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華闘記  作者: 早川隆
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第十二章  暗殺者  (四)

「かつて総見院様の弟御を矢で射殺し、その場から逐電した弓の名手・洲賀才蔵。奴が、小池吉内と名乗り、美濃側の浪士としてなんとその場に立っておりました。思いもよらぬことでござった。」

弥三郎は、やや苦しげな顔で言った。


「才蔵は、あんたの手の者では無かったのかよ?」

又助が驚いて言った。

「首尾よく総見院様の弟御を射倒したあと、万事織り込み済でその場から逐電したのじゃろ?きっと、相応に報酬もはずんでいたはずじゃい!」

秀吉も、驚いていた。


「そのはずでござった!才蔵はそのまま尾張の国外に姿を消し、堺あたりから西国へと参り、以降われらに関わりを持たず静かに暮らすはずでござった。しかし、居たのです。その場に。美濃の走狗となりて。いやむしろ、奴らを積極的に先導し案内して!彼奴は、拙者を憎んでおりました。ぎらぎらと輝く眼でこちらを睨み、右手でしっかと弓弦(ゆずる)を握りしめてござった。」


「報酬が不満だったか?それとも・・・あとから改心したか?」

そう首をかしげる又助を制して、秀吉が聞いた。

「もしかしてその才蔵とやら、丹羽源六同様、あんたたちのやり方に、あとからひどく腹をたて、いつか消されると(おび)えたのでねえか?」

これまであまたの敵を策に()めてきた次の天下人は、ある種の確信をもってそう言った。

「いや、そうに違えねえ。」




弥三郎は、苦々しげに頷いた。

「それまでの拙者のあまりに断固とした、かつ酷薄なやりかたが、ここに来て祟ったのでございます。洲賀才蔵は功大きな同志であり、我らに彼を害する考えは皆無であったにも関わらず、彼の方ではそうとは思わなかったのです。」


「そうか、なるほどのう。思いもよらぬ手立てで、相手の尻の穴から掘り崩し、次々と尾張の内乱を鎮めたあんたでも、人の心の動きには疎かったというわけか。」

「認めざるを得ませぬ。わが策の、大きな手ぬかりで御座った。たまたま源六殿の口からこの計画を漏らされたからよかったものの、もし知らぬままでおれば、公方様の黙許のもと、総見院様は都の辻でこ奴らに(あえ)なく討ち果たされてしまっていたに違いありませぬ。」




「で、才蔵は?」

又助が聞いた。

「結局、(くだ)ったのかよ、それともその場で斬死したのかよ?」


「しばらく睨み合いとなりましたが、多勢に無勢。やがて観念して降りました。そのまま何も言わず、ただ我らに促されるままに街路を歩き、上京に逗留なさっていた総見院様のもとへと参りました。」

「他の連中は?」

「そのまま二人一組、背中合わせに縛り上げて厳重に監視をつけ、総見院様の下知を待ちました。彼らの命は、ただ才蔵の態度の神妙さ次第。」


「それは、もう・・・みんな死んだも同じでねえか。」

旧主の、敵方の命に対する数々の酷薄さを思い返し、又助は、うなった。


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