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第11話 冷酷な彼の優しいところ、知っているのは私だけ

夢のような時間から一夜明けて…


「で?」

「え?」

「「…」」


翌日のランチタイム、よくぞ聞いてくれた!と、私は由紀に幸せだった昨日を語った。


ら、


「え?それだけ?」

「え?内容濃くない?」

「濃くないよ」

「好きな食べ物は結局教えてくれなかったんだけど…ふふっ」

「それだけでそんなに幸せそうに出来るって…ちょろい女」

「ひどっ!何それ!?」

「もう一軒誘ってそのまま…って展開を期待してたのに〜」

「あ!ほんとだ!もう一軒誘えば良かった!」


あの後すぐにタクシーを拾って室長はCEOとの約束通り私を送り届けてくれた。

いつもより長く側にいた、話せた事に夢中になってて由紀に指摘されハッとする。


「そうすればもう少し仲良くなって新密度も高まり…」

「うわーん、由紀ー!それ先に言ってよー!」

「せっかくCEOのアシストが…。で、室長彼女はいないのね?」

「…あ゛」

「真紀子…室長と二人で何話したのよ…」

「…好きな本とか、出身はとか」

「何それ」

「ふふ、全部ぶっきらぼうなんだけど、仕事以外の会話って初めてで」


思い出してまた幸せの余韻に包まれる。穏やかな心とはこういう事を言うのだろう。


「はぁー。先が思いやられる」

「由紀がせっかちなのよ」

「はいはい。で、そこから会話が広がったのね」

「え?私が質問しただけよ?」

「は?えーっと…出身とか聞いたんでしょ?」

「うん、全部〝答える義理は無い〟で返された」


あのクールでぶっきらぼうな所がなんだか堪らなくかっこいい。私を無視しないで、しっかりと全てにそう答えてくれる姿勢に優しさを感じた。


「それでそんなに締まりのない顔してるの?ほんと気をつけないと室長に付け込まれるわよ?」

「由紀…ディスりが酷くなってるわよ」

「鬼も気取らなくて答えたらいいのに。かっこつけてるつもりなの〜?」

「あ、せめて好きな本だけでも!って懇願したらそれは教えてくれたよ?ビジネス書だって」

「うわー。引くー」

「じゃーん!見て見て!今朝コンビニで買って来たの。室長とお揃いのビジネス書」

「買ったの!?」

「へへっ、お揃い」


由紀に見せたそのビジネス書を見て、なんだかとても愛おしく思えてその本をギュッと抱き締める。


「まー、真紀子が幸せそうで安心したわ。室長相手だから泣かされて今日会社来なかったらどうしようと思っていたから」

「由紀…心配してくれてたのね」

「いくらCEOがついてるとはいえ、あの室長だもん」

「優しいよ。…室長は優しい」


ゆっくりと、私には分からないように歩幅を合わせてくれた。きっと私が気にしなくても大丈夫なように。


口に出して言わない室長の優しさに初めて触れることが出来た。


「…そっか。本当に好きなのね、今の真紀子見てすごく伝わって来たわ」

「…うん。好き…」


知れば知るほど好きになっていく。もう止められない。


「よし、じゃあこのままグイグイ突っ走って行こう!」

「うん!頑張る!」

「早速次の予定を入れるのよ!さ、連絡しよう!」

「え?…あ゛。あーー!!!」


私の絶叫が響き渡る。

(そ、そうだ。昨日千載一遇のチャンスだったのに…!)


「真紀子…まさか」

「由紀ー!」


酔った勢いでサラッと聞けるチャンスだった。そして連絡先さえ知っていれば…!


「真紀子って浮かれると周りが見えなくなるタイプだったのね」

「冷静に分析しないで!」


何てこと、どうしよう!連絡先が分からなければプライベートに踏み込めない!


「まあまあ。昨日のその調子だとどうせ〝答える義理は無い〟で終わってるから結果は同じよ」

「…今の室長の真似?」


なんか悪意を感じるモノマネだったような。


「さ、ランチタイム終わるよ。行こう!」

「あ、話逸らしたなー!」


立ち上がった由紀を追い会社へと戻る。



✽✽✽


「CEO、昨日はお疲れ様でした。お供に抜擢頂きありがとうございました」


深々と頭を下げ挨拶をする。今日のCEOは午後出勤。昨日のお礼を兼ねてCEOの自室に挨拶に来たところだ。


「こちらこそついて来てくれてありがとう。ご苦労様でした。疲れてない?」

「はい、元気です!」


(というよりテンション上がりっぱなしです!)


室長と少し仲良くなれた気がしてそれが嬉しい。


「黒崎くんが戸塚さんの事を褒めてたよ」

「え!?」

「黒崎くんは誤解されやすいけど、よく人の事を見てるよね」

「はい!」


秘書室秘書課で室長の事をよく言う人はいない。その中でCEOが室長を…私の好きな人を…褒めてくれた。


なんだかそれが、自分の事以上に嬉しかった。


「…CEOは知ってらっしゃるのですか?」


なんとなくCEOに声をかけやすい雰囲気になって私の気持ちに気づいているのか聞いてみる事にした。


「何を?」

「その…室長の事…」

「黒崎くん?」

「に対する…」


私の気持ちです、やっぱり恥ずかしくて言えない。


「うん?」

「…いえ、なんでもございません!」


…やっぱり聞けない。私のバカ!


「そう?答えられる事ならなんでも聞いてね」

「はい…」


優しい。優しさが滲み出てるCEOは。その穏やかな微笑みをみたら…


「CEOと話していたら、穏やかな気持ちになりました」


スーッと軽くなる感覚。付き物が取れたみたいな。なんか浄化されたみたいな。


「戸塚さんは褒め上手だね。ありがとう、嬉しいよ。戸塚さんのような部下がいて黒崎くんは幸せだね」


…ねえ。やっぱり気づいてますよね?CEO…

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