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三国志創生伝 ~砂塵の彼方に~  作者: 菊屋新之助
第十三章  為虎傅翼
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第一四七話  一対一

「お、おかしらっ、奴ら攻めてきますよ! 反撃しなきゃやられちまうっ」


 莉旋(りせん)が後ろから大急ぎで走ってきて、石真に大声で呼びかけた。


 石真は恥も外聞も捨てて、管統に懇願した。


「元瑞(管統)、俺たちは降伏したんだぞっ。宋全(管承)を説得してくれ!」


「仕方ねぇ。一緒に浜辺までいくぞ。ついて来い、石真っ」


 石真の部曲が左右に分かれ、管統の方(・)はその間を通って浜辺に向かっていく。管統が浜辺へ向かうと、彼の方(・)(軍)も動いた。


 莉旋は管統の部曲の多さを見て、石真の行動が懸命だった事を悟った。管統の方(・)は、こちらの十倍はいる。


 管統と張石真を先頭にした方(・)たちは浜辺にすぐ辿り着き、海賊の管宋全(管承)の部曲たちの前に立ちはだかった。


「兄者っ、どういうつもりだっ。なんでソイツらを庇う? 俺の部下はそいつらにやられたんだぞ!」


 海賊の管承の身長は、およそ七尺(約一六一センチ)。背は低いが筋肉隆々で、存在感と威圧感は管統以上である。


 上半身は裸で装飾品を纏い、胸と両腕と背中に刺青がある。模様は複雑ではない。罪人の証として付けられた刺青の上に、さらに付け足したようだ。


 管承は兄貴分の管統に、猛然と反発した。二人の言い合いで、それぞれの部曲(軍)は膠着状態となった。さらに石真も猛然と反論する。


「お前(管承)が養馬(ようま)島の海域を荒らして好き放題するから、俺は漁民たちの味方をしただけだ!」


 いきり立つ管承も、負けじと石真に言い返した。


「違うなぁ。俺たちは漁民たちからみかじめ料を頂いて、その代わりに安全な漁場を確保してやろう、ってだけだ。略奪とはちがう!」


「おい、宋全(管承)っ。俺が来るまでは大人しくしてろって、言っただろうが。余計なマネしやがって」


「兄者(管統)っ、俺はソイツと話してんだ。首を突っ込むんじゃねぇ!」


 石真はこの二人が兄弟だと知っていた。血の繋がりがあるかは知らないが、確か三人兄弟だったと記憶している。


 三人は長広県の出身で、この遼東半島の南側ちょうど反対の東海に面した地域だ。


 一人を長広県に残して管統は陸から、そして管承は海からこの牟平県に攻め上ってきた事になる。


「とにかく、こっちは石真と話をつけたんだ。てめぇ(管承)の言い分は後で聞くから、今は矛を収めろ」


「石真だと? 聞いたことあるぞ、張石真。てめぇも太平道だったな。だがよ、投降する間際になって黄巾を着けるだなんて図々しい野郎だな」


「いい加減にしろよ、宋全(管承)。張石真がどっちつかずの卑怯な野郎なのは昔からそうじゃねぇか。ガハハハ」


 管兄弟のやり取りに苦笑いするしかない石真。しかし、今は恥を忍んで耐えるしかない。


「畜生、このままじゃ怒りがおさまらねぇ。兄者がどうしてもダメだというのなら、石真とサシで戦らせてくれ。それで部下がやられた事は水に流してやる」


 石真は喉を鳴らして汗を拭った。管三兄弟と言えば、それぞれが百人の兵卒に匹敵するほどの豪傑だと、かつて太平道にいた頃に噂で聞いている。


「ちっ、くだらねぇ。そんな意地を通してどうする。青州を平らげるんなら、石真のような人材が必要なんだ。どうしても怒りが収まらねぇんなら、俺が相手になってやってもいいんだぜ?」


 管承は兄貴分だろうと容赦なく管統を睨みつけた。二人とも刀を鞘から抜きかねない一色即発の事態だ。


 このまま傍観していれば二人は潰し合い、石真は漁夫の利があるかもしれない。しかし、石真は傍観などしてはいられなかった。


「待ってくれ。こいつ(管承)との一騎打ちを引き受ける。本当にそれで水に流せるならな」


 この発言は管兄弟の癇に障った。まずは管承の怒りが爆発した。


「てめぇ、何様のつもりだっ。てめぇの都合の良い話ができる状況か?」


 続いて管統も怒りを露わにする。


「せっかく俺が間を取り持ってやろうってのに、バカかテメェは? 一騎打ちすんのは勝手だが、俺の弟を傷つけたり、ましてや殺しちまおうものなら、お前を甚振(いたぶ)った上でぶっ殺すからな」


