第20話 私の告白の返事は…?
今のままだと室長は私の気持ちに応えてはくれない。
だから、これまで決定的な言葉を使わなかった。
(言ってしまった…)
室長の反応が恐くて俯いたまま、室長が話し出すのを待っている。
これからどうしたら良いのかわからない。
「…」
「…」
暫しお互い無言が続いた。流石に不安になる。室長は何を考えているのか…
「あのー…」
「…帰るぞ」
暫くして室長の声が聞こえて来た。え?返事は?
「待たん、急げ」
焦ったような怒ってるような…声。私は慌てて追いかける。
(あ~もう駄目だ。完璧にやってしまった、しくじった!)
都合のいい女が意見した。
調子に乗って…私は大失態を犯してしまった。
✽✽✽
あれから気まずいまま室長と別れた。
翌朝気持ちを引きずったまま出社し、仕事を始めた。
室長も変わりなく出社し、仕事をしている。
私は目線だけを微かに動かし、室長を見つめる。
(なんの感情も分からない…)
昨日まで分かっていたのに。あの無表情の奥の感情を…
じっと見ていると室長が席を立った。私は慌てて目線をパソコンに向ける。
朝、室長はCEOに1日のスケジュールを伝える。きっとその為にCEOの部屋に言ったのだろう。
「戸塚ちゃーん!やっほー!」
「総務部です。備品を持って参りました!」
仕事をしていると声をかけられ振り向く。そこにはチャラ男と評判の我社の営業部長の塚本部長と…
(あ、この子…!)
CEOの弟の直くん!…の、奥さん!えーっと…確か本田さん!あ、違う、結婚したから三井さん!
「ありがとう。こちらで受け取るね」
二人の元に歩いていき、頼んでいた備品を受け取る。
「どうぞ!」
「いやー、本田ちゃんが重役フロアに行けねーっつーから一緒に来てやったんだ。俺優しくね?戸塚ちゃん!」
「はあ」
この営業部長はいつもこんなノリだ。
「ちょっ!塚本部長!私頼んで無いです!ただちょっと…秘書の美人さん方にお会いする勇気を貰いに直くんの所に行ったらたまたま、塚本部長が出現したんです!!」
「経営企画部恐いよなー?俺も直くんと遊ぼうと思ってたけど近寄れ無かったわー」
「はあ」
良く喋る人達だなー。相槌を挟むのがやっとである。
「いいえ!直くんの周りにはお花が咲いていました!一面!」
「咲いてねーよ。ほんと朝からおもしれーな本田ちゃんは」
「塚本部長、私はもう本田ではありません!直くんの奥さんです!!」
…他部署に来てここまで大声を出せるとは。
(社長は聞いて無いわよね?怒りそう、怖い怖い)
「戸塚ちゃーん、俺腹減ったー」
「あ、お煎餅ならありますよ」
「いるいるー!戸塚ちゃん優しいなー」
「褒めても何も出ませんよ」
「いやー、お嫁さん候補だわー。俺とかどう!?」
「なーに、言っているんですか…。はい、お煎餅。三井さんも良かったらどうぞ」
このチャラ男は誰にでもこういう事を言うので軽く付き合いながら、私はデスクの引き出しを開けて持ってきていたお煎餅を二人に差し出す。
「わー、私にも良いんですか?」
「どうぞ。いつもCEOにはお世話になっております」
CEOの義妹。取り敢えず挨拶しておこう。
「なんのこれしき!」
「本田ちゃんちょっと使い方違うくね?」
初見だけど、なんか面白い子だな…。
「あ、CEO来てるー?ちょっかい出して帰ろう」
「CEOは只今自室におります。室長も一緒ですが」
「あっ!!!」
伝えると三井さんが思い出したような大声を上げた。
(だから社長に聞こえると不味いんだって〜)
「もしかして…戸塚さんとは、あの戸塚さんですか!?」
「ん…?どの…かな?」
急に質問された。良く分からない。
「あの室長の彼女とお噂の!です!!」
「え…」
(どこからそんな情報が?)
突然の事に驚きながら、なんと答えたらいいのか途方に暮れてしまった。
昨日のあの雰囲気じゃ…
「えーっ!?あの室長の!?憎いぜ戸塚ちゃん!」
「いやー、あのー…」
「どうやって手に入れたんだよ。あの〝氷の室長〟を!」
「とっても聞きたいです!!」
どうしよう。昨日までは言えた。
私は室長とお付き合いをしています!って…
例えそこに室長の思惑があったとしても、私は確かに幸せだったから。要望書書いたり、ご飯に行ったり…いつか本当にって思って…
「うーん…プライベートだからなぁ。これ以上は社長に聞こえるといけないから、また今度ね?」
「しゃ、社長!こここれはすみません!失礼しました!」
社長のワードが聞いたのか三井さんは引き下がってくれた。
(社長、ありがとうございます)
「ちぇー、じゃあ行こうぜ本田ちゃん。義理のお兄様に会いに!」
「な、なんと!!」
そしてさっきまで面白かった三井さんが急に顔面蒼白に変わった。
「そ、そそそそんな恐ろしい事を!お兄さんのお仕事の足手まといになろうものなど!」
「えー?ならないならない」
「失礼しましたー!!」
三井さんは光の速さで戻って行った。
(なんか…色々意外な子だったな)
「あらら。じゃー俺CEOの所に行くねー」
「はい。どうぞ」
気持ちを切り替え塚本部長をCEOの自室に繋がる廊下へ通す。
(噂になってるのか…)
これからどうするか、考えないと…。




