↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
三国志創生伝 ~砂塵の彼方に~  作者: 菊屋新之助
第十三章  為虎傅翼
145/181

第一四五話  海賊

 その頃、別働隊として動いていた石真は、養馬島の対岸と沿岸部に漁船や漁をしている者がいない事に気付いた。


 普段から賑わっている漁場に船がいないとなると、何か事情があるに違いない。石真はすぐに養馬島の近辺で探りをいれた。


 どうやら、海賊の略奪が横行しているらしい。そのおかげで、地元の漁師らも沿岸部に近づこうとしない。


 海賊……と聞いて石真は、心当たりがあると思った。そして、山奥の林で待つ張世平には黙っておかなければならない、とも思った。海賊と一戦まみえるのも已む無しと決めていたからだ。


 一、二ヶ月でなんとか即席の小型の漁船を十隻ほど用意した莉旋(りせん)だが、これから本格的に海へ漁に出ようという時に、石真が現れて漁の延期を迫った。


「お頭、やっと準備が整ったっていうのに、どういう事なんですか?」


「漁などしている場合ではない。ここら辺に海賊が出るんだよ。ここの漁民たちは遠くの漁場で凌いでるらしい。官軍も機能しちゃいないからな。だが、海賊をぶっ叩けば、ここら辺の漁場は一気に俺たちの物になるぜ」


「海賊か。どおりでぜんぜん船がいねぇ訳だ。うっしゃあっ、いっちょ、やったろうぜ」


 莉旋は単純な男だから、戦と聞くと飛び上がって喜んだ。


 戦いになる事を想定し、莉旋は石真と打ち合わせした上で、小舟を出し初めて海洋上での漁を開始した。

 最初は特に海賊らしき姿を見かける事はなかったが、数日後に養馬島の東側からやってきた数隻の船を見かけた。


 大きな帆を張っており、航海に耐えうる大型の船である事が確認できる。気になるのが帆の色が黄である事だ。


「あれか。間違いねぇ! 海賊がついに来やがったか。帆が黄色だな。黄土の色だ。やはり、太平道(黄巾)の残党か?」


「太平道に海賊なんていたんですかね? 聞いた事ねぇけどな」


「いてもおかしくはねぇ。どっちにしてもヤツらを倒さなきゃな。落ち着いて手筈通りにやるんだぞ、お前ら」


 太平道の残党なのか、それともただの海賊なのか。どちらにせよ、黄色の帆を持つ大型の船から、五隻の小型の船が出されて、こちらへ向かって来ている。


 走舸(そうか)と呼ばれる小型の快速船だ。最高速度で言えば大型の帆船にはかなわないが、艪(ろ)が左右三個づつ付いており、小回りが良く利くので接近戦、または船上での白兵戦で使いやすい。


