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おまけその六 ヤツルギ国騒動記~ヤツルギの守護神登場の巻


ヤツルギ国の使節を乗せて出発した艦隊は、順調に航海を続けていた。行きは測量なども兼ねていたため

3週間ほどかかったが、帰りは10日ほどの船旅である。


「ビゼンよ、逆風なのにそれを感じさせぬ船足じゃのう」


「はい、我が国のアタケ丸とは比べものにならぬ船でございます。ハクレン様」


使節代表のビゼンが丁寧な口調で対応しているのは、巫女装束の妙齢の女性である。彼女はヤツルギ国

が使節を派遣することをどこからか聞きつけて、自分も乗せろと要求してきたのだ。そんな横車がすんなり

通ったのは、彼女が人間ではなく龍神と呼ばれる存在だったからだ。


「あ、こんなとこにいたのハクレンちゃ~ん、もう3時だから食堂でお茶しましょ」


「お、カオリよもうそんな時間か。して、本日のお茶菓子は何なのだ」


「シュークリームだって~」


ハクレンは今は人型となっているが、本体は齢数千年を超える龍だ。西洋のドラゴンでなく日本や中国の

伝承にある龍とそっくりの姿をしている。元々はこの大陸で気ままに暮らしていたが、苦難の航海の末辿り

着いた黒目黒髪の人族に同情し、以来彼らの守護神として信仰を集めている。そんな神に近い存在に

タメ口を吐いている勇者は、カガリのブラックリスト筆頭に掲載されている高橋かおりであった。


「た、タカハシ殿、ハクレン様に向かってその物言い、さすがに無礼ではありませぬか」


「オグリよかまわぬ、妾もカオリには友として接してくれるよう頼んでおるのだ」


相変わらず堅物のオグリが抗議するも、ハクレンは笑って受け流した。高橋も最初は敬語で接していたが、

妙にウマが合うというのか今ではすっかり気の置けない友人、という関係である。


「まあ、ハクレン様がそうおっしゃるのであれば・・・・」


「うむ、それでは”しゅうくりいむ”とやら、味わいに行こうか」


そして、2人は仲良く食堂へと向かった。その姿は完全に親友同士のそれである。ハクレンもしばしばお忍び

で訪れた城下町で、町娘たちが楽しそうにおしゃべりをしているのを見て、自分もそういう友人が欲しいと

思っていたのも大きな理由だ。ただ、ヤツルギ国ではすでに神様扱いだったため、フランクな関係を築くのは

不可能であったのだ。


「はあ、ハクレン様がお許しになったとはいえ、気安すぎるのも困りものじゃのう」


「まあよいではないか。あのような楽しげなハクレン様のお顔、我らも初めて見たぞ。きっとお心の中では

立場も関係なく、付き合える友を欲していたのであろう」


オグリのため息に、ビゼンは微笑みながら答える。これがカークならまたまた口論になっていただろうが、

ビゼン相手では彼も同意するほかなかった。


「しかし、万が一の備えだけはしておかねばなりますまい、、、カガリはいるか」


「はい、ここに」


オグリはカガリを呼び出した。もし、高橋がハクレンに含むところがあれば大事である。彼はその監視を

カガリに依頼しているのであった。


「あの者の様子は、変わりないか」


「はい、他の女性ジエイカンとも一緒に、ハクレン様と歓談をしておりますな。オセン、オチョウ、そなたら

が見て不審な点はないか」


「はい、ございません」


「うむ、引き続き監視の手は緩めるな」


カガリは配下の者にもそう命ずる。さて、食堂ではハクレンや高橋、親しくなった女性自衛官たちがワイワイ

キャアキャアと女子会を開いていた。


「でも、ハクレンさん最初に現れた時はびっくりしたんですよ~」


「そうそう、龍の姿だったからね。もしかして攻めてきたのかと思っちゃったわよ」


「ははは、それはすまんことをしたのう。妾も永いこと生きておるが、こんな鉄の船を見たのは初めてでな。

つい龍の格好で出てきてしまったのじゃ」


最初は迎撃態勢をとった日本側だったが、ヤツルギ国の人々が祈りを捧げているのを見て、あれは神様

かそれに近い者だと判断したのである。ハクレンもハーネス聖神教の弾圧は知っており、もしヤツルギ国

を害するような存在であれば、情け容赦なく殲滅する気であったのだ。


「しかし、聖神教も教義を変えたのか」


「ええ、古文書を調べたらしょーもない理由だったのが判明したし、今は前教皇が首相の奥サマだしね」


当初教義の変更に抵抗を示していた者たちも、それが単なる政争が発端だったことを知り180度方向

転換してしまった。今では千年前から最近までの期間を”衆愚に陥った暗黒時代”と呼ぶ向きもあるそうだ。


「まあそんなことよりカオリよ、日本に着いたら案内頼むぞ」


「うん、スイーツやお洒落な服のお店調べてあるから、まかしといてね」


「私たちも休みとって行くからね~」


そんなほのぼのとした女子会、それを遠目から見ているのはカークとオグリ、それに外務省の村上である。


「いやあ、、、あんな嬉しそうなハクレン様はヤツルギ国ではついぞ見たことはなかったな」


「初めて親しい友人ができて、本当にうれしかったんでしょうね」


「我らヤツルギの民は、ハクレン様に寂しい思いをさせていたのじゃなあ・・・・」


珍しくオグリもカークと同意見であった。3人は2日後の日本到着に向けて、その打ち合わせのため食堂を

後にした。残ったのはハクレン達だけだ。彼女らは周囲に誰もいないのを確認すると、その雰囲気を一変

させる。


「腐腐腐腐、みた、今の3人の様子」


「ええ、いつもはカークさんに咬みついているオグリさんがデレたわ。何という萌えなの!」


そう、この女性自衛官たちは日本出発直後から高橋のオルグを受け、腐海にどっぷり遣ってしまったのだ。

更にオタクはオタクを呼ぶというか、元々腐っていた方々もそれに合流し、今ではこの艦隊の一大派閥に

成長していたのであった。


そして、その様子を見ていたハクレンは、、、、


「愚腐腐腐腐、これは、ムラカミ殿総受けという展開でどうかのう」


【悲報】 ヤツルギ国の守護神が腐海に堕ちてしまった件について


「村上さん頼りなさげだから、カークさんとオグリさんに”どちらを愛してしるのだ”と迫られあわあわする

シチュなんてどう」


「いや、それよりムラカミ殿が(ねや)では俺様きゃらとやらに変貌するというのはどうじゃ」


「ベッドの中で”いつもケンカばかりの悪い子たちは、お仕置きだ”なんて、どうかしら」


「はあはあ、、、それは萌えすぎるぞ」


こうしてわいわいきゃあきゃあと己の欲望をむき出しにするハクレン達、すでに全員ギラギラと目を輝かせ、

何だか鼻から赤い液体まで垂れ始めていた。


「まあカオリよ、日本に着いたら”聖地”への案内頼むぞ」


「うん、聖地”乙女ロード”巡礼、執事喫茶も予約しておくからまかしといてね!」


「私たちも休みとって行くからね~」


こうして、固い絆で結ばれた彼女たちの友情は末永く続いていくのであった。これは日本とヤツルギ国

との交流にも、大きな影響を与えることになる。


腐っているけれど・・・・


どうしてこんな話になってしまったのだ・・・・(遠い目)


なお、オタクはオタクを呼ぶというのは真実です。筆者は鉄オタですが、なぜか

同業者は匂いでわかりますです。


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