最終話 無機質で無表情。冷酷上司の裏の顔
「あいにく戸塚が好きなのは私だ。その戸塚をどうするのかは私が決める事だ」
(へ…?)
何を言っているのか全く理解できない。
「…戻るぞ」
独白のようにボソッと呟いた室長が私の腕を取る。
触られた瞬間、きゅーんっと胸が締めつけられる。
…そして、気づいた
分かった…
……室長の不器用な愛情に。
「あ、の!室長!」
私の腕を握ったまま何も話さず、ずんずんと前を歩く室長。
「室長!」
もう一度声をかけると室長は歩くのをやめた。私も立ち止まる。
「室長…」
「とんだ失態だ」
ようやく室長が口を開いた。
「会社で…こんな」
「そうですね」
「戸塚」
「はい…」
呼ばれてドキリとした。室長が真っ直ぐと私を見つめてくる。
その目は…熱い。
「私は浸食されるのが嫌いだ」
「…あ、はい」
てっきり告白でもされるのかと思って胸を高鳴らせていたのに、室長の口から出たのは全く関係ない話だった。
「愛とか恋だとかそんなもの私には必要ない」
「…」
「人に干渉されるなんぞ拷問以外の何物でも無い」
「…はい」
なんか…私の告白を断る理由を探ってるような…
淡々と話す無機質で無表情のいつも室長。
「何にも動じず、感じず…波風なく過ごしたい」
「はい…」
どうしよう…ちょっと期待していただけに、続きが恐い。
室長が必死に断ろうとしている気がして…
「それなのに私は今、戸塚に浸食されている」
「すみません…」
今更、どうしたらいいのだろう。やっぱり要望書だった。
仕事の早い室長がすぐに決済をくれなかった。
…そこで引き下がるべきだったのに。
「この件は…戸塚が関与している」
「そう…ですね」
「どう責任を取るつもりだ」
「どうと言われましても…」
(どうしよう…どうしたらいいの?)
分からなくて俯く。
「昨日までの威勢はどこにいった」
「…」
「あんな要望書を寄こしてふてぶてしい態度を取っていたが…随分としおらしくなったものだな」
俯いていて室長の表情は分からない。
室長の声だけが私を支配する。
だけどその声が…私を責めている声では無い事だけは分かった。
だって…
室長の声が…柔らかく、甘いから――
(どういう事?室長は何を望んでいるの?)
「…ふてぶてしくなったのは室長が関与しています」
「ほう」
「その件については室長が責任を取るというのはいかがでしょう…」
甘い優しい声に導かれるように、私の口からつらつらと言葉が出る。
「そうだな。戸塚が私を好きになったのは私が原因だからな」
弾かれたように私は顔を上げ室長を見る。
(あ…分かった…)
そんな顔を見せられたら…
「…なんとも俺様な告白ですね」
無機質で無表情の室長の表情。きっと分かるのは私しかいない。
「私はまだ何も言ってないぞ」
「目は口ほどに物を言っております」
「随分と大きく出たものだな。後で返り討ちにあっても知らんぞ」
「…返り討ちにあうんですか?」
「…」
上目でおずおずと伺うように室長を見つめる。
「あわない。私の事が好きならそれくらい熟知しておけ」
「…〜!」
私は顔をくしゃくしゃにして笑いと涙を堪える。
冷酷で無機質で無表情。鬼と噂される、氷の室長――
なによ。
――ただの俺様じゃない…!
「室長を浸食した責任取って…付き合ってあげます、室長!」
なんとも言えない高揚感に、満たされた。
✽✽✽
「――あ、友田さん…」
「お疲れ様」
それから数日後、私は自分のお茶を汲みに給湯室へと足を運んだ。すると、先客には社長秘書の友田さん。
友田さんはいつものように妖艶に微笑む。
「あの、先日はご迷惑おかけ致しました…」
「うふふ、良いのよ。戸塚さんが幸せなら。…苦労はするでしょうけど」
「ははは…」
最後の一句、物凄くドスの聞いた声だったような…
「…友田さんの好きな人ってCEOだったんですね」
「ええ。…入社して一目見て以来、私の心は彼の奴隷よ…」
そういう友田さんの雰囲気が非常に恐い…。
何か明るい方向に持っていかないと…!
「〜CEOのどこが好きなんですか!?」
あぁ…結局話題が変わっていない…どうしよう〜!
「そうね…。あの麗しいお姿…それと社長に、これでもかと罵声を浴びせられてる所かしら」
「へ…?」
「あの美しい整った顔が苦闘に顔を歪めるって考えたら…ゾクゾクするわね」
「…と、友田さん」
恐い恐い恐い…!友田さんって恐い人!…って、ゆーかなんか変な人!
「おい、いつまで喋っているんだ!」
「ひっ!」
給湯室に突如怒号が飛び背筋が凍る。この声は…
「すみません、室長!」
「女性の会話に割って入るだなんて、相変わらずデリカシーのない人ね」
友田さんは冷めた目で鋭く室長を睨みつけ給湯室を後にした。
「…仕事時間中だぞ」
怒られた恐怖はない。だって、今の声と私を見る表情が物語っている。
〝中々戻らないから心配したぞ〟って。
「…友田さんって恐い人だったんですね」
「恐くはない。しつこいんだ」
幼なじみ、お互い旧知の中なのだろう。
「テストの結果が私に負けるとキーキー騒ぎ、リベンジするまで蛇のように付きまとう女だからな」
「今言われると…なんかわかるような気がします…」
「あれ以来、私は人に干渉されるのが大嫌いになった」
…え?
「え?…で、では室長の思想の中核を築いたのは友田さんという事ですか!?」
なによ、それ。彼女として納得出来ない!
「なぜそうなる。解釈もそこまで飛躍すると芸術だな」
「元美術部ですから…ってまたこのパターンに持って行く気ですか!?」
「仕事時間中だ。プライベートを挟むんじゃない」
ええ〜!これ絶対はぐらかすパターンだ!
「…では室長。このまただとプライベートを仕事に持ち込みそうですので、そうならないように協力して下さい」
「…なんだ」
「私はもう本当の彼女なんですから〝愛してるよ〟って言って下さい」
その冷酷な顔を崩して私にもっとデレて下さい。
私これまで奮闘して来ましたよ?
ね、室長!
【完】
ご覧頂きありがとうございました(*^^*)
社長秘書の友田さんもシリーズ小説
〝一生に一度の素敵な恋をキミと〟に出演しています。
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