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第16話 囚われの姫騎士


「相葉首相、トルード派遣部隊から連絡です。オペレーション”Red storm”は成功、聖神教連合軍は4万

以上が捕虜となり、残存兵力は敗走しました」


「よくやってくれました。現地の部隊をよく労ってあげてください。それから、魔界にも協力のお礼をしなけ

ればいけませんね」


「はい、それに捕虜の中には主要国の王や皇太子など、重要人物も含まれているとのことです」


「ほう、それはそれは、、、、今後の交渉に使えそうですね」


相葉はワンゲルをも警戒させた笑みを浮かべる。彼は聖神教の教義を変えさせ、骨抜きにしようと画策

しているのだ。魔界との国交樹立と交易が開始されたことで、日本側にも余裕が出てきたからだ。すでに

聖神教側の軍事力は壊滅している。相葉は、圧倒的に優位に立った交渉をどのように進めようか、ほくそ

笑みながら策謀をめぐらすのであった。


「諸君らは、日本の捕虜として収容される。抵抗さえしなければ身の安全は保証しよう」


ソニアたち連合軍捕虜の前で、自衛隊の司令官がそう訓示する。しかし、ソニアたちの目はまだ鋭いままだ。


「魔界と同盟を組むとは、、、、さすが”穢れた闇の種族”ですね」


「そうだ、ピコリーナさえいなければ我々が勝利していたはずだ!」


口々に叫ぶ捕虜たちに司令官が眉をひそめたその時、ピコリーナが心底呆れた表情で口を開いた。


「あなたたち、どこまでおバカさんなのですか。ニホンが魔界に協力を要請したのは、あなたたちへの慈悲

なのですぅ」


「慈悲だと?」


「そうなのですぅ。ニホンは聖神教はもちろん魔界でも敵わない力を持っているのですぅ。まあ、すぐに

思い知るのですぅ」


こうして、捕虜となったソニアたちは収容所へと移送された。要人クラスは個室、一般兵士は広間に雑魚寝

だが、三食昼寝と風呂付きで、ガイアードルの常識からすると信じられない高待遇であった。


「おい、このメシはなんだ。俺は高級宿屋にきたのかと思ったぞ」


「ああ、ウチのカカアの作るメシよりうまいぞ」


メニューは日本では一般的なハンバーグや肉野菜炒めなどだが、普段煮ただけ焼いただけの料理ばかり

口にしている一般兵には、生まれて初めての御馳走だったりしている。


「ヴィット卿、ワシは馬の餌でも食わされるものと覚悟していましたが、これは王城並みの料理ですな」


「ええ、実はニホンの監視になぜ捕虜にこんな御馳走を出すのかと尋ねたら、不思議そうな顔で”いや、

日本では誰でも食べている料理だ”と言われましたよ・・・・」


「まさか平民がこんな料理を! にわかには信じられませんな・・・・」


そして2日後、ソニアたち要人と指揮官クラスの者たちは、トルード県に新たに設置された自衛隊への

演習場に連れてこられた。もともと王国領は日本の4倍ほどの面積に500万人ほどが住んでいる広大な

土地である。この演習場も北海道と同じくらいの面積で、本土ではできない演習をここで実施している。


「あそこに見えるのは王城や砦ですね」


「魔法防御もかかっているな。ニホンは一体何を見せる気なんだ」


日本側の目的は、かつてトマスやワンゲルに見せたように圧倒的な軍事力を見せつけることであった。

自衛隊の担当者が、これからあの王城を標的にして実弾演習を行うと説明していた。


「まずは、F-2戦闘機による爆撃です」


「なんだあれは、ドラゴンか!」


「とんでもない速さだぞ!」


爆弾が投下されると、王城の中心部は一瞬にして倒壊した。しかし演習はこれからが本番だ。自走りゅう

弾砲やMLRSの一斉斉射で、標的はあっというまにガレキの山と化した。更に、10式戦車がゴーレムに

見立てた標的を走行しながら撃ち抜いていく。もはやソニアたちは言葉も出ない状態だ。


「どうですソニアさん、皆さんが捕虜にならなかったら、アレで攻撃されるところだったのですぅ」


