おまけその四 ヤツルギ国騒動記~和風ファンタジーにくノ一はかかせないの巻
「さて、もう夜も更け初めておるゆえ、今宵の夕餉は我がヤツルギ国の伝統的な料理を振る舞おうかと
思っているのじゃが、どうかな」
「はい、お心遣い恐縮です。喜んでご相伴に預かります」
宴の準備が整うまで、日本側の使節一行は一旦別室にて待機することとなった。家臣だけとなった広間
でムラクモは水軍奉行のカーク・マシュウに話しかけた。
「さてカークよ、そなたの目から見て彼らをどう思うか」
「いやねえ、確かにニホンの技術はすげえ、すごすぎる。だが、根っこの部分はオイラ達ヤツルギ国人と
おんなじような気がしてなりませんねえ・・・・」
生粋のジオウっ子であるカークは、べらんめえ口調でそう答えた。それに眉をひそめたのは、陸事奉行の
オグリ・コウズである。
「カーク殿、そなたはまた、そのような物言いをムラクモ様に、、、、ニホンの使節の方がよほど話し方を
心得ておりましたぞ!」
「ははは、まあ堅えことは言うめえさオグリ殿、もうこの話し方がすっかり染みついちまってさあ」
「だから! そなたは名家の筆頭という自覚がおありなのか!」
「オグリよそこまでじゃ、今は内部で争うておる時ではない。カークもあまり煽るようなことをするでない」
「「はは、申し訳ございません!」」
場が剣呑になってきた時、さすがにムラクモがこの2人を諫めた。名家筆頭でありながら若い頃は花街に
入りびたり、無頼の徒とも付き合いがあったカークと、名家の矜持を何よりも大切にするオグリはソリが
合わないことで有名だ。しかし、3年前に魔物が大発生した際は共同でそれに対処し、被害を最小限に
とどめている。2人とも国の危機を前に個人の感情を優先させるような、愚かな人材ではないということだ。
「余もカークの意見と同様じゃ。確かに、同じ国の民と接しているかのように錯覚したぞ。そこでカーク、
オグリよ、2人をニホンへの使節として派遣したい。そなたらの目でニホンを見て、感じるところを伝えて
ほしいのだ」
「「御意に」」
ムラクモは自らの親書を2人に託し、日本への使節に任命した。いずれも水軍、陸軍の改革に大いに貢献
した人材である。更に代表には総軍奉行のビゼンを指名、その他にも勘定方や普請方などから若手の
優秀な者を使節に加え、日本の技術を体験させようという狙いである。
「・・・・さてと、カガリはおるか」
「はい、ここに」
「ひゃおん!」
突然自分の耳元で聞こえた声に、ムラクモはいきなり素っ頓狂な声を上げてしまう。しかもご丁寧なことに、
声の主は彼の耳に息まで吹きかけている。
「か、かかかか、カガリよ! なぜいつも余の後ろに突然現れるのだ!」
声の主はフウガ・カガリ、代々ヤツルギ国の影を勤めるフウガ家の跡取り娘である。若干22歳ながら、その
影術は当主のコタロウをも上回る天才だ。そしてその出で立ちは、日本人が見たら誰もが”くノ一だ”と
言うだろう。
「しかも、なぜに余の耳に息まで吹きかけるのだ!」
ムラクモの叱責に、カガリは心底申し訳ないという表情でひざまづき、
「はい、不躾ながらムラクモ様のお声が可愛いら、、、、もとい、ムラクモ様を影からお守りするのが私の役目
にて、、つい馴れ馴れしい行為に及んでしまいました、、、、もしご不興を買ってしまわれたのであれば、この
カガリ我が命をもって償う覚悟でございます」
そうのたまって短剣を自分の首に突きつけるカガリ、それをムラクモは慌てて押しとどめる。
「カガリよ早まるでない! そなたの忠義を疑った余がまだ未熟であったということだ。どうかこれからも
余の片腕として、仕えてくれぬか」
「ではムラクモ様、お許しを」
「許すも何も、そなたは余の片腕と申したであろう」
「ムラクモ様・・・・」
「カガリ・・・・」
そうして甘々な雰囲気を醸し出す2人、それを見ている周囲は砂糖を吐きそうな気分になっていた。何か
どっかの教皇と姫騎士が同じようなことをやっていた気がするが、きっと気のせいであろう。
「なあフウガ殿、今カガリの嬢ちゃん可愛らしいと言いかけなかったか」
「全く、あのぱーぷー娘めが・・・・」
「ムラクモ様も、カガリ大好きが丸わかりじゃのう、、、、」
「カガリの方は全く気づいておらぬようだな。ムラクモ様もはっきり伝えれば良いものを、政は優秀なのに、
色恋事は初心すぎるのう・・・・」
それぞれ仕事は優秀なのに、恋愛ごとは残念な2人であった・・・・
「ゴホン、、、、それでカガリよ、我がヤツルギ国はニホンへと使節を派遣することとなった。その護衛を
そなたにお願いしたいのだ」
「承知いたしました」
こうして、くノ一カガリの日本行きが決定したのであった。




