おまけその十一 ヤツルギ国騒動記~こうして浮世は事もなし、の巻
「おお、ここはこの世の天国か、カオリにマデラよ礼を言うぞ」
「いえいえ、ハクレンさんにも喜んでいただけて良かったですよ」
そうして”腐腐腐腐”と腐った微笑みを交し合う女性グループ、ここは東池袋三丁目、ハクレンは高橋や
マデラたちと”聖地巡礼”の真っ最中であった。
「ほほほ、これだけあればヤツルギでも布教に弾みがつくというものであろうのう」
「はい、ハクレン様」
”護衛”の名目で付いてきたオセン、オチョウの2人だが、両手には”戦利品”をずっしりと抱えている。
後にヤツルギ国では浮世絵の技法を駆使した”びいえる本”が盛んになり、日本にも輸入されて密かな
ブームになったりするのだが、これはまた、別の話である。
「「「「「お帰りなさいませ お嬢様」」」」」
「ほほほ、世話になるぞ」
お買いものを済ませた一行は、執事喫茶でしばし休息を取ることにした。腐った会話に花を咲かせる彼女
たちであったが、ハクレンがおもむろに席を立ちあがる。
「うーむ、ちとお茶を飲み過ぎたようじゃのう、、、お花摘みに行ってくるぞ」
彼女はお手洗いへと立っていった。
「陛下、間もなく目的の座標へと到着いたします」
「そうか、到着と同時に軍を動かすぞ。ザリックよ準備はよいか」
「はい、空中機動艦隊始め全軍出撃準備完了しております!」
相葉の言葉通り、地球やガイアードル以外にも別世界は存在していた。彼らはその世界でも列強国である
”ギデオン魔導帝国”、その技術力は21世紀の地球より数百年は進んでいる。すでに光速で飛ぶ宇宙船
も実用化していたのだ。しかし、彼らの世界は度重なる戦争やマナの枯渇で滅亡寸前であった。そのため、
帝国はその優れた魔導技術で別世界への移転を決断、圧倒的な軍事力で転移先を支配しようと目論んで
いたのである。
「転移先の技術レベルは、如何ほどのものか」
「観測によると、飛行物体はあるものの我らより数百年は遅れておりますな。多少の抵抗は受けるでしょうが
問題になりますまい」
「ふふ、そうか、逆らう者は容赦なく殲滅せよ。そうでなければ奴隷として、、、、」
彼の言葉は最後まで続かなかった。なぜなら、警戒厳重な帝王の間に、巫女装束の女性が突然現れた
からだ。
「貴様、何者だ!」
「ふむ、、、、悪しき気を感じてみれば、また愚かな国があったものじゃのう」
「無礼な、衛兵よこやつを殺せ!」
衛兵が一斉に魔導光線銃で攻撃を浴びせかける。だが、全て彼女の展開した障壁に弾き飛ばされた。
「ば、化け物かっ!」
「こんなか弱い乙女に化け物とは、そなたらの方がよほど無礼じゃのう」
そして、女性は冷徹な視線を向ける。
「そなたらが友好的であったなら、受け入れるのもやぶさかではなかったが、残念じゃ、ちぃーとばかし
違う所に行ってもらうぞ」
「はっ、貴様何を言っておるのだ?」
帝王の疑問に答える者はいなかった。女性が消えると同時に、ギデオン魔導帝国は文字通り一片も
残らずこの世から”蒸発”したのであった。
「ん、何だあれ」
「湯島君、何かあったのか」
「はい主任、今太陽の表面がわずかに波打ったような感じになったんですよ」
「フレアの活動が少し活発になったんじゃないか」
日本の国立天文台では、太陽の表面でわずかな変化が起きたことが観測された。彼らはそれを、たまたま
発生した現象であると結論づけた。
「あら、ハクレンちゃんずいぶん長かったじゃない」
「すまんすまん、少しお茶飲み過ぎた様じゃ」
東池袋の執事喫茶、席に戻ったハクレンは再び友人たちと会話を再開する。しかし・・・・
「ハクレンちゃんどうしたの、何だか顔色が良くないわよ」
「そうですよ。疲れでもたまっているのなら少し休まれた方がいいですわよ」
「いや、具合が悪いわけではない、心配させて済まなんだ」
ハクレンはポツリ、ポツリと話し出す。それは彼女の本音であった。
「カオリたちと知り合えて妾は生まれて初めて楽しい思いをしているぞ。これが永遠に続いていって欲しい
と願っているのじゃ・・・・」
高橋たちもハクレンと自分たちの寿命が違いすぎることは知っている。だからこそ、あえて言う。
「そうよね、私たち後生きられるの数十年だもんね。でも・・・・」
「でも?」
「私たちの子供、その子供、子々孫々までハクレンちゃんのお友達になるよう家訓として残しておくからね!」
「そうそう、だからそんな寂しそうな顔しないの」
「みんな、、、、みんなありがとう、妾には感謝の言葉しかないぞ」
高橋たちの友情にハクレンも涙ぐむ。しかし、そんな感動的な場面でマデラが特大の爆弾を投下した。
「でもカオリさんたち、それなら先にお相手見つけなきゃいけないんじゃないの」
「「「「「がはあっ!」」」」」
マデラの無慈悲な一撃に、独身喪女たちは吐血してしまった。
「くっ、これだからリア充は・・・・」
「もはや、転生してまたハクレンさんとお友達になるしかないわね・・・・」
「由香里、あきらめちゃダメよ! こうなったらヤツルギ国でいい男ゲットするのよ!」
血涙を流しながら歯ぎしりする彼女たちを見て、オセンやオチョウは”あーなる前に、いい男見つけよっと”と
思い、そしてハクレンは笑顔かつ、慈しみに溢れた目で見つめていた。こうして、彼女たちの友情は世代を
超えて続いていくのであった。
まあ、腐ってはいるけれど・・・・
ほとんど別作品になってしまったヤツルギ国編、これで一旦完結です。




