表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
華闘記  作者: 早川隆
10/76

第二章  猿  (二)

(はふり)弥三郎と太田又助は、ただ「話したかった。」とだけ言う秀吉の真意を測りかね、互いに眼を見交わした。しかし、秀吉はまったく頓着せず、続けて又助に尋ねた。


惟住(これずみ)越前殿のお具合は如何かい?お悪いと聞くが。」

惟住、すなわちもと織田家宿老の丹羽長秀は、信長死後の織田家中の壮絶な後継争いの決着を待たずして病に倒れ、このところずっと()せってしまっている。


この愚直で忠良な古参家老について、世の噂では、そう長くはないとのことであった。一説には、織田家簒奪(さんだつ)を図る羽柴秀吉に毒を盛られただの、秀吉の義の無さに独り悶々とし今にも憤死せんとしているなどという、穏やかならぬ話にすら、なっている。


又助は少し眼を伏せ、秀吉の顔が視界に入らないようにしながら、言った。

「ご快癒とは言い難き仕儀にて。されど、家内一丸となり養生にあい努めておりまする。」




「そうかい。そりゃ、なによりじゃい。わしは、本当に世話になったからのう。 (織田)家中にて小身だった頃からなにかと目をかけてくださり、なんか不首尾があったときにいろいろ総見院様にお口添えくださり、さきの弔合戦 (山崎合戦)の時にも、たんとお力をお貸しくだされた。もちろん、その後も。」


こう言って、やや濡れたようにも見える眼を上げ、それが外の陽光に反射してきらりと光るのを計算していたかのように、小壁のほうを見上げた。ひとつ(はな)をすすり、扇を口元にあてて、小さく咳をした。そして、続けた。

「だからよ。ぜひからだ直して、また筑前めをお導きくだされ。こう言っていたと、あとできちんと、伝えてちょうよ。又助さん。」


「もちろん!承知(つかまつ)った。」

又助が、感謝に堪えないといった面持ちで頭を下げると、秀吉は安心したように頷き、

「たいへんなときに、済まんのう。」と詫びた。




そして、今度は弥三郎のほうを向き、とつぜんニヤリと笑った。

「で・・・弥三郎さんよ!いろいろ大儀でござった。ひょっとして、危ねぇ目に()わせたんじゃねぇか、心配しちょった。でえじょうぶだったがよ?」


眼を伏せていた又助が顔を上げ、きょとんとした顔で隣の朋輩を見遣った。秀吉は、笑いを浮かべながら彼に説明した。

「いやよ、おみゃあさんは知らねぇだろうけども。実は弥三郎さんにゃ、これまでもいろいろ(ふみ)など差し上げてよ、あれこれ藤吉郎のため馳走(ちそう)してもろてたのよ。会うのは久しぶりだが。そりゃ、もう、どえりゃあ働きじゃったわい!」


「さほどの事では、ござらぬ。」

弥三郎は、穏やかに言った。

「筑前殿からお預かりした文を、封も開けずに、そのまま人の手を借りあちこちに届けた。ただ、それだけの事。拙者の預かる稲葉宿(いなばのしゅく)は、常に人の行き交う要地ゆえ、いと(やす)き事でござる。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