「やっぱり、あの海賊ども頭に黄巾を被ってるぞ」


「誰だろうと関係ねぇ。今は戦いに集中しろ」


 石真も莉旋もみな、一度は太平道の恩恵を受けた者たちばかりだ。土のような黄色を目にした部曲の中に、少しばかりの動揺が広がっていた。


「お前ら、焦るんじゃないっ。アイツらは太平道の名を騙って狼藉してるような輩に違いねぇ。落ち着いて俺たちのすべき事をするんだ」



 そう皆に告げると莉旋にこの場を任せて、石真は次の作戦を実行すべき浜辺から離れていった。


 莉旋も部曲の隊長だ。石真がいなくとも戦意を喪失する事なく士気を高める事ができる。


「俺たちをただの漁師だと思ってるようだな。相手をよく引き付けてからぶちかますんだ。みんな俺の合図を待てよ」


 近づいてくる走舸には十人づつくらい乗っており、それぞれが槍のような武器を手にしているのがわかる。


 海賊たちは大声を出しながらこっちに向かってくる。銅鑼の音や怒号などが響き渡ってくる。相手を威圧して怯えている所に急襲をかけるやり口だ。


「よし、今だ!」


 莉旋が大声で合図を放つと、船底に隠れていた者たちが一斉に立ち上がり、海賊の走舸に飛び乗っていった。


 海賊たちは漁師から逆襲されるとは思っておらず、五隻の走舸はさほどの時間を要さずに制圧された。


「一人も逃がすな!」


 莉旋が率いるのは屈指の精鋭だ。海賊たちの反撃を許す時間を与えなかった。


 走舸で襲来した海賊の半数は討ち取られて海の藻付となったが、残りの半数の海賊と五隻の走舸は拿捕して海岸まで引き上げた。


 東側に見える海賊の帆船から反撃の部隊が投入されるのかと思いきや、主だった動きは見られず静観の構えを見せている。


「俺たちにかかりゃ、海賊なんぞ目じゃねぇぜ」


 海賊たちは怖気ついてしまったのかと高を括っていた莉旋だが、その考えは全くの間違いであった。


「おいっ、向こうからデカい船が来るぞ!」


 大型の帆船が銅鑼や太鼓を鳴らしながら、さらに五隻も現れたのだ。しかも三隻は西側から現れており、西側と東側の挟み撃ちの形となる。


 東西の大型帆船の周りにはそれぞれその周りには走舸などの快速船が数十隻も取り巻いている。見たこともない規模の大海賊である。


「くっそ、こんなすげえ海賊だったなんて聞いてねぇぞ。これじゃ逃げ場がねぇ。おカシラにすぐにしらせねぇと」


 その頃、石真は捕虜になった海賊たちを砂浜で締め上げていた。必要な情報を集めて海賊に対抗する為であるのと同時に、海賊たちに見せしめる為の人質として。


「おカシラっ、海賊たちがデカイ船を連れて戻って来やがった! しかも挟み撃ちだ!」


「そうか。海賊の船は、帆船が六隻で、走舸が二十六隻か?」


「ええ。帆を張ってる船は東と西で三隻づつだから六隻ですが、走舸は何隻あるか数えてねえです。でも、たぶん三十隻くらいだったと思います」


「馬鹿野郎! 走舸でもちゃんと何隻あるか正確に把握しておけと、言っておいただろうっ。まだ時間があるだろうから、ちゃんと見て調べて来い!」


「へ、ヘイ。すんませんでしたっ」


 石真に怒鳴られて、急いで浜辺に戻る莉旋。


 それにしてもなんで石真は船の数を把握してたんだろうと、莉旋の脳裏を過ぎったが、すぐに答えは出た。捕虜にした海賊から聞き出したのだと。


「かしらぁ、海賊どもはそれぞれ帆船三隻を奥側に置いて、走舸を前方に並べて挟み撃ちの体勢で向かってきています。走舸はそれぞれ十三隻づつの合計二十六隻でした」


 石真は「よし!」というと、立ち上がって外に出て海の方を眺めた。


「それにしても美しい景色だ……」


 これから戦いを始めるのに、石真は養馬島を取り巻く美しい景色に目を奪われてしまった。


 海賊の船すらも風景に溶け込んで情緒的に見えてしまう。しかし、すぐに気を取り直して莉旋に指示を下す。


「捕虜どもの言った通りだな。いいか、莉旋。あの海賊の頭は、管承(かんしょう)……確か、字は宋全(そうぜん)だったな。あいつらはやはり太平道の残党だ」


「管承? おカシラはそいつを知ってるんですか?」


「名前だけはよく聞いている。元は長広(ちょうこう)(県)の豪族の出らしいが落ちぶれて賊になり、その後、太平道の信徒になったって話だ。まさか海賊だったとはな。相手にするには厄介かもしれんな」


「でも、いまさら後には引けねぇぜ、おかしら」


「もちろんだ。お前が海賊と小競り合いをしてる間にちゃんと策を用意しておいた。これからアイツらにいっちょ泡でも吹かせてやるぜ。おめぇら、すぐに戦の用意をしろ」


 横に細長く海岸線に並行に浮かんでいる養馬島の両側から、挟み込むように船団で攻めてくる海賊たちに対して、石真たちが取れる行動は海岸から離れて陸地に撤退する事のみ。


 莉旋はもしや海賊を陸地におびき寄せて迎え撃つのかと訪ねたが、石真は「そんな甘い奴らじゃない」と鼻で笑った。


 そして「まぁ見ていろ」と言った。石真は莉旋が漁の準備をしてる間に、養馬島の漁民たちを密かに説得して海賊を一網打尽にする策を話し合っていた。


 石真の策とは、海岸に人質を餌に海賊を海岸へと誘き寄せる点は一緒だが、陸地で決戦をするのではなくて、海上での決戦を仕掛ける点であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。