第12話 聖戦布告
「せ、聖戦ですと・・・・」
「教皇猊下、それは本気ですか」
教皇マデラの言葉に、会議に出席している各国の王たちも動揺を隠せない。”聖戦”それはハーネス聖神教
の国々がその全てを賭けて、戦いに挑むというもの、聖神教の長い歴史の中でも発動されたことはなく、
魔王軍との戦いですら聖戦を布告したことはないのだ。
「はい、トルード王国軍は決して脆弱ではありません。それをわずか数日で降したニホン、どのような魔導
を使ったのは不明ですが、強敵であることは間違いないでしょう」
地球の現代兵器についての知識は皆無に等しいマデルだが、トルード王国軍の惨敗から日本は総力を
上げてかからねばならない相手ということは理解していた。そして、彼女は自身の切り札を投入することを
決意した。
「ニホンとの聖戦には、聖神騎士団全軍を投入します」
「おお、聖神騎士団を・・・・」
「それも全軍とな」
マデラの言葉に、会議の出席者の間からどよめきが起きる。聖神騎士団、それはハーネス聖神教の守護者
として、ガイアードル人族の中では最強を誇る部隊だ。その実力は1人で通常の人族の騎士20人に匹敵
すると言われている。
「ならば、我がビブラム皇国は近衛騎士団を出しましょうぞ」
「マイバッハ帝国は、帝国魔導騎士団を全軍出撃いたしますぞ」
各国の王たちは、それぞれ自国の精鋭部隊を参加させることを明言した。同じ宗教を信仰しているとはいえ、
実際は人族同士の国でも利害の対立は存在している。それを乗り越えて全ての国が連合軍を結成するのは、
歴史上初めてのことだ。
「王たちよ、ハーネス神に代わり感謝いたします。皆に神のご加護があらんことを、、、、さて、誰かソニアを
呼んでもらえますか」
「はい、ここに」
「ひゃうん!」
突然自分の耳元で聞こえた声に、マデラはいきなり素っ頓狂な声を上げてしまう。しかもご丁寧なことに、
声の主は彼女の耳に息まで吹きかけている。
「そ、そそそそソニアっ! なんでいつも突然私の後ろから現れるのですかっ!」
声の主はソニア・ヴィット、弱冠20歳ながら聖神騎士団の団長を務める女性である。幼い頃より神童と
讃えられ、12歳で神学校を歴代最高の成績で卒業、騎士団に入団後は天性の武芸にも磨きがかかり、
史上最年少で団長に任じられた文武両道の才媛である。その容姿は映画好きの日本人が見たら、
”イングリッド・バーグマンみたい”と言うであろう美女だ。正に異世界版ジャンヌ・ダルクである。
「しかも、なぜに私の耳に息まで吹きかけるのですか!」
マデラの叱責に、ソニアは心底申し訳ないという表情でひざまづき、
「はい、不敬ながら猊下のお声が可愛いら、、、、もとい、猊下のことを影からお守りするのが私の役目で
ございますゆえ、つい馴れ馴れしい行為に及んでしまいました、、、、もし猊下のご不興を買ってしまわれた
のであれば、このソニア我が命をもって償う覚悟でございます」
そうのたまって短剣を自分の首にあてがうソニア、それを見たマデラは慌てて、
「いえ、ソニア、そなたの私に対する忠義、疑う余地もありません。この程度のことで動揺する私がまだ
未熟なのです。どうか、これからも私の半身として仕えていただけますか」
「教皇猊下、では此度のことはお許しを・・・・」
「許すも何も、そなたは私の半身だと申したではありませんか」
「教皇猊下・・・・」
「ソニア・・・・」
こうして、手と手を取り合いながらお互いを慈しむような目で見つめ合う2人、それを見ていた各国の王たち
は、周囲に百合の花が咲き乱れたように見えたのだが、気のせいだと思うことにした。
「ヴィット卿、さっき可愛らしいと言いかけませんでしたか」
「あれ、絶対わざとやってると思うのだが・・・・」
そうブツブツ言ってる周囲をよそに、マデラとソニアはすっかり2人の世界に入り込んでいる。
「ソニア、ニホンは強敵です。しかしあなたならあの闇の種族から、トルードの民を正しき道に取り戻すこと
ができると、信じておりますよ」
「造作もないことでございます」
実際、日本の統治下で生活レベルが向上した旧王国民からしたら、余計なお世話でしかないのだが、彼女
たちはまだそれに気が付いていない。
「それではソニア、そなたにハーネス様のご加護がありますように」
そう言ってマデラはソニアの頬に、口づけをする。その瞬間周囲に百合の花が、、、いやきっと、気のせいだ。
こうして、ハーネス聖神教圏の国々は、日本と魔界に対し聖戦を挑むことになったのである。
「・・・・ん、なんだい。朝からずいぶん騒がしいなあ」
「ああリゲロさん、ついに教皇様がニホンとかいう国と魔界に、聖戦を布告したんだよ」
聖都ジャンダルムの宿屋に泊っていた行商人のリゲロは、宿の主人からそう教えてもらった。
「聖戦・・・・?」
「そうだ、”穢れた闇の種族”からトルードの民を救済するための聖戦だ。聖神騎士団も出てくるんだ。
まず勝利は間違いないぞ。ようやく邪悪な者どもを滅ぼせるんだ!」
興奮する主人にリゲロは適当に相づちを打つと、部屋に戻っていった。彼は荷物の中からガイアードルには
存在しないはずの機械、”無線機”を取り出すとそのスイッチを入れた。
「おはよう、こちら”行商人”だ」
「おはよう行商人、何かあったのか」
「ああ、”お嬢様”が動いた。各国は連合軍を結成したぞ」
「わかった、”東の国”に伝えよう。続いての”お仕事”頼むぞ」
「了解」
通信を終えた彼は、ふっとため息をついて呟く。
「日本もさっさと占領しちまえばいいものを、、、、こんな狂信者の野蛮な国、早くおさらばしたいぜ」
行商人リゲロ、彼の正体はCIAのエージェントだ。白人種の彼は怪しまれることなくジャンダルムに潜入し、
情報収集に励んでいたのであった。こうして、聖神教側の動きは日本にも伝えられることとなった。
テンプレと言われようが、異世界ものに姫騎士は必須です(断言)




