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第14話 連合軍出陣


教皇マデラによる聖戦布告から10日後、聖都ジャンダルムの聖神教総本山前の広場は、各国から集結

した部隊で埋め尽くされていた。今日は聖神教連合軍の出陣式が行われる予定なのだ。サン・ピエトロ

広場の3倍ほどのスペースに騎士団が集結している光景は、まさに壮観といえた。しかし、騎士達の士気

はそれほど高いとは言えなかった。普段仲の悪い国の部隊も一緒になっていることに加え、トルード王国

が鎧袖一触で殲滅された情報もすでに広まっている。中には、国境付近で適当に戦って、さっさと引き上げ

ようと考えている指揮官もいるくらいだ。


「教皇猊下、全員が士気が高いとはいえませんな」


「これでは、戦う前からバラバラですね・・・・」


各国の王が戦意を煽る演説をしているが、騎士や兵士たちの反応はイマイチだ。まあ皆聖神教の信徒と

はいえ、全員が全員熱烈な信者というわけではない。とりあえず信徒でないと迫害を受けるから、という

者も少なくないのだ。


「では、私が・・・・」


「教皇猊下、お待ちください」


マデラが暗い表情で壇上に上がろうとした時、ソニアがそれに待ったをかけた。


「あの腑抜けどもに喝を入れる役目、ぜひこのソニアにおまかせください」


「いいでしょう。壇上に上がることを許可します」


通常なら不敬罪に問われる行為なのだが、マデラは二つ返事でそれを許した。彼女のソニアに対する

信頼はそれほど絶大なものなのだ。


「お、おい、あれヴィット卿じゃないか」


「次は教皇猊下の演説じゃなかったのか」


ざわつく兵士たちを、ソニアは片手をかざして静かにさせる。そして、自らの剣を抜き、それを目の前に

かざすと静かに歌い始めた。


”われら、清廉にして情熱の人”

”われら、隊伍を組み、悪魔を討ち果たすもの”

”われら、鉄血の人、ハーネス神の御子”

”われら、魔導の人、世界の先駆者”

”ハーネス神の守護者にして、民を導くもの”


