第1話 鬼と噂される冷酷上司と私の関係
新連載です。直くんとももちゃんシリーズの
〝一生に一度の素敵な恋をキミと〟(過去有りCEO×高プライド女子)に主に出てきていた二人です。
宜しくお願い致します(*^^*)
ここは、東京の一等地にあるオフィス内である。
「おい! いつまで喋っているんだ!」
「「も、申し訳ありません!」」
私、戸塚真紀子(28歳)と同僚の木崎由紀は、降ってきた怒鳴り声に肩を大きく震わせ謝罪した。
声の主は黒崎保(31歳)。我社の代表取締役CEO付き第一秘書兼秘書室の室長である。
「君達は仕事に来ているのかお喋りに来ているのか、はっきりしろ」
「「し、仕事です!」」
細身のシルバーフレームの眼鏡をキラリと光らせ詰め寄られた私達は、更なる恐怖に震え上がる。
給湯室の女子トークが思いの外盛り上がってしまった結果だ。
「そんなに時間を持て余してるなら、私の仕事でも手伝って貰おうか」
「……」
「嫌なら、すぐに仕事に戻りなさい」
彼は私達を冷酷に見下ろし、そして去って行った。スラリとした長身に隙の無い細身のスーツ。その後ろ姿は近寄りがたい雰囲気を醸し出す。
「焦った〜。室長いつもに増して怖過ぎ! ね、真紀子」
「うん……。びっくりした」
「流石に戻ろう。この話の続きはランチタイムね」
「そうだね」
私達は給湯室を後にし、秘書課の自分の席に着く。
室長は既に机について仕事を進めていた。
無機質で、怖い人。これが私の彼への第一印象。……多分、秘書課の人は皆そう思っているはず。
だけど、私は知っているの。一緒に仕事をしていくうちに彼の優しい所を……
嘘です。知りません。
わかったのは恐ろしく合理主義。このくらい。無駄口を一切許さない彼の下で働くのは、苦痛。
ここ、秘書室は一般社員とは一線を画す高嶺の花の部署である。
CEO、社長、専務、常務……錚々たる顔ぶれが軒並み面を構える重役フロアにて、唯一同じフロアにあるのがこの秘書室。外界とは閉ざされ、選ばれた人のみが秘書としてこのフロアにいる事が許される。
さながら……大奥、と囁かれることもしばしば。
(私はそんなに意識したことなかったけど……)
「戸塚」
「はい!」
室長に呼ばれ、私は慌てて返事をし彼に近づく。
「このスケジュール。間違ってるぞ。会議は月曜日だ」
「え? あ! 申し訳ありません! すぐに作り直します!」
「初歩的過ぎて目眩がする。何年目だと思っている」
「申し訳ありませんでした……」
怖い、怖過ぎる。その無機質な声が怖すぎる。
✽✽
「見てみて! これ、CEOからの結婚祝い!」
「わ! あの高級ブランドのシャンパングラス!」
ようやくランチタイムとなり、先程の同僚、木崎由紀と会社を出てカフェでランチ。この度結婚した由紀は、我社の代表CEOから豪華な結婚祝いを貰っていた。
「先輩に聞いてたのよ。CEOは結構良いのをくれるから楽しみにしてなって!」
「ほんとー。いいなー」
「真紀子も合コン頑張ろう!」
由紀と彼は合コンで出会った。私はいつも合コンのノリについて行けず……惨敗。
「……室長って、彼女いるのかな?」
「え? なんで室長? ……! 真紀子、もしかして!」
「え? っ違う違う! なんか……そんな想像すら出来ないから気になっただけで……」
合コンの話から話題を変えようと思っていたら、無意識に室長の話が出ていた。
「そうだよねー。室長の彼女ってちょっとチャレンジャーだよね」
「うん……」
「顔は整ってるし、お給料いいし、仕事出来るし……。あれでもう少し優しさが身につけばね」
「確かに」
「CEOが優しいから余計に室長の怖さが際立つよね」
「うーん」
段々と室長の悪口になって来たかも。聞かれては無いけど、なぜかいつも怖くなる。
「シャンパングラス……綺麗だね」
「ねー。ネットで金額調べたら、納得の価格だった! さすがCEO」
「いつの間に!」
「ちょっと息抜きしないとさ。だけど旦那シャンパン買える甲斐性ないからこれに注ぐのは発泡酒か頑張ってビールだなー」
「それすらもシャンパンに見えるかも!」
「確かに!」
由紀と話しているとあっという間に時間が過ぎて、昼休みもあと僅か……
「……ヤバ! 走ろう!」
「室長に叱られる!」
私達は慌ててカフェを出て、急ぎ足で会社に戻る。
✽
「秘書がバタバタと走るな!」
キーン……!
昼休み終了と同時にギリギリ間に合った……と思ったら黒崎室長に呼び出された。
私達が走って会社に戻る一部始終を窓から室長に見られてしまったようで、昼休み終わって早々お叱りを受ける……。
「「も、申し訳ありません……」」
「会社の顔としての自覚があるのか!?」
「「はい。申し訳ありません」」
落ち込み、席に戻る。確かに、秘書は慌てず優雅にたおやかに。……出来てない。
――カタカタ
パソコンに向かって入力作業を進める。今度こそミスの無いように。
「……」
チラリと横目で室長を盗み見る。……うん、スキがない。
もう少し笑顔で優しく振る舞えば好きになる女子も多いと思うけど……。
(……余計なお世話ね)
もしかしたら長年付き合った彼女とかいて、彼女の前では優しく振る舞って、ふわっと……。ここでは絶対見せないような笑顔を振りまくのかも。
「はぁー」
私も彼氏がほしい。優しくて、大人で、私を包んで離さないような……
「……」
立ち上がって、気持ちを切り替える。そんな事を考えても恋愛は一人じゃ出来ない。
カップを持って給湯室に向かう。
(お茶を飲んで、気持ちを切り替えよう)
 




