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花繚(かりょう)の動乱  作者: 橋本ちかげ
第1章 幼蕾淡くほころぶ
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かりょーのどうなん?②吉乃と帰蝶~二人の寵姫

 信長を題材に採ると、必ず役どころが大きいのは、斎藤道三から譲り受けた姫君、『濃姫』こと帰蝶の存在です。


 2020年の大河『麒麟がくる』でも主人公光秀の若い頃からの馴染みとして、大きな見どころになっていますが、その始まりはやはり、高橋英樹演じる織田信長に、松坂慶子が濃姫として添った『国盗り物語』(1973年)が原点になるでしょう。


 司馬遼太郎の原作でも、全四巻のうち濃姫は三巻辺りから織田信長を知る最も身近な人物として登場します。


 実はこの姫君を語り役に武将を語る、と言う手法は司馬作品でもかなり代表的な手法なのです。


 例えば『関ケ原』には石田三成の側に初芽(はつめ)と言う徳川家の間者の姫が登場しますし、『夏草の賦』では長曾我部元親に嫁ぐ斎藤内蔵助利三さいとうくらのすけとしみつ(明智光秀の腹心です)の娘・菜々を語り役に据え、歴史上の人物をぐっと身近な視点から語り明かす作品に仕立て上げています。


 しかし、実際のところはどうだったのでしょう。日本史の研究者の中では帰蝶と信長とはドラマほどに濃いかかわりはなかったと考えられているようです。


 帰蝶と言うと、最期は燃え盛る本能寺で信長と一緒に薙刀を構えて戦い、運命を共にするイメージが強いですが、もちろんそれは、フィクションの演出です。


 小説の世界でも、織田信長ブームの火付け役と言われる津本陽さんの代表作『下天は夢か』では、帰蝶は早い段階で病死したことになっています。


 もちろん現在の研究では、濃姫は本能寺の変があったときは安土城におり、そのまま天寿を全うして亡くなったことが分かってきてはいるのですが、信長との距離感についてはこの小説がある意味では適切に描いているかも知れません。


 ちなみに本編『花繚の動乱』では、帰蝶は美濃斎藤道三の影を背負った『蝮の娘』として、大きく改変されたキャラで描かれる予定です。


 対して吉乃です。

 吉乃の存在がクローズアップされたのは、世が平成になってからの間もなくのこと(今からでももう、三十年も前ですね)。いわゆる『武功夜話(ぶこうやわ)』と言う古文書が発見されるに及んで、その存在が一気に注目されました。


「信長最愛の人は、帰蝶ではなかった」


 信長は帰蝶との婚礼のときすでに、吉乃と関係を持っており、同盟相手で舅である斎藤道三の手前、それをひた隠しにしていた、と言うことがこの文書によって明らかになり、フィクションの世界にも大きな影響を与えました。(例えば堺屋太一原作で竹中直人さんが主演した大河ドラマ『秀吉』には『武功夜話』における吉乃像が大きく取り上げられています)


 もちろんこの『武功夜話』にも偽書説が出たほどに、立証がされていないことや間違いがあり、現在ではまったくの真実、とは言い切れない部分が出て来てはいるのですが。信長が吉乃と家名を支える三人の子供を設け、小牧山城に特に御殿を築いて住まわせた、と言うのは、揺るがない史実です。


 本編でも語られていますが、吉乃は永禄九(一五六六)年に二十九歳の若さで亡くなり、生駒屋敷の西南西、久昌寺(きゅうしゅうじ)にて荼毘に付されました。


 このお寺の縁起(日誌のようなもの)である『嫰桂山久昌縁由どんけいざんきゅうしゅうじえんゆう』には、吉乃の死と、信長の深い悲しみが伝えられています。


信長公哀慕聯々のぶながこうあいぼれんれんとして同穴(どうけつ)の思ひあり」


 とそこに記されるのは、信長が自分が死んだら、吉乃と同じ墓に入りたい、と、望んだことでした。


 吉乃と帰蝶は、信長を取り巻く『陰』と『陽』であると言ってもいいと思います。『花繚の動乱』本編では、キャライメージとしてあえて逆に描いてますが、信長にとって吉乃は信長の最も深い部分を裏で支える『日陰の寵姫』斎藤道三から美濃一国譲り状を受け、信長に侵略名分を与えた帰蝶は、正室と言う立場としても、政治的存在としても『日向の寵姫』であったと言えるでしょう。


 帰蝶のキャラ改変については先に触れましたが、まだまだ、織田家の陰で暗躍していく予定でおります。次章ではさらに、美濃斎藤家のその後について意外なつながりも語っていくつもりですので、乞うご期待であります(._.)






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