ソニアの歌声が広場に静かに広まっていく。そして、騎士たちの中から一緒に歌い始める者も現れた。

それはやがて、広場を揺るがすほどの大合唱となっていった。それを見たソニアは壇上を降り、マデラと

交代した。


「トルード王国を、民を、悪しき者から取り戻すのです。皆にハーネス神のご加護を!」


「「「「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」」」」」」」


こうして、連合軍は一体となり、日本と魔界を撃ち滅ぼすべく進軍していった。


「連合軍ですが、今の進軍速度ですと2週間でトルード県に達する予定です」


「総兵力は6万、航空兵力は認められません」


日本国首相官邸では、相葉首相はじめ閣僚たちがまるでお通夜のような表情で、聖神教連合軍の状況

報告を聞いていた。別に負けることを恐れている訳ではない。先のトルード王国との戦争は、日本側にも

トラウマを残しているのだ。この時は日本も転移間もない頃で余裕がなく、更に”魔法”に対する恐怖感も

あった。数あるラノベには核兵器よりも強力な魔法も描かれている。そのため日本は、全力で王国軍を

迎えうった。


そう、魔法があるとはいえ、基本的には中世以前の軍隊相手に、地球の血みどろの歴史の上に築かれた

兵器と戦術で応じてしまったのである。その結果は火を見るより明らかだった。


「まさか、あそこまでワンサイドゲームになるとは思わなかったですからねえ・・・・」


相葉はそう呟いて嘆息した。王国軍との戦闘は、日本に侵攻してきた約400隻の艦隊の迎撃から始まった。

王国艦隊の主兵装は投石器やバリスタだ。魔法で強化してあるので地球のものより2~3倍程度長い射程

と威力を持っているが、現代兵器から見たらオモチャのようなものだ。そんな艦隊にまずF-2戦闘機が

空対艦ミサイルの雨を降らせ、水中からは潜水艦隊が魚雷を放つ。更に護衛艦隊が艦対艦ミサイルを

お見舞いした。この段階で王国艦隊は7割が消滅した。


「いつの間にか、1隻、また1隻と味方の船が吹っ飛んでいくんだ。敵の姿は全く見えないのに。俺たちは

神の怒りに触れたんじゃないかと思ったよ」


海戦後、幸運にも救出された王国兵の体験談である。しかし彼らの不幸はこれで終わらない。呆然として

いる王国艦隊生き残りの前に、護衛艦隊がその偉容を見せた。そして正確無比な砲撃の前に、1隻を残して

後は海の藻屑と消えてしまったのである。偶然にも近づいた1隻が護衛艦にバリスタと投石を放つが、それは

外壁をへこましただけで終わった。これがこの海戦で唯一、自衛隊側が受けた被害である。


1隻を残したのは、圧倒的な軍事力の差を王国側に知らしめるためである。だが港町ベスカに近づいた

護衛艦は港の守備部隊から攻撃を受け、これを殲滅。ここにいたって日本政府も王国との講和をあきらめ、

占領へと舵を切ったのである。


「討伐軍が壊滅したと聞いた時、我々は”なんと脆弱な”と思ったのだ。ニホンの強さも知らずに、、、その後、

この身で思い知ることになったがね・・・・」


ガリエテ平原で生き残った騎士の回想だ。自衛隊側は平原に集結した王国軍に対し、F-2戦闘機による

爆撃、更に国内からかき集めた99式自走155mmりゅう弾砲、MLRSが鉄の雨を降らす。10式戦車、16式

機動戦闘車などが突入した時は、すでに王国軍に戦闘能力はなく、生き残っている者は痛みに呻いている

か、神に祈りを捧げているものばかりだった・・・・


時を同じくして、トルード王城にも悲劇が起こっていた。早くも戦勝気分でいた王族や貴族たちが集まる

広間の屋根を突き破り、黒い何かが落ちてきたのだ。彼らはそれが何か知るよしもなく、永遠にその意識

を刈り取られた。この日、400年の栄華を誇ったトルード王国は、その歴史に終止符を打ったのである。


「これが、聖都ジャンダルムの映像です。彼らの戦意は高いですね」


「この女性の歌で、士気が高まったそうです。まるでジャンヌ・ダルクのようですな」


官邸では、CIAのエージェントが密かに撮影していた出陣式の動画を見ていた。


「これは、、、、降伏勧告しても聞いてくれそうにありませんね。やるしかないですか」


相葉の言葉に、閣僚たちの表情はますます暗くなる。先の戦争では自衛隊側にもPTSDを発症するもの

が多く見られ、今でもその対応に追われているのだった。王城爆撃直後に視察に入った当時の防衛大臣

は、自分の孫娘のようなメイドが上半身だけになっているなど悲惨な状況にショックを受け、すべての職を

辞し出家してしまったのである。


「勝田君、いま四国八十八か所を巡礼しているとか」


「王国との紛争で、犠牲になった全ての人を慰霊しているそうですね。全財産も補償の足しにと処分して

しまったし、、、」


「しかし、トルード県、そして日本国を守ることが我々政治家の役目です。ここは心を鬼にしてでも・・・・」


相葉が連合軍の徹底殲滅を決意しようとしたその時、防衛大臣から”ちょっとよろしいでしょうか”との声

が上がった。


「成功するかどうか、私も疑問だったのですが、統合幕僚監部からこのような提案がありまして」


防衛大臣から差し出されたレジュメに目を通す相葉、一読し終わった彼は、


「よし、やれるだけやってみましょう。これは魔界の協力も必須ですね。武藤君にすぐ連絡をとって下さい」


こうして、日本側も連合軍迎撃のために、動き出すのであった。


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