表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
華闘記  作者: 早川隆
14/76

第三章  鬼  (一)

三河中入り部隊の先鋒に立った「鬼武蔵」こと森勝蔵長可(ながよし)は、おそらく織田家中においても、もっとも凄まじい戦歴に彩られた武勇の士であったろう。雄偉な美丈夫で、野陣にて鍛えられた筋骨があちこち隆々と盛り上がっており、鎧兜で完全武装しても、なおそのはち切れんばかりの生身の体格をうかがい知ることができるほどである。


彼が戦場において常に手放さぬ大身(おおみ)上鎌(うえがま)十文字槍は、名工・二代目和泉守兼定に鍛えさせたという業物(わざもの)で、塩首(しおくび)の面と裏にそれぞれ「人間」「無骨」と銘が刻んである。彼の抜群の膂力(りょりょく)で突けば槍、払えば薙刀(なぎなた)となり、そしてぐいと引けば鎌の如く自在に敵兵を殺傷することができ、哀れな標的はふかふかとした骨のない肉袋のように、ただずたずたに千切(ちぎ)れ飛ぶ。事実、この槍の初陣となった伊勢長島の一向一揆衆との接近戦では、わずかの間に二十七もの人体を、物言わぬただの肉塊にした。


その後の戦歴も、赫々(かくかく)たるものである。設楽(しだら)ヶ原、越中攻め、三木城攻め、甲州攻め、美濃攻めなどで軍の先頭に立ち、次々と功名を上げ、まさに無敵の魔将として織田軍団による数多くの鏖殺(おうさつ)、虐殺に関与した。


視野が狭く我儘(わがまま)であり、自己陶酔癖があり、敵はもちろん、味方でも目下の人間に対しては残忍粗暴そのもの。しかし独特の美意識を持つ一面があり、見目の良いもの、わけても美麗な武具や名馬、茶道具の収集などに目がない。また意外なことに能筆であり、計数の才があり、占領地や所領の統治や経済政策などにおいてもきわめて有能であった。


彼の感性、彼の才能は、どこか主である織田右府(うふ)信長と相通ずるところがある。事実、彼は信長による度を越えた偏愛を()けた。彼が前線で幾度も犯した過剰な残虐行為が、主より(とが)められたことは一度もない。度重なる自己中心的な軍記違反にも、味方軍の和を乱した場合にのみ、ただ形ばかりの叱咤はあるが、公式に責任を問われるような大事に至ったことはない。


彼の父親は、軍内最古参の猛将・森三左衛門可成(さんざえもんよしなり)である。八幡太郎義家の嫡流を自称し、「攻めの三左」と呼ばれ各地の戦で活躍したが、元亀年間の危機の際、浅井・朝倉の大軍と寡勢にて戦い討死を遂げた。その大功に報いるため、主の信長は家督を継いだばかりの勝蔵を若年より優遇したが、彼は、おそらくは人間としての倫理をのぞくすべての面で、主の期待に十二分に応えてみせたといって良いであろう。


そして重鎮・池田勝三郎恒興の娘を妻とし、(よわい)わずか二十七にして、独自に数千の軍を率い、(しゅうと)の軍を先導してこの野心的な撹乱(かくらん)機動作戦の(きっさき)となっている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