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華闘記  作者: 早川隆
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第十四章  乱舞  (五)

「総見院様は、派手好みじゃ。それに、突拍子もない思いつきをすぐと実行なされる。」

秀吉が、感極まったように言った。

「この十数年、儂はつねにそれに泣かされ、小突き回されて来た。それは、いかにも総見院様らしい戦の仕方じゃ。して、堀田道空は、いったいどんな顔をしとったんじゃい?」


「目を真丸に。」

弥三郎は、大笑いしながら答えた。

「転がるように邸宅から出てきて、真丸な目で、天女のお姿に扮した総見院様の前に跪きました。そして何事か言いかけましたが、総見院様は構わず、そのまま隊列ごとずい、と堀田邸に乗り込み、宏大な庭園を踊りながらグルグルと廻り、おろおろする道空殿の頬を扇で軽くひと叩きしてから、帰路につきました。」


「引っ叩いたのか。」

又助が苦笑しながら言った。

「さよう。まるで、悪戯をした童を大人が嗜めるかのように、まだ年若い総見院様が初老の道空殿をひと叩きしました。そしてすかさず拙者が、宙に向け鷺の鳴き真似を致しました。」

「どのように?」

「ただ、ぎゃあ、と。それはまるで、叩かれた道空殿が悲鳴を上げたようにも聞こえました。我らのあとについて邸内に入り込んできたたくさんの町衆が大笑いし、一斉に泣き真似を始めました。拙者はただ、調子を合わせて鷺の鳴き真似をしただけにも関わらず、町衆がよってたかって道空殿を、ただの間の抜けた戯気(たわけ)者にしてしまったのです。」


「愉快な奇襲だの。一滴の血も流れず、ただ決着がついてしまったわけか。」

「みなの愉快で楽しげな笑い声とともに。道空殿にはいささか気の毒なことでしたが、奇襲は大成功。その後ほどなくして、津島五ヶ村の長老たちが踊りの返礼をしに清洲を訪ねて参り、その先頭には、頭を丸めた道空殿がおられました。」

「なるほど。それにて一件落着と。池田や佐々の処分とおなじじゃ。道空は、おそらく、余裕綽綽(よゆうしゃくしゃく)の総見院様の威圧に、しんから震え上がった。だから、もう刃向かうことはない。総見院様はそう睨まれたのじゃな。そしてそのご判断は、正しかった。」

「そういうことでございます。その後、いまに至るまで、津島衆で織田家に刃向かった者は居りませぬ。津島はその後も尾張の金城湯池であり続け、ただ総見院様に莫大な冥加(みょうが)の金を積み上げ、覇業の推進に大いなる力となったのです。」


「それもこれも、珍妙な仮装と、民を巻き込んでの大乱舞による威圧が効いてのこと。なるほど、とても面白く、また奥の深い話だ。下手に槍を向けるより、そうしたほうが遥に効果的なのじゃな。この秀吉、いまだ総見院様より教えられることが多いわい。」

その総見院の一族より容赦なく天下を簒奪(さんだつ)しつつある、新たなる覇王は大きく頷いた。


しかしそのあと、ふと気づいて、大きく首を傾げた。


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