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華闘記  作者: 早川隆
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第十二章  暗殺者  (一)

尾張統一における最大の障害、織田勘十郎信行を首尾よく討ち取った(はふり)弥三郎重正は、次いで、この血塗られた一連の作業の総仕上げに取り掛かった。




勘十郎を粛清したあと、彼はひとり清洲の城を出ると、道々、無言のうちに津々木蔵人の仮装を剥ぎ取り、そのまま守山城へと向かった。そして今度は「丹羽兵蔵(ひょうぞう)」なる名を自称して、岩崎勢とともに在城していた丹羽源六氏勝の脇に坐し、軍師として悠々と彼を補佐するようになった。


しかし補佐役とは名ばかり、昼はただ奥庭で鷹どもに餌などやって戯れるだけである。しかし夜になれば毎日、源六とともに引き籠り、なにやらこそこそと談判している様子であった。城中の部下たちは、将の真意を(いぶか)った。




実は、源六氏勝はいったん心変わりしていた。当初は無主の守山城を事実上占拠し、尾張中央の政局に影響を与えるという自らの刺戟的な役割に熱中していたものの、その結果、次々と陰惨な人死(ひとじに)が相次ぎ、そしてひとつの獲物を狩った(いぬ)が、次には()られて(むくろ)(さら)すという、この一連の冷徹な謀略の法則に気付いた彼は、話を持ちかけてきた弥三郎を警戒し、距離を置くようになった。


清洲で梁田弥次右衛門と名乗っていた頃、すでにこの源六の変心を感知した弥三郎は、上総介信長を経由して乳兄弟の池田勝三郎恒興(つねおき)を動かし、説得に当たらせた。弥三郎自身は日々せっせと(ねや)で那古野弥五郎を(たら)す作業に専心せねばならず、すぐと清洲を動くことはできなかった。また、鋭敏で小心な源六の疑惑はとりあえず弥三郎へと向かっているため、とりあえず別人を立てて対策に当たらせたのである。


家中で信頼篤い人情家の池田勝三郎は、熱意をもってかき口説き、源六の説得と、自陣営への繋ぎ止めに成功した。その後ずっと、守山城は唯々諾々と弥三郎の計算どおりに動き、勘十郎信行を排除するまでの遠大な謀略は、つつがなく成功を収めた。勝三郎の大きな手柄である。




しかし・・・丹羽源六氏勝の改心は、ただうわべだけのものだった。いったんは安全を保証されても次にいつ消されるかもしれぬという恐怖は、骨の髄から彼を恐怖させ、機を見て弥三郎を排除し、この呪われた城を出て懐かしい岩崎へと帰還することを、心に誓わせていた。


真実は、逆に源六必死の説得によって、上総介の乳兄弟(ちきょうだい)である池田勝三郎恒興のほうが、なんと敵陣営に取り込まれていたという、弥三郎にとって憂慮すべき深刻な事態だった。


勝三郎は日々語らい、源六のいう「危険な他国者」つまり祝弥三郎重正への警戒を強めた。そして、できればこの得体の知れない他国者を消し、上総介を正道に立ち返らせるため、ひたすらに本心を隠し適切な時期を待つことにした。


もちろん密謀を交わす彼ら二人の背後には、いまだ健在であった岩倉の織田伊勢守家の影があり、さらにその向こうには、巨大な隣国、美濃斎藤の影響力が見え隠れする。


要は、源六と勝三郎は、そうと知らぬまま、隣国の走狗となりかけていたのである。


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