表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/37

おまけその十二 魔王さまはようやく胃痛から解放されました?


「では、皆の者世話になったな」


「うう、グスっ、、、、正式に国交結んだら、遊びに行くからね」


港で別れを惜しんでいるのは、ハクレンとその腐った友人たち、今日はヤツルギ国の使節一行が帰国する

日なのであった。ビゼンたちも日本政府の要人たちの見送りを受け、笑顔で会話を交わしている。ちなみに

行きは護衛艦だったが、帰りは日本側が用意したクルーズ船での豪華な船旅だ。


「カガリサン、オチョウサン、オセンサン、ユナイテッドステーツガ建国サレタアカツキニハ、ゼヒゴ訪問

クダサーイ。国民アゲテ歓迎イタシマスデース」


「ディアス殿、わかり申した」


カガリはディアスの熱烈なお誘いに、引きつった愛想笑いでそれに答える。オセンやオチョウも同様だ。

晩さん会で大立ち回り以降、米側の彼女たちに対するラブコールは日ごとに大きくなり、中にはプロポーズ

までする者も珍しくはなかった。まあ、カガリたちも年頃の娘である。突然訪れたモテ期に内心は満更でも

ない様子だった。後でそれを聞いたムラクモがなぜか大慌てするのだが、それはまた別の話である。


「では、当店は本日より開店です。皆さんもこれまで受けた研修を忘れず、笑顔でお客さま第一の対応を

心がけてください」


「「「「「「はい、店長!」」」」」」


ここは大手コンビニチェーンの新店舗内のバックヤードだ。店長がスタッフに心構えを訓示するありふれた

光景、ただ違うのは、この新店舗がハーネス聖神教国の聖都ジャンダルム、しかもその総本山前に位置

していることである。店長は日本の本社から派遣されているが、他のスタッフはいずれも現地採用、厳しい

競争倍率を勝ち抜き日本で半年みっちり研修を受けた者たちだ。本社でも”将来は幹部候補に”との声が

あるほど優秀な人材である。すでに日本領となったトルード県や魔界では日本のコンビニや外食チェーン

も進出しているが、聖神教圏ではこれが初の本格進出となるものだ。


「うーむ、しかしこのデザインは・・・・」


「首相、日本のコンビニと全く同じデザインですね・・・・」


開店のテープカットに訪れた相葉は、コンビニを見てなにやら考え込んでしまった。周りの建物がヨーロッパ

の世界遺産な意匠なのに対し、完全に日本と同じデザインの店舗は思いっきり浮いていた。


「いえいえアイバ殿、これなら一目でニホンのお店だと、誰にでも認識できますぞ」


「そうですよあなた、こちらのデザインにしてしまったら、周囲に埋もれて目立たなくなってしまいますよ」


相葉に同行していたルーデルとマデラは、そう彼に言葉をかけた。当初は周囲の雰囲気を壊さないよう

こちら風のデザインを提案した日本側に対し、


”それだと異世界らしさが感じられない”


と聖神教国側は難色を示し、結局日本と同じデザインの店舗になってしまったのだ。確かに、アチラから

見れば日本は異世界だ。それに今回の開店は、国交は結んだものの今なお残る千年続いた偏見に満ちた

教義の払拭を行いたい聖神教圏の思惑もある。そのため、単なるコンビニの開店イベントに首相や教皇が

出席することになったのである。


「それでは、日本国相葉首相とルーデル教皇猊下による、テープカットを行います」


司会の言葉の後、相葉とルーデルが同時にはさみを入れると周囲から拍手が起こった。続いて2人は店内

でそれぞれペットボトルの飲料や文房具などを購入し、最初のお客となった。


『ハーネス聖神教圏初のコンビニは、総本山への巡礼客などで連日大賑わいを見せております』


テレビのニュースからは、コンビニの盛況振りが伝えられている。店の品ぞろえは日本とほぼ同じなのだが、

文房具や生活雑貨、食料品などはこれまで地球の中世同様の生活をしていた一般民衆にとって、とんでも

ないオーパーツのようなものだ。しかもそれらが廉価で手に入る。それを指をくわえて眺めていた既存の

店舗には、日本のチェーンからフランチャイズ契約の営業がかかってゆく。こうして、聖神教圏にも徐々に

日本の影響が強まっていくのであった。


「うう、、、胃が、胃があぁぁぁぁぁっっ!」


「魔王さま、落ち着いてください。我らには待つことしかできませんゆえ」


「そうです、ピコリーナも付いております。問題はありませんよ」


「うう、しかし我は心配で心配で」


そう言いながら廊下をうろつくワンゲル、ここは日本の援助で建設された病院内だ。今、彼の妻が出産を

迎えようとしていたのであった。日本の医学の導入で出産の危険は劇的に改善されたとはいえ、負担の

かかる出来事であるのは変わらない。しかし、男どもにはいかんともしがたいのは世界は違っても同じ

なのだ。ワンゲルはもちろん付添いできたガラリアやライドルも、ただ廊下をウロウロすることしかできな

かった。そして待つことしばし・・・・


「おぎゃあぁぁぁっっ! おぎゃあぁぁぁぁっ!」


赤ちゃんの元気な泣き声が響き渡ると同時に、分娩室の扉が開いた。


「おめでとうございます。元気な娘さんですよ。母子ともに健康です」


「おおっ、魔界の神よありがとうございます」


ワンゲルは男泣きに泣きながら、神に祈りを捧げていた。ガラリアやライドルも同様である。こうして、彼の

娘は周囲の愛情を一心に受けてすくすくと育っていった。後に弟や妹も誕生、長らく独り身だったワンゲル

は、幸せな家庭を築きいつしか胃痛に悩まされることもなくなったのである。


                                          完


「あ、ハクレンさまお久しぶりですー」


「おうおう、皆も元気にしておったか」


数年後、魔界を訪問したヤツルギ国使節に同行したハクレンは、ワンゲルの子供たちと久々の再会を

喜び合っていた。政治の話をワンゲルと使節代表が行っている間、ハクレンは子供たちの相手をして

いたのである。


「ねえねえハクレンさまー、お土産買ってきてくれたー」


「ほほほ、そう逸るでない、ちゃーんと買うてきておるぞ」


「わーい、ありがとうございます」


そうして、顔を見合わせて”腐腐腐腐”と笑いあうハクレンと子供たち、彼女のお土産とは、聖地東池袋で

仕入れた”薄い本”であった。


「ほほほ、そなたらが大きくなったら”あーるじゅうはち”モノも買うてきてやるからな」


「わあ、楽しみにしてますよー」


ワンゲルの胃痛が再発する日も近い、、、、合掌


当小説もこれにて完結です。ご愛読いただいた皆様ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