「・・・・なぜ、ニホンはわざわざ私たちを捕虜にするようなことを、あの凄まじい魔導で殲滅しなかったの

ですか」


「だから、それがニホンの慈悲なのですぅ。トルード王国との戦争が一方的になりすぎて、弱い者イジメに

なっちゃったからだそうですぅ」


「我々は、弱者だったのですか・・・・」


ピコリーナの言葉はソニアたちの心を折るのに十分だった。しかし、彼らの衝撃はまだまだ続く。トマスや

ワンゲルと同じように彼らもその後日本本土に連れていかれ、ガイアードルとは隔絶した国力、技術力を

目にすることになるのだ。


「ヴィット卿、どうしたのですか。そんなに暗いお顔で・・・・」


「いや、このトウキョウを見て、蛮族は我らの方だったとつくづく思い知りましたよ」


「ええ、ニホンの民はほぼ全員読み書きまでできるそうですな。1億2千万の民がですよ」


百聞は一見にしかず、単に規模だけではない。滞在しているホテルの快適さ、目にする一般市民の様子

などからも、彼我の越えられない差をひしひしと感じとっていた。これまで世界の中心と驕っていた自分たち

は、ニホンから見れば野蛮人だったのだと。


「我々は、これから何を信じていけばよいのか・・・・」


「まあ、あまり思いつめすぎないことですな。我々も変革の時を覚悟しなければいけないようですぞ」


ソニアの話し相手はキスリング王国の王、ザック・キスリングだ。政治家である彼は宗教家であるソニア

よりも、現実的で柔軟な思考を持っていた。ザックは日本の国力を理解し、自国が生き残るためにはどう

したらよいか、すでに考えをめぐらせていたのであった。


「教皇猊下、私はどうしたらよいのですか・・・・」


部屋に戻ったソニアはソファに腰掛けると、救いを求めるように呟いた。聖神教の教義をふりかざす彼女

に対して、日本側の担当者は”何の根拠もなく、人を差別するのか。自分で考えたことはないのか”などと

問い質され、これまで自分が立っていた土台がガラガラと崩れていくのを感じていたのだ。


「まあ、気晴らしにテレビでも見ましょうか」


捕虜たちの間でも、このテレビは意外と評判が良かった。娯楽の少ないガイアードルにとって、この映像

を映し出す魔導具は新鮮な存在だったのだ。


「ん、これは・・・・」


ニュースやドラマをなんとはなしに眺めていた彼女だが、ある番組が始まると思わず身を乗り出してしまう。

そして、見入っている内に彼女の両目からは、涙が溢れてくるのであった。番組を見終わったソニアは、

自分の担当者に連絡を入れた・・・・


さて、連合軍の敗北から1か月後の聖都ジャンダルム、大会議室に集まった各国の首脳たちは、まるで

お通夜状態であった。ソニアはじめ各国の王や皇太子などの要人も、日本の捕虜となってしまったからだ。

すでに敗戦の報は一般の民衆にも伝わっており、聖戦の失敗により聖神教の権威は大きく揺らいでいた

のだった。


「教皇猊下はどうなされておる」


「それが、ずっと自室に引きこもっておられ、食事もろくにとられていないとか・・・・」


「リグレット公を通じて、ニホンから講和の打診がきたそうだな」


「バカな! ”穢れた闇の種族”と講和なぞ有り得るものか!」


「しかし、我がキスリング王国はザック陛下も捕えられました。軍も壊滅状態です。もしニホンが侵攻して

きたら、我が国は降伏することに決定しておりますぞ」


「なんと、闇の種族や魔界に膝を屈するおつもりか!」


「ではビブラム皇国の皇王陛下、代わりにニホンと戦っていただけますか」


「ぐっ、それは・・・・」


こう堂々巡りの小田原評定が延々と続く中、会議室に伝令が入室する。


「商人を通じて、ニホンの魔導具が聖都に入ってきております。リグレット公から送られたもののようです」


「リグレット公から・・・・?」


そしてこれが、聖神教圏の国々に転機をもたらすこととなったのである。

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