 石真は静かに頷いて刀を抜いた。刀を抜いた瞬間、焦りの色が顔から失せ、落ち着いた表情になった。


「ほう……」


 管統は石真の姿を見て、武人である事を確信した。


「兄者。この野郎(石真)、やる気だぜ。石真を殺しちまっても、文句を言うなよ」


 管承は部下に命じて武器を持ってこい、と指示した。すぐ応じた部下が、投げ網のような物と短刀をて手渡した。


 武器というよりは、漁で使う道具にしか見えない。彼なりの拘りがあるらしい。


「ぶっ殺してやる!」


 管承は網を頭上で輪投げの様に振り回し、ジリジリと間合いを詰める。石真は危険を感じて素早く後退りをする。


 投げ網には大きめの錘(おもり)がい(・)く(・)つ(・)もついている。当たり所が悪ければ致命傷になる。


 だが恐らく、錘で攻撃するのではない。投げ網で相手を捕え、動けなくなった所を、短刀で刺すのであろう。


「ふぁっ!!」


 最初に動いたのは管承だ。投網を石真に向かって投げると、網が大きく開いた。蛸の足のように広がり、石真を捉えようとする。


 石真は投げられた網に対し、反射的に刀で網を振り払おうとした。


「しまった!」


 手にしている刀と共に、腕ごと網に絡まってしまった石真。網を引き剥がそうと藻掻いたが、両腕ごと絡まっているので解きようがない。


「こうなればコッチのモンだ。へへへ」


 ゆっくり甚振りながら料理しようと思ったのか、管承は石真の腕に絡めた網を、ぐいぐいと振り回した。そうする事で、相手の体力を消耗させるのだ。


「ぐあっ、身動きが取れん! こうなったら……」


 武器と両腕の自由を奪われ、万事休すの石真。だが、突然イチかバチかの体当たりを管承に食らわせた。


「でやっぁ!!」


 予測していなかった石真の体当たりで、管承は不意打ちを食らてしまい、地面に背中から倒れこんだ。


「うわぁっ!」


 管承は倒れた時に持っていた短刀を、手から離してしまった。石真は倒れた管承に馬乗りになって、網に絡まったままの腕で、彼の顔面を横殴りに数回殴打した。


「うううっ」


 そして、石真はその網を使って管承の首を締めはじめた。


「うぐぐっ!」


 苦しそうに藻掻く管承を見て、管統は止めに入った。


「石真! もういい、ヤメろっ。お前の勝ちだっ」


「ハァハァ、どうだ? お前の弟を傷つけてもいなし、ましてや殺してもいない。それでも勝ったぞ」


 確かに管承は数発殴られたが、恐らく怪我はない。網で締められた時の痕が首に残っている程度だ。


「ふん、ブサイクな喧嘩だったが、傷つけずに倒したのは見事だ。仕方ない、認めてやろう。宋全(管承)、負けを認めるんだ。いいな?」


「はぁはぁ、クソっ。負けは認めねぇぞ、こんなの……ハァハァ」


 管承はまだ立ち上がる事も出来ずに、尻を地についたままで悪態をついている。


「勝ち負けなんてどうでもいい。俺の方(・)を受け入れてくれるならどっちだっていいんだ」


 石真も勝負に勝ったとは思えなかった。あくまで降伏した上での決闘だったからだ。


 ちょうど、二人の決闘が終わった頃に、玉夷が黄色い群衆を押しのけて現れ、石真に近づいて来た。


 あまりにも堂々として歩いてくるので、取り込み中にも拘わらず、玉夷に皆の視線が集まった。


「なんでココへきたんだ、玉夷。漁民たちを抑えてろ、と言っただろう?」


「抑えとったわい。親分が作戦変更したから手土産もってきたんや。どや?」


 玉夷の後ろを見ると先ほど捕虜となった海賊たちを連れてきているではないか。


「さっきの戦いで海に投げ出されたり負傷した奴らも助けだして手当もしとるで。ここの漁民らがやったんや。まぁ、死んでもうたヤツは帰ってこうへんけどな」


 莉旋と玉夷は、管統の前に謙って膝を地に着いた。先程までは降伏するのを恥じていたが、石真の身を案じての行動であろう。

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