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プロローグ 2

気がつくと私は真っ黒の渦の中をゆっくりと歩いていた。暑くも寒くもなく、不安も怖れもなく、ただ、歩いていた。しばらくすると上の方に光が見えた、とても暖かく感じ、なぜだかそれがとても素晴らしい物に思えた。その光の場所に行こうともがくものの、一向に距離は縮まらない。どうしたものかと途方に暮れていたら急に地面がなくなって真っ逆さまに落ちていく中で、また意識がなくなった。


 次に気がつくと、私は自分の身体だったものを見つめていた。ドラマなんかでよく見た事があるベッドの上で顔に布をかけられて横たわっている例のアレだ。そして私は確かに死んだのだなと理解した。今の私はきっと霊とか魂とかそういう存在なのだろうなと漠然と考えた。もちろん周囲は私という存在に気がつかない。やる事も見つからないし【お迎え】的なものも来ないので、私は私の身体だったものの行く末を見守る事にした。


 流れは祖母が亡くなった時とほとんど一緒だった。葬儀場に運ばれて葬式が行われる。私なんかの葬式に人など来るのかと思っていたが、案外同僚や疎遠だった友人たちが訪れ、悲しんでくれた。案外私も捨てたものではないなと思いつつ、それと同時に死んだ事への後悔の念が強くなり胸のあたりが苦しくなる。やはり優子はまだ受け止めきれないらしく誰よりも泣いていた。その姿を見てまた私も辛くなった。


お別れの時に優子が棺桶にエターナルクエストの単行本を入れてくれていた。さすが優子わかっている、グッジョブ。火葬場に運ばれて焼かれればお焚き上げシステム的にその単行本が私の元に来ないかなと期待していたがそんな事もなく。骨になった私だった物を見つめ、燃やしてしまうなら布教用に誰かに配った方がよかったかも、と少し残念な気持ちになってしまった。


父親はずっと泣いているが、母親は沈痛な表情こそしているものの涙は見せていない。


「ああ……ここまで好かれていなかったのか……。うまくいっていない自覚はあったもの葬式で涙も見せないのね……。」


誰に言うわけでも、口をついて出た。その声に反応する人はいない。猫がこちらをじっと見ている事があったから、もしかしたらと思って近づいたが、結局私を見ていたわけではなかった。


自分の催事を終わってしまい、特に壺に納められたもう一つの私には全く興味が湧かなかったし、母親の顔を見ているのも辛かったので、そのまま葬儀場で浮いていた。49日的なものが終わればお迎えが来るかもしれないし、もしかしたらお仲間に会えるかもしれないし……。そんな事を思いながらただ忙しなく動く葬儀場の人達を俯瞰から眺めていた。



49日後……


 大変由々しき事態である。お迎えが来ないのである。私としては成仏的な何か、天から光がさして消える的なアレを期待していたのだが一向に気配がない。かといってお仲間に遭遇するわけでもない。ただ浮いているのもハッキリいってツマラナイのだ。


最初は待合室など、遺族がしている話を聞いたりして、なるほど人には歴史があるのだな……などと感心していたが、もともともそこまで人に興味がある性格ではない。早々に人間観察に飽きてしまえばやる事はほとんどない。


本を読んだり、ネットをやろうにも物理的にモノに触れられるわけもなく。仕方なく、職員休憩室に設置されたテレビを眺めては暇を潰し、夜は寝る必要が無いせいで、暇だ暇だとブツブツ言いながらあたりをうろついていて、見事なまでの浮遊霊っぷりであった。


色々考えているうちに要は、私は地縛霊的な、成仏できていない存在なのかもしれないという結論に至った。だとするならば未練はただ一つ、ハッキリしている。そう、 


「エターナルクエストを最終話まで見届けていない」


これ以外に未練など考えられない。そして私は葬儀場を出る決意をした。こうなったら行くしかない。最初に読めるのはあの場所しかない。そう、漫画家宅である。


エターナルクエストの作者は大橋蓮二先生だ、確か調度私の10歳上、35歳だったはずだ。信者の嗜みとして、アトリエの住所も電話番号も知っている。ただ常識と礼節はわきまえているので現地まで行った事は無い。さすがに幽霊が電話するわけにもいかないので、失礼かとは思いながらアトリエの住所に向かう事にした。


もしかしたら、地縛霊的な設定であれば一定の範囲から出られないかも知れないと心配もしたが、そんな事もなく。スピードこそ早歩き程度しか出ないので時間はかかったが、何の問題もなくアトリエに着いた。案外不便は無いのだなと思いつつ、呼び出しのチャイムが押せないので無断侵入になってしまうことを心の中で懺悔しつつも玄関のドアなどは幽霊よろしく、すり抜けて中に侵入した。

 

 中に入ると人気はなく、そしてあまり生活感がなかった。人気漫画家の自宅兼仕事場であるから、アシスタントが大勢出入りして、もう少し活気があるのかとも思っていたものの、現在休載中であるのだったと思い出し、納得しつつ奥へ向かった。


 奥に向かうと真っ暗な部屋の中テレビの画面の明かりだけが光っている。その前に毛布にくるまってゲームをやっている男がいる。有名な野球ゲームで選手を育てるモードが有名なやつだ。テレビの裏に回り込んですり抜け、画面から貞子的に顔を出す要領で男の顔を覗き込む。無精髭を生やし、明らかに不健康そうな顔付きで、精気のない目で画面を見つめている。


「大橋蓮二先生……」


一目で見てあまり良い状況ではないと理解できた。体調不良という事で休載とのことではあったけれど、少し事情が違う様子だ。仕方がないのでしばらく先生を観察することにした。


次回ででプロローグは終了です

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