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第6話 謝罪


「ふむ、、、、今日もライドルのヤツは自室に引きこもっておるのか」


「はい、食事だけはドアの隙間からとっておりますが、こちらが声をかけても返答もありません」


君島にもふられイってしまったライドルは、今日も絶賛引きこもり中であった。


「将軍不在で、軍関係の決裁が溜まってますが」


「副官たちも、困っている様子でした」


「まったくあやつにも困ったものだな。日本との国交も決まり使節団の準備もしなくてはいけないという時

に、はあ、胃の痛むことばかり続くものだな・・・・」


日本側との昼食時、ワンゲルは外国の使節の前にもかかわらず、ため息をついた。同席していた君島は

その様子を見て、心底申し訳ない、という表情になっていた。


「申し訳ありません。私が将軍に失礼なことをしたばかりにこんなことになってしまって。魔王陛下、もし

よろしければ将軍に直接謝罪をして、執務に戻られるようお話しをさせていただきたいのですが」


ずいぶんとしおらしい様子の君島の言葉に、日本側、魔界側からも賛同の声が上がる。


「そうだな、女性に触られた程度で引きこもるとは、とても栄光ある魔王軍総司令官の態度とは思えん。

君島殿、すまぬがそなたからもあやつの説得を頼むぞ」


「元はと言えば君島君、君の行為が原因だ。日本国外交官として、しっかり責任を果たしたまえ」


「はい、、、はい、ありがとうございます」


ワンゲルや武藤の言葉に、君島は目を潤ませながらそう返事する。昼食後、一行はライドルの部屋へと

向かっていった。1人残されたピコリーナがボソっと呟く。


「みんな、わかってないのですぅ、、、、あの態度、あれは男をからめ捕るアラクネの糸なのですぅ・・・・」


さて、ライドルの自室前に着いたワンゲルは、扉をノックして彼を呼び出す。


「ライドルよ。私だ。いい加減部屋から出てこぬか。軍務も滞って皆も迷惑しているぞ」


「しかし、魔王さま、、、、ヒッ!」


まるで借金取りを相手にするようにそーっと自室の扉を開けたライドルは、傍らの君島を見て小さく悲鳴

を上げ、再び引きこもろうとした。


「まあ待て、君島殿はそなたに謝罪しにやってきたのだ。貴様も栄光ある魔王軍の将軍なら、女性の

謝罪を受け入れるくらいの度量は見せぬか」


「うっ、ま、まあ魔王さまがそうおっしゃるのであれば・・・・」


ワンゲルの他に武藤の存在も確認したライドルは、彼らを自室に招き入れた。


「将軍、この間は本当に申し訳ございませんでした」


「まあ、、、過ぎたことだ。あれは水に流しても・・・・」


殊勝な態度で謝罪する君島にライドルも許そうかという時、ワンゲルの元へ伝令がやってきた。


「陛下、メラディナ殿の後任について、ガラリア宰相よりご相談したいことがあるとの伝言です」


「む、そうかわかったすぐに行くと伝えろ。じゃあライドル、後は2人で解決せよ」


「えっ! 魔王さま・・・・」


その直後、武藤の元にも使節団の団員から呼び出しがあった。


「武藤団長、本国政府より魔界との国交樹立について、いくつか確認したいとの連絡が入っております。

取り急ぎ通信機のある部屋にお越しください」


「わかったすぐに行くぞ。じゃあ君島君、将軍に誠心誠意謝罪するのだぞ」


「はい、団長」


「えっ! ムトウ殿まで・・・・」


そうして、部屋にはライドルと君島の2人が取り残された。


「あ、あー、、、、君島とやら・・・・」


額から脂汗を流しながら、君島に話しかけるライドル、だが彼女はそれに答えることなくすっと頭を下げる

と部屋の入口へと向かった。出て行ってくれるのかと一瞬ほっとしたライドルだが、すぐにそれははかない

希望であったと思い知らされる。彼女は扉を閉めるとガチャっとカギをかけてしまったのだ。


「お、おい、、、なぜにカギを閉めるのだ」


振り向いた君島はそれまでの殊勝な態度がウソのように、満面の笑みを浮かべていた。その口元は

魔女のごとく、怪しく弧を描いている。


「うふふ、やっと二人きりになれましたね。将軍」


「あ、ああ・・・・」


近づく君島に、ライドルは金縛りにでもあったかのごとく硬直している。それはまるで、アラクネに捕えられた

哀れな獲物のようであった。


「む、あの2人ずいぶんと姿を見せぬな」


「ははは、話がはずんでいるのではないですか」


それぞれの所用を済ませたワンゲルと武藤は、魔王城の大会議室で雑談していた。


「それでは、そなたがニホンの大使に任命されたのか」


「はい、まだ内示の段階ですが、、、、ところで大使館の事務所についてご相談がありまして」


「ああ、それならガラリアに手配をさせよう、、、、と、誰だ」


その時、会議室のドアがコンコンとノックされた。


「失礼いたします。ライドル将軍と君島殿のご来訪です」


「そうか、2人ともずいぶんと話し込んで、、、、んっ」


ワンゲルは現れた2人を見て、訝しげな表情になってしまった。なぜなら、君島の顔はお肌ツヤッツヤな

状態で、ライドルは視線を虚空に彷徨わせ、自我も感じられない状態だったから・・・・


「ライドル、、、、そなたなんか様子がおかしいぞ」


「マオウサマ、ソンナコトハアリマセンヨー」


「そなた、なぜに棒読みなのだ・・・・」


そして君島の方はまるで恋人のように、ライドルに自分の腕をからませている。


「おいおい、ずいぶん短期間で親しくなったじゃないか」


「ええ、お互い話がはずんでしまって、、、、ね、ライドル」


「ハイ、ヒトミ」


敬称抜きで呼び合う2人に、日本側からは”おっ、これはひょっとして” ”ははは、日本と魔界のカップル

第一号誕生ですかな”などとすっかりおめでたい気分になっている。


「そうか、まあ仲良くなることは良いことだ。ところで武藤殿、使節団派遣の件だが・・・・」


ワンゲルは速攻でこの事をスルーすることに決めた。深く突っ込んだらまたまた胃痛のタネが増えると

直感したからだ。


”人族に魔将軍と恐れられたライドルを、短期間で腑抜けにするとは、、、、ニホン、なんて恐ろしい国なの

ですぅ・・・・”


ピコリーナは、内心そう呟くのであった・・・・


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