第2話 交渉開始
「ほう、トルード王国が戦に敗れたという情報は耳にしていたが、まさか相手はそなた達の国だったとは
思いもよらなかったぞ。で、どのように王国軍を破ったのだ」
「はい、まず日本の沖合に集結した軍船を砲撃で殲滅し、その後王国最大の港町ベスカに部隊を上陸、
ガリエテ平原で王国軍主力を壊滅させた後、王城を爆撃しました。ざっと1週間ほどで戦闘は終了です」
「んっ・・・・」
ワンゲルは思わずきょとんとしてしまった。武藤の説明に理解できない単語もあったのだが、何より魔界を
脅かしていた王国軍をわずか1週間で破るなど、非常識もはなはだしいことであったから。
「武藤とやら、まさか偽りは申しておるまいな。王国軍が1週間で壊滅するなど魔王軍でも不可能だぞ」
「お時間を頂ければ、日本の資料も用意してありますので、その時に軍事力についてもご説明できますが」
「わかった、それは後で聞こう・・・・」
そしてワンゲルは本題に入る。
「国交樹立については、即答することはできぬ。そなたらも長旅で疲れていることだろう。今日はこの城に
泊まるがよい。明日から改めて協議を行おうではないか」
「はい、当方もそれで・・・・」
その時、謁見の間の扉がバーンと開けられ、将軍ライドルがづかづかと入り込んできた。ワンゲルも彼の
不作法な振る舞いに顔をしかめる。
「陛下、人族と友誼を結ぶなぞそれがしは反対ですぞ! 大体その黒目黒髪も魔法で偽装しているのでは
ないですか! 陛下ともあろう御方がそんなことも見抜けぬとは!」
憤怒の表情でまくしたてるライドル、しかしその表情に反してピコピコ振れるケモミミや尻尾がチャーミングだ。
言うと怒るから黙っているけど。ちょうどその時、ようやく落ち着いた君島が謁見の間に戻ってきた。
「皆さん、お見苦しいところを見せてしまいま、、、、えっ!」
君島はライドルを見てその目を見開き、固まってしまう。その様子を見てライドルは吐き捨てるように言った。
「ふん、この小娘を見よ、口では友好だのなんだの言ってもそれがしの姿を見て恐れおのの「もっ」、ん?」
ライドルの言葉は途中で遮られた。
「もっ! もふもふだあぁぁぁぁぁっ!」
そして君島はワンゲルすら捉えられない素早さでライドルの後ろに回り込み、彼をもふり始めた・・・・
「な、小娘が何をする! あ、ああんっ」
「む、ここがツボなの、気持ちいいのね。ふふ、もっと気持ちよくしてあ・げ・る♡」
「な、それはちが、、、あ、しょこはらめえぇぇぇぇっ! お願いやべてえぇぇぇぇっ!」
もふもふもふもふもふもふもふ・・・・・
すでにライドルは膝から床に崩れ落ち、君島のなすがままだ。
「う、うあああああっ!(ドピュッ!)」
ライドルは白目を剥いて気を失ってしまった。目の前で繰り広げられた光景にフリーズしてしまった一同、
最初に再起動を果したのは団長の武藤だった。
「ふう、久々に素晴らしいもふもふをたんの、、、ぐえっ!」
「このばっかもぉぉぉん! 他国の人間に何さらしとんじゃあぁぁぁっ!」
武藤から特大のゲンコツを落とされた君島は、頭からしゅうしゅうと音を立てて倒れ伏した。そんな彼女
を使節団の者がさっきの別室に引きずっている。前は同情の目で見られていた彼女だが、今度はまるで
生ゴミでも見るような目つきで運ばれていった・・・・
「ゴホン、、、、部下が大変失礼いたしました。では陛下・・・・」
「うむ、詳細は明日の会議で行うこととしようぞ」
ワンゲルはさも何もなかったかのように答える。傍らで
「うう、、、もうおムコに行けない・・・・」
とさめざめと泣き続けるライドルのことは見ないようにしながら・・・・
「なあ、、、、君島君ってあーゆー人だったの。できるキャリア官僚って感じの人だったんだけどなあ」
「お前知らないのか。彼女学生時代に北海道のヒグマ牧場に乱入して、そこにいたヒグマ全頭もふり
倒したらしいぞ。動画サイトでも一時期ずいぶん話題になってたな」
どうもライドルを見た彼女は、それまでのタガが一気にはずれてヒャッハーな状態になったようだ。そんな
トラブルもあった謁見もようやく終わりを告げようとした時、再び2人の女性がこの場に踏みこんできた。
