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第3話 夕食会と国交樹立


「さあ、まずは魔界自慢の料理、とくと味わってくれ」


「お気遣い、恐れ入ります」


謁見の間でのゴタゴタ騒ぎを大人の対応で、”なかった事”にしたワンゲルと武藤、今、広間で使節団を

招いての夕食会が行われていた。メニューはスープから始まる地球の一流レストランにも負けないフル

コースである。


「ところで、ライドル将軍は欠席ですか」


「ああ、あやつは体調が悪いとかでな・・・・君島殿、ライドルに何か用か」


「ええ、先ほどは我を忘れて失礼なことをしてしまったので、一言お詫びをと・・・・」


そう殊勝な様子でうなだれる君島を見てワンゲルも、”ふむ、一応反省もできるのだな”と思っていた。

しかし・・・・


”ちっ、隣りの席になってもふるの楽しみにしてたのに”


と内心思っていたことには気づかなかった。君島瞳28歳、もふりに人生を捧げた生粋のモフリストである。


「メラディナさんも、姿が見えませんね」


「彼女なら、”旅に出ます、探さないでください”という書き置きを残して消えてしまったのですぅ・・・・」


「・・・・そうですか、まあ若い時はいろいろ悩むことがありますからなあ」


そう他人事のように言う武藤を見て、ワンゲルは内心、


”お前らのせいで諜報担当いなくなっちまったんだよ! 大体メラディナは150歳だぞ、お前らより年上だよ”


と毒づくのであった・・・・


「次は、お魚の料理になります」


給仕の言葉を聞いて、ワンゲルは内心ほくそ笑む。これまでも友好を求めにやってきた人族はいたが、

この料理を見るやいなや、


”なんだこれは! やっぱり魔界は野蛮国だな!”


と本音をむき出しにした。もちろんその後は死なない程度に痛めつけてから、魔界の外に放り出したので

ある。


「むっ、これは」


予想通りの反応に、ワンゲルは内心の笑みを更に深くする。いよいよこいつらの化けの皮がはがれる時

がやってきた、と思ったのだが、


「カツオのカルパッチョみたいですね。おいしーい」


「港からずいぶん離れているのに新鮮だな。冷蔵技術も発達しているようだ」


これまで生魚を出して激高した人族とは違い、おいしそうに料理を平らげる使節団の連中を見て、ワンゲル

は目を丸くしてしまった。宰相始め他の重臣たちも同様だ。


「ほ、ほほほ、ニホンの方々は生魚をお食べになるのですかな」


「ええガラリア殿、詳しいことは明日ご説明いたしますが、日本は海に囲まれた島国でしてな。昔から生の

魚を食べる文化があるのですよ。国交が樹立したあかつきには、ぜひ日本の伝統料理を皆さまに味わって

いただきたいものです」


「そ、そうですか・・・・はは、そうなることを我々も望んでおりますよ」


武藤の言葉に宰相やワンゲルも顔を引きつらせながらその場を取り繕うことしかできなかった。こうして、

魔界と日本との初顔合わせは、なごやか(?)な雰囲気で終わったのである。その翌日、本格的な交渉

が開始された。


「では、これより日本国の説明を始めさせていただきます」


「武藤殿、この見慣れない器具はなんだ」


「これはプロジェクターといいまして、映像を映し出すことができる機械です」


使節団はバッテリーやプロジェクターなど一式を持ち込んでいた。外国人向けの観光PR用DVDを使って

説明をするつもりなのだ。これまた持ち込みのスクリーンに映像が映し出され音声が流れると、魔界の側

からは”おおっ”とどよめきが上がるのであった。


「こんな鮮明な映像が映せるとは、、、、ピコリーナよ、魔界の魔導技術で可能か」


「申し訳ございません陛下、現在の魔導技術では不可能なのですぅ・・・・」


そうこうしているうちにDVDは日本の自然や名所旧跡、そしてすさまじく発展している大都市などを次々と

映し出していった。その度に魔界側の受ける衝撃は増していった。


「人口は一億二千万とな、、、、魔界どころか人族全てを合わせた人口よりも多いぞ」


「経済は前の世界で第三位か、すごい大国のようだな」


ワンゲル達の衝撃は、次の自衛隊を紹介するDVDで頂点に達した。


「まずは海上自衛隊です。護衛艦と潜水艦からなり・・・・」


空母化されたいずもから飛び立つF35、目に見えない敵を捉えるミサイルという兵器、水中深く潜ることの

できる潜水艦など、いずれもワンゲル達の理解を超える兵器ばかりだった。更に航空自衛隊の音速を

越える戦闘機、陸上自衛隊の誇る10式戦車や特科部隊の砲撃など、ガイアードルの常識を遥かに凌ぐ

破壊力を持つ地球の現代兵器、DVDが終わる頃には彼らの顔は真っ青であった。


「ガラリア、ピコリーナ、正直に答えてくれ。ジエイタイを相手に魔王軍は勝てるか」


そっと尋ねるワンゲルに、2人は首を横に振った。彼は、武藤に絞り出すような声で質問した。


「ニホンは、すごい軍事大国のようだな」


だが、武藤は意外なことを、というような表情でそれに答えた。


「いえ、我が国は憲法、国の規範となる法律で軍備を制限されておりまして、自国の防衛ができる程度の

最小限の軍備しかありませんよ」


「「「「「ええっ!」」」」」


これまでで一番の衝撃的な発言だった。あれで最小限の軍備、ニホンがいた地球とは、どんな修羅の

闊歩する世界だったのだろうか。


「・・・・そなたらは、魔界に何を望む」


「はい、対等な関係での国交樹立です」


「ニホンの軍ならこの世界を征服することも可能だ。なぜそれをせぬ」


その問いに武藤は少し考え、こう答えた。


「軍事力で制圧しても、後の世代に恨みを残すだけでしょう。それよりお互いが損をせず、利益を享受

できるような関係を築いていった方が良いと、我々は過去の経験からそういう考えに至ったのです」


ワンゲルは思った。彼らニホンは恐らくガイアードルとは比べ物にならないほどの、血みどろの歴史を

歩んできたのだと、そしてその経験の上で、このような考えに至ったのだと・・・・


「・・・・わかった、我が魔界はニホンと対等な関係での国交を結ぶとしよう。詳しいことは後の会議で話し

あうとするか」


「はい、陛下のご決断に深く感謝いたします。本国政府も喜ぶことでしょう」


ワンゲルの決断に武藤は満面の笑みで答えた。ワンゲルは内心、


”また、胃薬が手放せなくなるな・・・・”


と呟いた。その予感通り、彼のストレスはマッハ(死語)で加速していくのであった・・・・


次回は、もう一人の苦労人が登場予定です。


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