だった。CEOの横でにこやかに微笑んで…
いける。秘書にも見える!
よし!CEOが戻ってきたら…!!
「………はぁ」
駄目に決まってるじゃない。それをCEOに言える?
…伝えて、どんな反応を示すのか見てみたいけど。
パートナーを大事にしてる人の反応を…。
「…」
やばい。悲しくなってきた。私が大事にされてないって潜在意識に植え付けてしまいそう。
大丈夫。私は室長の彼女。
…大丈夫……。
だ…
「こんにちは!総務部です!」
大丈夫と心の中で自分に言い聞かせていると、秘書室には似つかわしく無い、明るいポップな声が響いた。
(…この声は……)
「三井さん!」
CEOの弟の直くんの奥さん!
「頼まれてた備品届きました!」
「ありがとう。こちらで受け取るね」
私は三井さんの前まで行って備品の入ったダンボールを受け取る。
…
……
あ。
「それではお邪魔しました!」
「ちょ、ちょ、ちょ…っと!三井さん!」
「はい!」
明るい…元気な声。
人の良さそうな…笑顔。
断るのが苦手そうな…年下!
「み、三井さん…今週の金曜日って…暇?」
私はターゲットを絞り恐る恐る聞いてみる。
「金曜日は毎週直くんとデートです!!」
「あ、そっか…」
すっごく明るくて…楽しそう。こっちにまで伝わってくる。
「直くん王子がディナーをご馳走してくれて、お花をプレゼントしてくれるんです!!…くふっ。うふふ」
「あ、そう…」
…なんかこっちは室長と色々あって傷心中なのに、そんなに幸せオーラ出されると、さぁ…。
「三井さん、金曜日合コンがあるんだけど、実は人数が足りなくて…出席出来ないかな?」
職場の先輩に頼まれたとき、この子はどう答えるのか。それも気になった。そして…ちょっとラブラブな所に八つ当たり。
「出席とは?」
思っていたより冷静な返事。
「男性三人、女性三人で、私と社長秘書の友田さんで、あと一人…三井さんにお願いしたいの」
「………なんとっ!!」
「わぁっ!!」
一瞬目が点になったかと思えば、あまりにも大きな声を出してびっくりした…!社長に確実に聞こえたかも!
「それは合コンというやつですね!?」
「うん、さっきからそう伝えてるけど…」
「私には直くんという!この世の神秘!である素っっ晴らしい旦那、夫、主人がいます!!」
「う、うん…ごめん、ちょっと声のボリューム落とそうか」
「はっ!す、すみません…」
「いえいえ」
「戸塚さんも…室長という恐い彼氏がいるのでは?」
「…恐い、余計ね」
一瞬にして場が凍った。はっきりと言う子ね。
「仕方ないのよ。今回ばかりは。三井さんも私を助けると思って…」
さあ、先輩にこう頼まれたらどう出る!三井さん!
「行きません。私は直くん一筋です!」
…
自信満々に、堂々と返された。
〝そこにお前の意志はないのか〟
…室長の言いたかった事はこれ。
悔しい。
「そんなの分かってるよ!でも人数調整だからさ!」
だからといって、私ももう後には引けない。
私は…何がなんでも、この飛んで火にいる夏の虫を捕まえる!
「無理です!」
「そこをなんとか!」
「駄目です!」
「二時間ちょっとだから!」
「嫌です!」
「ご飯食べて、お酒飲んで帰るだけだから!」
「…ご飯?」
…?頑なに断ってた三井さんの態度がちょっと緩んだ…。
「あ、うん。新しく出来たダイニングバー知ってる?コース料理に二時間飲み放題でね」
「あ!あそこのダイニングバーですか!?」
お、食い付いた。これはいけるか?
「そうそう。お洒落で美味しそうだよね。今回は私の奢りだよ。来てもらえるなら」
「タダでダイニングバー…」
「…コース料理のメニュー、見る?」
「…!」
目が輝いている…。
私は自席に置いていたスマホを持って三井さんに見せる。
「おおお美味しそう〜!」
「でしょ、でしょ!?これ6人以上からしか頼めないコースだから、直くんと二人だと食べられないよ?」
目の輝きに一筋の光を感じて、食事内容で攻める作戦に出た。
「…お返事」
「うん?」
「お返事明日でもいいですか?直くんに聞いてみます」
こ、これは!
「勿論!私を助けると思って宜しくね!」
「はい。助けてタダ飯…フフ…」
三井さんは明らかに顔つきが変わってる。これはいけるかも!
後は直くん次第!!
ももちゃんはいつも食べ物にやられています(笑)
他にも『直くんとももちゃん、初恋の行方。』の『第三章 スーパーマン』にて☆
CEO×奥様のデート遭遇の件は『一生に一度の素敵な恋をキミと』の『第二章 第2話 人生初の両思いに四苦八苦、どうやら彼を悲しませてしまったようです。』にて☆




