第15話 オペレーション「Red storm」
「ほうほう、聖神教が連合軍を組んだか、、、、あの狂信者どものやりそうなことだ」
「ええ、それで実は、魔界にもご協力を頂きたいと思いまして」
武藤の依頼にワンゲルは訝しげな表情だ。なぜなら、日本の軍備ならハーネス聖神教の連合軍なぞ、
簡単に一掃できるからだ。
「まあ、軍事力で解決するのは簡単ですが、なるたけ後世に遺恨は残したくありませんので」
「そういえば、貴国はチキュウでは”千年恨んでやる”と隣国から言われていたそうだな」
「ええ、あの国から離れられたのは不幸中の幸いでしたよ」
ワンゲルの言葉に武藤は珍しく、苦虫を噛み潰したような表情で答えた。よほど嫌な目にあったようだ。
「わかった。ガラリアにも話を通しておこう。この作戦に魔界も協力するぞ」
「感謝いたします」
ワンゲルは日本に恩を売れるチャンスと見て、武藤の要請を快諾した。後にこの事で、日本と魔界の
つながりは更に深いものになっていく。
「日本人は殲滅だなんて、怖いわライドル」
「はっはっは、心配するなヒトミ、この魔将軍ライドルがそなたには指一本触れさせはせぬぞ」
「ライドル、なんて頼もしい人・・・・」
「お前らなあ、、、、ムトウ殿からもなんか言ってやってくれぬか」
相変わらず通常営業のバカップルに辟易したワンゲルが武藤に言葉をかけたのだが、
「ムトウ様、この魔界も戦場になってしまうのでしょうか・・・・」
「マリサさん、日本国の全てを持ってして、あなたを守ると誓いますよ」
「ああムトウ様、マリサは感謝しかありません」
「・・・・・・・」
増殖したバカップルに、ワンゲルは毎度毎度の胃痛に襲われるのであった・・・・・
「いや、すごい数だな」
「総兵力6万か、、、、ここで食い止めんと甚大な被害が出るぞ」
ついに連合軍は、キスリング王国とトルード県との国境にまで進軍してきた。事前にトマスを通して和議の
手紙を送ったものの、完全に黙殺されてしまった。
「よし、兵力が分散していない分一気にやれそうだな。敵が目的地に達したら決行するぞ」
「はい司令、すでに支援の航空機も離陸しております。全ては予定通りです」
「ピコリーナさん、この作戦にはあなたの部隊の力がかかせません。頼りにしておりますよ」
「はいなのですぅ」
トルード側に設置された自衛隊の野戦司令部、迷彩服姿の男達がたむろするその中で、いかにも魔女な
服装のよう、、、もとい女性がいた。ピコリーナ率いる魔導師団もこの作戦に参加しているのであった。
「司令、時間です」
「よし、オペレーション”Red storm”、フェーズ1発動!」
一方その頃の連合軍、敵地を前にその戦意は旺盛だ。これから自分たちに降りかかる厄災も知らず、、、、
「ヴィット卿、間もなく王国領ですぞ」
「向こう側の状況も知りたいですね。斥候を、、、、ん? 何ですかこの音は」
”ブオォォォォォ”というハエが飛び回っているような低音、近づくにつれ彼らにもその正体が見えてきた。
「なんだあれは! 空を飛んでいるぞ!」
それはP-3Cの群れ、連合軍の頭上に到達すると、彼らを地獄へと誘うべくそのウエポンベイを開いた。
「なんだ、あの赤い霧は・・・・」
「あれはニホンの魔導攻撃です! ただちに防御結界を張ってください!」
しかし、ソニアの指示は遅かった。結界を張るよりも早く、その赤い霧は連合軍を覆い尽くしたのである。
「ぶげぇほげほっ!」
「ああ、目が、目があぁぁぁぁぁぁぁっ!」
たちまち悶絶する連合軍の兵士たち、赤い霧の正体は、唐辛子やらコショウやらの刺激物をてんこ盛りに
した、いわばクマよけスプレーの中身を盛大に振りまいたのである。P-3Cに続いて現れた農薬散布用の
ヘリコプターも、更に念入りに刺激物を振り撒いていく。
「おのれ日本めぇぇぇぇっ! 卑怯な、正々堂々と、、、ぶえっくしょんっ!」
ソニアの顔も涙や鼻水でぐちゃぐちゃで、美人が台無しとなっている。しかし、彼らの受難はこれからなの
であった。
「フェーズ1成功、作戦はフェーズ2に移行します」
「はい、ではみなさんやりますよう」
ピコリーナの指示で魔導師団の団員が詠唱を始めると、連合軍の頭上には雷雲が現れる。
「ぐぎゃあっ!」
「これは、雷撃の魔法か!」
ピコリーナ達は、死なない程度の雷撃を放って連合軍を無力化したのであった。
「ぐくっ、ニホンめこんな手を使うとは、でも、こんなことで負けてたまるかあぁぁぁぁっ!」
ソニアは雷撃を受けてもなお、その強靭な精神力で立ち向かおうとした。しかし彼女の抵抗もここまでで
あった。
「ぐぎゃあ!」
「な、なんだあれは悪魔の使徒か」
あちこちで悲鳴が聞こえる。ソニアが見たのは防護服に身を固めた自衛隊の兵士だった。彼らは雷撃を
受けてもなお意識がある者たちを、スタンガンで無力化して回っていた。そしてソニアもスタンガンを当てられ、
意識を失った。連合軍6万の内4万以上が捕えられ、残りはジャンダルムへと敗走したのである。
「ぐぅっ、貴様はピコリーナ・・・・」
「はい、ソニアさんにもこれを付けてもらいますですぅ」
ソニアたちは魔界特製の魔力封じの腕輪が装着された。これを解除するのは特殊なパスワードが必要だ。
こうして、彼女達はトルード県へと護送されていった。
「フェーズ2成功、第2司令部へ送れ、フェーズ3の必要なしだ」
この連絡を受け取った第2司令部は全員ほっとした表情になった。フェーズ2までが失敗した場合、次の
作戦は第2司令部が指揮を執ることとなっていたのだ。
「これ、使うことなくて良かったな・・・・」
彼らは、待機している自走りゅう弾砲や10式戦車などを見てしみじみと呟いた。もし、刺激物と雷撃の無力化
が失敗した場合、これらによる全力攻撃を行う予定だった。”血が流れなくて良かった”、第2司令部の面々
は、このことを神に感謝するのであった・・・・
次回予告「囚われの姫騎士」
※注:R18展開にはなりません




