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三国志創生伝 ~砂塵の彼方に~  作者: 菊屋新之助
第三章  少壮気鋭
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第二十〇話  管羽

 叔父の(りゅう)元起(げんき)の邸宅を出てから、楼桑村が遠くに見えるほど離れた所まで二人は無口で歩いた。


 元来、劉備は余計な事は言わない性質ではあったのだが、ここら辺で劉備は少し話をし始めた。


「おめぇのおどっつぁんがびっくりしたらいげねぇと思って、仲間には見送りには来んなって言っておいたがよ、やっぱ二人きりで出て行くのはちっと寂しいもんだな」


「そだね。兄貴は人気者だから、一声かげたら百人くらいすぐに集まるもんな」


「しかしおめぇよ、そんなでけぇ荷物を持ってどうすんだ?」


「色々と書簡(書物)をね。向こうでも色々と読みてぇんで」


「普通、そんなに持でっぐ奴がいるか? 荷物が増えて仕方ねぇだろ、オイ」


「ずまねぇ、兄貴。どうしても持っできだぐで」


「意味がわがんねぇ」


「ねぇ、兄貴。なんか、向こうで人が倒れてるよ」


「んん? おお……」


 確かに道の向こうに人が倒れているのが見える。こんな時代だから、行き倒れの遺体を見るのは、そう珍しくもない。


 だが、二人とも何かが気になる。倒れているのはバカでかい男だったからだ。二人は近づいてその男を確認したくなった。


 倒れている巨大な男にそろりと近づいた。動く気配がないので、二人ともしゃがみ込んで男の顔を覗き込んだ。


「痩せちまっでっけど、タッパのあるオッサンだな。日焼けで顔が真っ赤っかになってやがんぜ」


「んだ。しかも、デカイ矛を抱えたまんまだわ、このおじさん。にしても立派な髭だな」


 着ている服は襤褸布(ぼろぎれ)だが、抱えている矛は立派で龍紋の彫り物が施されてある。髭は艶があり、綺麗に生えそろっている。


「お、俺は、オッサンじゃねぇ……」


 その行き倒れの男が目を瞑ったまま、突然に口を開いた。


「ぎゃああ」


 びっくりした徳然は劉備の背後に急いで隠れた。


「生きでんのか? 大丈夫か、オッサン」


「だから、俺はオッサンじゃねぇ。それより、水を、くれないか」


 劉備と徳然は顔を見合わせて少し戸惑ったが、劉備は水の入った竹筒を出せと徳然に目配せした。


 ガサゴソと徳然が荷物袋の中を探していると、大男が少しだけ目を開いた。


 目を開いた事に気づいた劉備が、徳然にそれを知らせようとすると、急に真後ろから別の野太い声が響いてきた。


「おっと、ソイツは俺たちの獲物だ。水なんかやるんじゃねえ」


 劉備はサッと振り返って立ち上がり、声の主を確認した。山賊風のイカつい男だ。後にも似たような風貌の男が三人いる。


 徳然は袋から竹の水筒を取り出した時に、男たちの存在に気づき、焦った雰囲気ですぐに立ち上がった。劉備はすでに啖呵を切っている。


「なんだぁ? てめぇら」


 劉備が山賊風の男達を睨んで声を荒げた。男達は怯む様子もなく、顔を見合わせてニヤけた笑いを飛ばしてくる。


 徳然は賊らしき男たちのいる方を向いたまま少しづつ後ずさりし、劉備の後ろにひょいっと隠れてしまった。劉備は賊達のナリを目で追って一人づつ確かめる。


「ぶぁはっは。笑わせんなよ、クソガキ。死にたくなかったら俺らの目の前から消えろ。管羽(かんう)は俺らがトドメを刺す」


 劉備はペッと右手に唾を吐きかけ、腰に帯刀していた刀を素早く鞘から抜き、敵を迎え撃つ体制を整えた。


 山賊風の男達は相変わらず下品な笑いを止める事はない。


「盗賊ども。このオッサン、えっと、管羽(かんう)っていうのか? こいづに何の用があんだ?」


「ふん、盗賊呼ばわりか。俺らはお尋ね者を追っている賞金稼ぎよ。そこの管羽こそ、札付きの賊だ」


 劉備は倒れている管羽の顔に目をやって確認してみた。


 管羽の目は細く切れ長だが、瞳の奥は涼しげで深く澄み輝いていた。その瞳は無心で劉備の目を見返す。


「おう、徳然」


「え? なんだい、兄貴。こんな時に」


「そのオッサンに水と食い物やれ。すぐにだ」


「クソガキャぁ、ナメた真似すっとブチ殺すぞ! 賊に飯を食わすたぁ、どういうつもりだっ」


「賊はおめぇらの方だ。その格好はどう見ても盗賊だろ。返り血や盗品で身も心も汚れちまってるでねぇか」


 劉備が賊を引き付けている間に徳然は管羽に水筒を渡して、サッと岩陰に身を潜めてしまう。管羽は水筒を受け取るとわき目も振らずに水をガブ飲みし始めた。


「管羽が水を飲んでるぞっ、はやく殺っちまえ!」


「おお!」


「待でっ、そのオッサンは殺らせねぇ!」


 劉備は刀一本で管羽の前に立ちはだかり、襲い掛かってくる賊に向かって刀を素早く振り回した。鮮やかな刀捌きに賊たちは圧倒されて後ずさりした。


「くそお、ガキのくせに……コイツ。よし、全員で一気に畳み掛けるぞ!」


 さすがの劉備も、武装した四人の男たちを同時に相手するのは分が悪い。賊達の一斉攻撃の瞬間、ゴオっと風を裂く爆音が劉備の左耳に響いた。


 轟音の後で、男の断末魔が鳴り響く。


「ぐはぁあっ」


 襲い掛かろうとした賊の一人が、劉備の目の前で鮮血を吹き出してる。


 見ると胸には巨大な矛が突き刺さっていた。管羽が持っていたあの巨大な矛だ。


「うわあっ、管羽が立ち上がったぞっ、逃げろ!」


「バカ言うなっ、さっきまで飢え死にしかけてたんだ。今のウチに殺るしかねぇ!」


 残りの三人の賊は少し怯んだが、気合を入れ直して、劉備に向かって襲い掛かった。


 その刹那、倒れていた筈の管羽が、巨体にも関わらず中空に飛び上がり、天空から劉備の目の前に舞い降りた。


 と同時に襲い掛かる賊の剣を、右に左に素手で受け流し、目にも留まらぬ早業で賊二人の腕を掴んだ。一挙に二つの頭を地面の岩盤に叩き付け、西瓜を割るように粉砕した。


 最後に残った賊は、槍を前に突き立て管羽の胸を目掛けて突っ込んだ。


「うぁああっ」


 避けもせず立ち上がった管羽は、賊の突き立てた槍を左胸に喰らってしまう。


「やった! 管羽を倒した……」


 安堵の声を漏らした賊は、束の間の勝利の余韻に浸った。が、それが自分の錯覚だったと悟るのに時間はかからなかった。


 管羽は見事にも左脇で槍を挟み込んでおり、まったくの無傷だったのだ。


「ひぃいっ」


 賊に宿った安堵の表情は瞬時に恐怖で引き攣り、身動きできぬまま管羽に首根っこを掴かまれた。


 哀れにも賊の首は枯れ枝を折るかの如く、難なくへし折られた。

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