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第21話 好事魔多しその1


”好事魔多し”という言葉がある。物事がうまく進んでいる時こそ、意外な所に落とし穴が待っているという

意味だ。それはともかく、ガイアードルでの日本を取り巻く環境は全て良い方向に進んでいくかに見えた。


「まずはこちらの無人と思われる大陸ですが、日本からは8000kmほど離れていますね。そこから500km

ほどの場所に文明が存在している大陸があります」


その文明はハーネス聖神教圏と同様中世ヨーロッパ風の文明だったが、なんと空にはドラゴンと思わしき

生物が飛んでいた。こちらにももう一つの大陸同様、使節を派遣する予定だ。


「そして日本から12000km離れた大陸ですが・・・・」


「う~む、これはどうみても・・・・」


観測衛星が撮影した写真には、どーみても日本の江戸時代あたりのような街並みが広がっていた。都

らしき場所には天守閣まで存在している。まるで異世界ファンタジーものによくある和風の国が実在して

いるかのようだ。


「海路の状況もほぼわかってきましたので、来月には双方に使節を派遣できる見込みです」


「はい、ではくれぐれも相手が敵対的でない限り、威圧することは控えてくださいね」


「かしこまりました。それは徹底させますので」


その他にも無人の群島などが発見され、資源の調査団を送る予定だ。化石燃料やレアメタルの存在は

すでに確認されているので、日本がガイアードルで生き延びていくメドは立っていた。そして翌週には相葉

の元に、聖都ジャンダルムに派遣していた調査団からの中間報告が上がってきた。


「なにぶん文書の数が膨大なため、全ての調査が完了するのは数か月後になりますが、現在の教義が

確立された千年前に絞って調査したところ、当時の教皇ウラヌスの日記が発見されまして」


「これは、なんともはや、、、、こんな理由で穢れた闇の種族などとレッテルを張ったのですか」


報告書に目を通した相葉が呆れたように言うのも無理はない。ウラヌスは当時、教皇の座を争った人物が

黒目黒髪だったため、彼を追い落とすのに”黒は闇、邪悪の象徴”と言いふらし、迷信的な人々はそれを

無条件に信じてしまったのが迫害の発端であったのだ。


「要は、政争の具から始まったのですか。くだらない」


「ええ、これを知ったマデラ教皇も大変ショックを受けていたそうです」


マデラや各国の要人たちも、これまで金科玉条として守り続けていた教義が、こんな事で決まったことに

衝撃を受けていた。マデラはこの結果を聖神教圏各国に布告し、ウラヌスから聖人の座をはく奪すること

に決定した。


「・・・・まあ、しかし我々も聖神教のことを無条件に批判できる立場ではないですね。日本にも差別は

存在してますから」


「はい首相、全く持って恥ずかしい話です」


日本にも差別は存在する。それは、同じ民族を住む場所や家系で差別するという、世界でも類を見ない

ものだ。元々は徳川幕府がその統治を盤石にするために、恣意的に設定した身分が始まりなのだが、

明治維新後150年たってもまだこの国に根深く残っている。人というものは世界に関わらず、自分が

優越感に浸るため他者を差別する生き物なのかもしれない。


「ごく一部ですが、魔界や聖神教圏を劣ったものとみなす風潮が出ています。それは醜いことであると

国民にも周知徹底しなければいけませんね」


「万全の注意を払います」


ネットなどでは”軍事力に大きな差があるのだから、全て占領してしまえ”等と、過激な意見もちらほらと

出始めていた。これではかつての聖神教と変わらなくなってしまう、と危惧を感じた日本政府は、度々

それを諫める声明を出した。更に今上陛下からも、


『昨今見られる他者を見下す言動は、実に悲しいことです』


との談話を発表、こうした強硬論は尻すぼみとなっていった。


「教皇猊下、そのご決意に変わりはありませぬか」


「はい、いずれは教皇として、責任をとらなければいけないと考えておりました。熟慮の上の結論です」


時を同じくして、聖都ジャンダルムでも大きな動きがあった。教義の変更やウラヌスの聖人はく奪などの

処理を終えたマデラは、これまで差別的な教義に加担してきたこと、聖戦布告などの責任を取り退位を

宣言したのである。


「事前に武藤君からも連絡がありましたが、彼女の後継は改革派筆頭のルーデル氏ですか」


「ええ、トルード県でも聖神教の不正摘発など、改革に辣腕を奮った人物です。後釜には最適でしょう」


相葉は、日本の意向を酌んでくれる人物が教皇の座についたことにほくそ笑む。更に、前教皇マデラと

一緒に着任のあいさつに訪れるということだ。聖神教のトップが日本に引継ぎに訪問する、これは一般

の信徒にとっても教義の変更を印象づけるイベントになるはずだ。更にその前には魔界のワンゲルにも

表敬訪問を行っている。少し前までには想像もつかないほど、ガイアードルは日本という異物が放り込ま

れたことによって、大きな変換点を迎えていたのだ。


「マデラさん、この度の退位、よくご決断なされましたね」


「はい、頂点に立つ者として、当然の判断でありますわ」


翌週の首相官邸、マデラとルーデル、そしてソニアが一緒に相葉の元に訪問していた。ソニアも正式に

騎士団長を辞し、芸能活動に本腰を入れるそうだ。相葉はまだ弱冠22歳ながら、潔く責任をとったマデラ

に内心感心していた。その後も彼女やルーデルから、今後の聖神教の方向性などについて説明が続く。


「それで、マデラさんは今後どのように過ごされるおつもりですか」


一通りの話が終わった後、相葉は何気なくマデラの今後の身の振り方を質問した。まあ一般の司教にでも

なるのかと思っていたのだ。しかし、彼女はそれまでの凛とした佇まいがウソのように、顔を赤くしてモジ

モジし始めた。


「マデラ様、ここまで来たのです。思い切って言いましょう」


「ソニア殿の言う通りです。我々がお膳立てできるのはここまでですぞ。さあ、勇気を出してください」


マデラの様子とソニアやルーデルの言葉を聞いて、相葉の政治家としての感が、これは厄介ごとがくるぞ、

と思いっきり警鐘を鳴らしていた。彼は”じゃあ、そろそろ時間なので”と会談を終わらせようとしたのだが、

その判断は少しばかし遅かった。


「アイバ首相、このマデラ、貴方様を心よりお慕いしております。どうか、私と結婚してください!」


相葉にとって、想定外の事態が訪れてしまった・・・・


ワンゲルの胃痛仲間に相葉も加わりましたw

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