「陛下、ライドルは一体、、、、まあそれは置いといて、人族に舐めさせられた苦渋をお忘れですか。今は
良い顔をしていても、いざという時に裏切るのが人族というものでしょう」
そうまくしたてるのは魔王軍諜報機関の責任者、サキュバスのメラディナだ。ボンキュッボンの妖艶な美女
で、彼女のハニートラップに引っかかった人族の要人は数知れない。
「メラディナの言う通り、下賤な人族など焼き尽くすしかないのですぅ」
舌っ足らずな言葉でまくしたてる一見幼女なこの女性は、実は齢200歳を超えるエルフの大賢者にして
魔王軍魔導師団を率いるピコリーナだ。なかなかメラディナのようなボンキュッボンなボディに成長しない
ことが、秘かな悩みだったりする。
「お前らな・・・・」
「陛下、人族がいかに下賤な存在か、今証明してみせましょう」
そしてメラディナは使節団の中で一番若そうな男性にしなだれかかると、魅了の術式を展開した。今まで
これに抗える人族の男性は存在しなかった。そう、今までは・・・・
「あのー、初対面なのにあんまりベタベタ触るのやめてくださいよ。君島じゃあるまいし、失礼ですよ」
「うそ、、、私の魅了が効かないなんて」
「吉田、すげえな、、、、オレあんな美人に迫られたらコロっと落ちちゃうよ」
「正に大賢者だな・・・・」
吉田はメラディナを迷惑そうに引き離した。プライドをズタズタに引き裂かれた彼女はorz姿勢となって
しまった・・・・
「メラディナの魅了が通じない人族なんて、初めて見たのですぅ」
「ん、君は」
ピコリーナを見た吉田は、いきなり顔を紅潮させ、ハァハァと荒い息遣いとなって彼女に近づいた。
「ハァハァ、、、、君ピコリーナちゃんっていうの、どう、この謁見終わったらお兄さんと遊びに行かない?」
「な、この人気持ち悪いのですぅ!」
ピコリーナの手から炎弾が飛んでゆく。だが吉田はそれを無造作に手で払ってしまった。
「ふ、こんな炎よりボクの燃え盛る気持ちの方が大きいよ。さあ、一緒に遊ぼうよ」
「い、いやなのですぅぅぅぅぅっ!」
「はい、そこまでです」
壁際に追い詰められたピコリーナが悲鳴を上げた時、吉田の両脇は使節団の護衛を務めていたSPに
拘束された。
「なっ! 君達はぼくらの護衛のはずだろう!」
「我々はSPであると同時に警察官です。未成年者への強制わいせつ行為を見逃すわけにはいきません」
「そういえば、最近外務省近辺で子供への声かけ事犯が頻発していたそうだが、あれ吉田君だったのか」
「まさかあいつがペド野郎だったとは・・・・」
その後も”あれは合法ロリだ”などと叫ぶ吉田を、SPは連行していった。その後、彼の姿を見た者はいない。
「うっうっうっ、怖かったのですぅ」
「もう大丈夫よ。悪い人は警察が捕まえたからね」
泣きじゃくるピコリーナを、女性SPがなだめている。そしてそんな様子を見ていたメラディナは、失いかけた
自信を取り戻した。
「なんだ、あいつが変態だっただけじゃないの。よし、じゃあ武藤さんと言ったっけ、どう、今夜私と熱い夜
を過ごさないかしら」
彼女は今度は最年長の武藤にしなだれかかり、魅了の術式をかけた、しかし・・・・
「君みたいな若い子が、そんなことしちゃいけないよ。さあ、離れたまえ」
「そ、そんな、、、、まさかあなたもさっきの男を同じ変態なの!」
苦笑する武藤に、メラディナは悪態をつく。
「いやいや、さすがに子供に興味はないよ。私の好みはそうだねえ、、、、あそこに立っているご婦人の
ような方なんだよ」
「はいっ?」
いきなり武藤にご指名されて妙な声を上げたのは、謁見の間の隅に控えていた女官長だった。メガネを
かけたアラフィフな容姿で、これが武藤のドストライクゾーンであったのだ。
「あー、そういえば団長、熟女マニアだったからなあ・・・・」
「去年亡くなった奥さん、30歳年上だったよな・・・・」
「ううっ、、、、もう私魔王軍やめます・・・・」
今度こそ心を折られたメラディナは、部屋の隅で体育座りをしてシクシクと泣き始めた。そんな光景を見て
ワンゲルはこれまで以上の胃痛に教われるのであった・・・・
最初はシリアス風味でしたが、今話よりコメディ風味が強くなります。
よろしゅうに。