第19話 感動の再会と思わぬ再会
ソニアのCM画像を見た教皇マデラが錯乱するトラブルもあったが、無事日本と魔界、ハーネス聖神教圏
との講和は締結された。
1.ハーネス聖神教は黒目黒髪、魔族を敵視、蔑視している教義を改めること
2.日本、魔界、ハーネス聖神教はお互いの立場を尊重すること
3.三者は互いに対等な関係での、交易を開始すること
4.ハーネス聖神教側は、今回の聖戦で日本、魔界が被った被害、費用を全額弁財すること
などの項目で合意した。会議後は県都キレットに新たに建設されたホテルに場所を移し、ランチを兼ねた
懇親会が行われている。メニューは和食に馴染みのない聖神教側に配慮して、ステーキなどの洋食が
提供された。
「このステーキ、すごく柔らかくて口の中で蕩けてしまいますぞ」
「うむ、こんなうまい牛肉は初めてだな」
聖神教側は、日本の要求が領土割譲や奴隷の提供など苛烈なものでなかったことに安堵し、料理に舌鼓
をうっていた。わざわざ日本から取り寄せた神戸牛なので、美味いのも当然だ。
「明日からは、マデラさんや聖神教圏の方々には日本に出発していただきます。直接我が国を見ていただき、
我々のことを理解していただけるよう願いたいものですな」
「ええ、しかしアイバ首相、本当に空を飛んでゆくのですか」
「はい、日本では誰でも、そちらでいう平民も普通に利用している交通機関です。ご心配なさらずに」
「マイバッハ公、私もニホンに行く時には利用していますが、馬車なぞより遥かに快適ですぞ」
初の飛行機利用に不安げな聖神教側に、相葉やトマスが安心させるように説明する。しかし、そんな中で
マデラは1人、元気なさげな表情だ。
「マデラさん、どうなされたのですか。お元気があまりないようですが」
「・・・・いえ、もし私たちが勝者の立場だったら、ニホンや魔界にもっと強圧的な態度をとるだろうと思いま
して、、、、ニホンは、本当に文明的なのですね。野蛮人は私たちの方だったのですね」
「マデラさん、地球もかつては征服した国の民を奴隷として扱ってきた歴史がありました。ガイアードルは
正に今、地球がたどってきた道を進んでいる最中なのです。日本としても、これまで得た知見をこの世界
の発展のために、提供する用意がありますよ」
「アイバ首相、ありがとうございます」
硬軟取り混ぜた老練な相葉の手練手管に、まだ若いマデラはもちろん聖神教側の面々もすっかりほださ
れてしまっていた。それを見ていたワンゲルやトマスも”我らもそうだったな”と苦笑している。
「す、すごいです。キレットで事前に資料は見せてもらいましたが、これほどとは・・・・」
「教皇猊下、彼らが友好的で良かったですよ。もしニホンが本気になれば、滅ぼされているのは我らの
方でしたな・・・・」
飛行機の速度と快適性に始まり、羽田から宿舎のホテルについたマデラ一行は、かつてのトマスたちと
同様にお口あんぐりの状態だった。一流レストランで豪華ディナーを楽しんだあとは、ラウンジでお茶を
飲みながら、正に不夜城と呼ぶべき東京の夜景を眺めている。
ちなみに一行の滞在費用は全て日本持ちだ。日本への理解を深めてもらうためとはいえ、ついこの間まで
の敵国相手に大盤振る舞い、日本人のお人好しがよくわかる事例である。
「明日は、テンノウ陛下との会談ですな」
「記録が残るだけでも千数百年続く王家ですか、、、、ニホンが前にいた世界でも類がないそうですぞ」
各国の代表たちは、明日の会談に向けて気を引き締める。もし天皇に不敬を働いてしまったら、一般国民
からの怒りを買ってしまうことをトマスからも聞かされているからだ。実際に日本が前にいた世界では、
”天皇は土下座しろ”
とのたまった大統領の国に対して、一気に好感度が下がった事がある。こうなると政府が友好を取り繕うと
しても、一度芽生えた不信感は解消されることはない。日本人は相手が友好的ならウエルカムだが、その
逆なら表面上の付き合いだけはしても、徐々に距離を置くような民族だ。彼らは明日の会談に向けて、
気を引き締めるのであった、が、、、、
「うふ、うふふふ、明日はソニアに会えるのね。ああ愛しいソニア、待っててね~」
「「「「「・・・・・・・」」」」」
そう、一行は明日の夜、ソニアのコンサートにご招待されていた。すでに脳内お花畑状態のマデラに一行は、
”このパープー教皇、天皇陛下との会談大丈夫か”
と、思いっきり不安に襲われるのであった・・・・
「おおっ、ここが”こんさあと”とかいうものの会場か」
「外壁にあんなにガラス使ってますぞ」
翌日、天皇陛下との会談を無事終えたマデラ一行は、コンサート会場である有楽町の国際フォーラムを
