第22話 魔王さまは再び胃痛に苛まされる
相葉とマデラの結婚式もつつがなく終了し、落ち着きを取り戻した首相官邸。新婚ホヤホヤの相葉が他の
大陸に派遣した使節からの報告を受けていた。ちなみに結婚式では当惑していた表情の相葉だったが
最近は、
「いやあ、自宅に待ってる人がいるというのも、いいものですね」
「今日の弁当はマデラの手作りでして。最近は和食のレシピも勉強しているんですよ」
などとおのろけを連発し、特に独身の政治家や官僚などからは、
”死ねばいいのに”
と、思いっきり妬み恨み嫉みを買っているそうだ。
「まずはドラゴンが確認された文明ですが、ジュム竜王国という国名です。詳細は報告書に記載してあり
ますが、こちらは全くお話しになりませんでした」
「・・・・確かに、これはひどいですね」
ジュム竜王国は竜人と呼ばれる種族が治める国だった。彼らは異常なほどプライドが高く、最初から日本
の使節を見下した対応だったらしい。
「下等な生物どもが、我ら高貴な竜人族と国交を結びたいだと。それならば奴隷を献上せよ!」
などと、応対した港町の高官は超高飛車な態度であった。日本側は余計な摩擦を避けるため、
「ははー、その旨本国に伝えますです」
と下手に出て、さっさとトンズラこいたということだ。
「無理して国交を結ぶ国ではないですね。放っておきましょう」
「しかし首相、アメリカに譲渡予定の大陸とはかなり近いです。かなり揉めそうですね」
「アメリカ側には、ジュム竜王国の情報は渡してください。まあ、アメリカさんなら何とかするでしょう」
その後、無人の大陸に入植を開始したアメリカに、案の定ジュム竜王国はちょっかいをかけてきたのだが、
アメリカは日本ほどやさしくはない。
「Hey、Youたちは誰にケンカを売っているのかわかってるかな」
当然、空母ロナルド・レーガンを含む第7艦隊を擁するアメリカにフルボッコにされた。更に竜都の竜王城
もB-52が放ったバンカーバスターの直撃を受け崩壊、王族や主だった貴族は全員死亡した。その後これ
まで力で抑えつけていた他の種族が決起、アメリカも支援してカオスな状況になっていくのだが、これは
日本のあずかり知らぬ話である。
「もう一つの文明ですが、こちらはヤツルギ国という国名でして、見た目は我々日本人とそっくりでした。更に
驚くべき情報がございます」
なんと、彼らは千年前ハーネス聖神教の迫害を受け、海に逃れた者たちの末裔であったという。大きな
犠牲を払いながら新大陸にたどり着いた彼らは、そこで独自の文明を発展させていったそうだ。
「最初は護衛艦を見てかなり警戒されましたが、同じ黒目黒髪ということでその後は友好的な話し合いが
できました」
ヤツルギ国のトップは名代と呼ばれる。これは名家と呼ばれる5つの家が持ち回りで担当しているそうだ。
そのことによって組織の腐敗を防いでいるとのことである。
「ふむ、技術レベルも幕末に近いですね」
「はい、火縄銃や大砲も実用化されています。蒸気機関もすでに構想は練られているそうですよ」
ハーネス聖神教からの迫害はヤツルギ国でも語り継がれている。彼らはもし、聖神教が海を越えて攻めて
きた場合に備えて、独自の技術を発展させてきたのだ。その後日本は正式にヤツルギ国と国交を結び、
親密な関係を築いていくことになる。
「・・・・さてと、次はこの案件ですか」
「はい、魔界の武藤大使にはすでに指示を出しております。明日にはワンゲル陛下と会見する予定です」
「ふふふ、ワンゲル陛下には精力剤のお返しをせねばなりませんね」
そう微笑む相葉を見て周囲は、
”あ、これは相当根に持ってるな”
と、胃痛に苛まされるワンゲルの姿を想像して、そっと涙をぬぐうのであった。
「ワンゲル陛下、ムトウ大使がお見えになりました」
「おう、そうか、では謁見の間にお通ししてくれ」
ワンゲルは相変わらず上機嫌だ。ハーネス聖神教との講和もなり、主要国とも国交樹立のメドが立って
きたからだ。これから魔界は日本と聖神教との間で重要な役割を果すことになる。彼は、魔界の輝かしい
未来を想像して、幸せいっぱい夢いっぱいな気分でいたのだった。
「ワンゲル陛下、今日は貴重なお時間をいただきありがとうございます」
「かまわぬぞ、して、ニホンでは他の大陸の調査を始めたそうだな」
ワンゲルと武藤はあいさつからお互いの近況報告へと話を進める。そして、いよいよ今日の本題に武藤
はきり出した。
「実は、ワンゲル陛下に本国から縁談の話がございまして」
「む、我に縁談だと・・・・」
「はい、これが候補者の資料です」
まあこの世界でも政略結婚というものは存在する。ワンゲルはどこかの企業のご令嬢でも勧めにきたの
か、まあ適当な理由をつけて断るかと思いながら資料に目を通すのだが、読み進む内に彼の顔には深い
シワが刻まれていった。
「な、なあムトウ殿、このご令嬢のプロフィール、何かの間違いではないか・・・・」
ワンゲルは一縷の望みを賭けて武藤に確認する。だが、現実は常に非常なものだ。
「いえ、間違いではございません」
そのご令嬢は、日本国のやんごとなき御方の孫娘、つまりは皇族であった・・・・