見て、感嘆の声を上げていた。周囲の建物ともまた違うその近未来的なデザインは、マデラ達でなくとも
初めて目にした者にとっては、ファンタジーな建築物に見えるであろう。すでにチケットは完売で、会場に
は大勢の観客が詰めかけ、グッズやCD、DVDなども飛ぶように売れていた。異世界人で前職が聖騎士
という経歴に加え、超がつくほどの美人で歌がうまいとなれば、人気に火がつくのも当然だ。すでに来年
には全国のアリーナやドームを回るツアーも準備されているそうだ。ともあれ、マデラ一行は会場の特別
席に案内され、コンサートの開始を今か今かと待ちわびていた。
「ヴィット卿の歌、相変わらず魅了されますなあ」
「他人の歌も、まるで自分の曲のように歌いこなしていらっしゃる」
そして始まったコンサート、マデラ一行はもちろん大入りの観客もしっとりと、アップテンポの曲ははじける
ように歌うソニアにやんややんやの喝采を送る。演歌のコンサートらしく寸劇も挿入され、通常は時代劇
だがソニアに合わせ、領主と結託し民を苦しめる悪徳商人を懲らしめる聖騎士という舞台設定になっていた。
こうした勧善懲悪モノは世界を越えて受けるようで、観客はもちろんマデラ達も見入っている。
「ヴィット卿の動き、さすが聖騎士団団長のことだけはありますな」
「いや、これはニホンの民が夢中になるのもわかりますぞ」
「・・・・・・・」
「教皇猊下、どうなされたのですか。お元気がないようですが」
人生初のコンサートに興奮気味の一行とは別に、マデラは何だか沈み込むような表情だ。観客の歓声に
応えるソニアを見て、彼女がどこか遠くの世界に行ってしまったような気がしたのだ。だがその時、、、、
「皆さん、今日は私の大切な人がこのコンサートに来てくれました。辛い時、苦しい時も常に傍らで私に
勇気をくれた、マデラ教皇猊下です!」
「え、ソニア・・・・」
突然のソニアの紹介に戸惑うマデラだったが、周囲に促されて拍手で迎える観客に手を振って応えた。
そして終演後の打ち上げ会場に招待された彼女はソニアと再会を果たし、2人は周囲の目もはばからず
抱き合って号泣、それに周囲ももらい泣きするのであった。
『ニュースをお伝えいたします。日本を訪問中のハーネス聖神教教皇マデラさんがソニアさんのコンサート
を訪れ、感動の再会を果たしました』
魔王城にあるワンゲルの居室、彼はテレビでソニアとマデラの再会をニュースで見ていた。号泣する
マデラを見てワンゲルは、
「まあ、この様子ならもうハーネス聖神教が敵意を向けてくることもなかろう」
などと呑気に構えていた。次の番組が始まるまでは・・・・
『本日のサンデージャパン、特別ゲストは先日グラビアデビューを果たした、サキュバスのメラディナさん
で~す』
「ブフォっ!」
ワンゲルは思わず吹き出してしまった。画面にはそれはそれはセクシーな衣装に身を包んだメラディナが
登場している。
「め、メメメメメメラディナ、お前何やってんだあぁぁぁぁぁっ!」
テレビ画面に突っ込みを入れるワンゲル、しかし、画面の中のメラディナが答えるはずもない。
『メラディナさんは、なぜグラビアデビューをしようと思ったのですか』
『はい、ある事で自信をなくした私は旅に出て、気がついたらニホンのシブヤに来ていました。ここでスカ
ウトされたのがきっかけです』
その事務所はソニアも所属している大手プロダクション、アミュー○だ。国民的バンド、サザンを見出した
彼らの目は確かだった。メラディナも各週刊誌のグラビアを飾る人気者になったのである。
『ところで失礼ながら、メラディナさんは今年おいくつになられますか』
この質問にメラディナはちょっとはにかみながら、
『恥ずかしながら、今年で”26歳”になります。こんなアラサーがグラビアデビューなんて、今でも信じられ
ないです』
とのたまった。他の出演者もそんなメラディナに、すっかり魅了されてしまったようだ。口々に”いや、とん
でもない””今やすべてのグラビアアイドルの目標ですよ”などと称賛されている。
「おいメラディナ、てめえもう150歳越えてるだろうがあっ! サバ読んでんじゃねえぇぇぇぇぇっ!」
まあ芸能界にサバ読みは付き物である。ワンゲルは襲いくる胃痛を抑えるために、愛用の胃薬に手を
伸ばすのであった。
ちなみに、この事を知ったピコリーナが対抗心を燃やし、
「私も、ニホンでグラビアデビューするのですぅ!」
と言い出した。しかし日本側から”児童ポルノ法違反になります”とすげなく断られ激しくへこむのだが、
これはまた、別の話である。
本年もよろしくお願いいたします




