第12話 魔王さまの日本訪問その6(魔王さまvs自衛隊)
翌日、ワンゲル一行は陸上自衛隊の東富士演習場へとやってきた。自衛隊の演習を見学するためだ。
入場券の競争倍率が高い富士総合火力演習の会場でもある。今回はワンゲル達のために特別に総火演
とほぼ同じプログラムで、演習が実施されることとなった。
「おい、空から攻撃をしているぞ」
「トルード王国の王城は、あれでやられたのか・・・・」
F-2戦闘機の爆撃に驚く魔界側、だがこれはまだほんの序の口だ。攻撃ヘリによる対地制圧射撃、特科
部隊による砲撃、10式戦車の正確無比な射撃、ガイアードルの兵士とはかけ離れた空挺部隊の動きなど、
いずれも軍事力では勝ち目がないことを痛感させられるものばかりであった。
「いやはや、実際目にするとすさまじい威力の兵器だな・・・・」
「これ、魔王軍にも導入できないもんですかねえ」
ライドルの意見に、日本側は”武器輸出は原則として認められていませんから”とやんわり断りを入れる。
前にトマス達が来日した際もこの演習見学はスケジュールに組み込まれていた。軍事力の優位を誇示
するのが狙いである。
「でも、魔王さまの魔力障壁なら、10式戦車とか言いましたっけ、あの攻撃くらいは防げるかもなのですぅ」
「え、そうなのですか。さすがファンタジーな世界ですなあ」
「うーむ、、、、それは実際に見てみたいものですぞ」
ピコリーナの一言に、意外と日本側が食いついてきた。彼らも未知の技術、”魔法”の力に興味津々
だったりするのだ。
”おいっ! ピコリーナお前、何余計なこと言ってやがんだあぁぁぁぁぁっ”
と、ワンゲルは内心で叫んでしまったのだが、更に余計なことを言う者が存在した。
「ははは、魔王さまのお力は魔界随一ですからな。どうです、ニホン側にも我らの力、ご披露するというのは」
「ああ、ニホン側にも魔界の力、見せてやらねばなるまいな」
心の声→”ライドルぅぅぅぅっ、テメエわざと言ってんな、覚えていろよおぉぉぉぉっ!”
こうして、引くに引けなくなったワンゲルは、10式戦車相手に腕試しをするハメになってしまった。彼は
”ちょっと打ち合わせを”と言って、戦車の搭乗員に近づいていった。
「なあ、本当のところ、この砲というのはどれくらいの威力があるのだ」
「えーと、確か2000mの距離で、このくらいの厚さの鉄板は軽々と撃ち抜けますが・・・・」
搭乗員は自分の両手を広げてワンゲルに答える。これを聞いた彼は、まるでアンデッドのように真っ青な
顔になってしまった。
「あ、あのー、演習用に威力の弱い模擬弾もありますから、それにしましょうか」
「ああ、すまぬがそれで頼んだぞ」
模擬弾といっても、生身の人間が喰らったら肉片も残らないレベルだ。ワンゲルは決死の覚悟を決めて
戦車から2000m離れた場所に移動した。
「ええっと、準備ができたら撃ちますので、ご連絡ください」
「ああ、魔力障壁は展開済みだ。いつでもいいぞ」
借りた無線機でやり取りをするワンゲルと戦車の搭乗員、砲手はワンゲルに正確に照準を合わせ、トリガー
を引く。44口径120mm滑腔砲から放たれた砲弾が、ワンゲルに向かって飛んでいく。
「ぬ、ぬおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
魔力障壁を突きぬけようとする砲弾を、ワンゲルは全ての魔力を使って食い止めようとする。その甲斐
あって砲弾は、障壁を少し突き破る程度で止まったのである。少しチビってしまったのは内緒だ。
「おおおっ! 砲弾を止めましたよ」
「すごいっ! これが魔法の力なのか」
「ははは、仮にも魔王と名乗るのなら、これくらいは造作もないことだ」
興奮する日本側に、得意げに答えるワンゲル。しかし魔力を使い果たした彼の膝は、生まれたての小鹿
のようにガクガクブルブル状態だ。
「ははは、さすが魔王さまですなあ。では、今日の見学はこれで終わり・・・・」
「ん、ライドルよ、魔将軍と恐れられたそなたの力も、ニホンの皆様方に披露してはどうかな」
「えっ!」
ワンゲルの意趣返しに、ライドルは思わず絶句する。”いや、今日はちょっと体調が・・・・”などと逃げようと
するライドルに、思わぬところから伏兵が現れた。
「ねえライドル、私もあなたの力、見てみたいわあ~」
「そ、そうかヒトミ、ははは、この魔将軍ライドルの真の力、そなたに見せようぞ」
君島からのおねだりに、顔を引きつらせて答えるライドル、まあ先ほどの砲弾なら何とかなるか、と思って
いたのだが、君島は更に彼に試練を与えるのだ。
「ライドル、どうせならあれに挑戦してみない。魔界最強の将軍なら問題ないわよね」
「ヒ、ヒトミ、、、、あの巨大な矢のようなものは何だ」
君島が指さした先には、後部に箱のようなものがついたトラックと、その横に鎮座しているミサイルだった。
「あれは12式地対艦誘導弾です。地上から敵の艦船を攻撃する兵器ですね」
「どれくらいの威力があるのだ」
「そうですねえ、、、皆さまが乗ってきた船、それが一発で大破するくらいの威力です」
「・・・・・・・」
淡々と説明する担当者、ライドルの顔色はもはや地獄の亡者のごとく真っ青だ。
「ライドルなら大丈夫よ。応援してるから頑張ってね!」
そうフンスとガッツポーズを作る君島、無邪気に男を破滅へと導いてしまう、女性の怖い一面である。進退
窮まったライドルに、ワンゲルが実にいい笑顔でポンポンとその肩を叩いた。
「ま、魔王さま・・・・」
「ライドルよ、そなたとは長い付き合いだったが、今日でお別れだな」
「い、いやあぁぁぁぁぁぁっ!」
結局、”あれは参考のために持ってきたもので、ここじゃ狭くて発射できませんから”という自衛隊側からの
一言で、ライドルは九死に一生を得たのであった・・・・
さて、魔界ご一行様が日本を訪れている頃、ハーネス聖神教圏でも動きがあった。ハーネス聖神教国の
聖都ジャンダルム、その中心にある教皇庁に各国の王が集まり、突如現れトルード王国を占領した”穢れた
闇の種族”の国ニホン、それに対してあーだこーだと小田原評定が行われていたのであった。
「トルード王国はこうもあっさり敗れるとは、、、どんな闇の魔法を使われたのか」
「影からの報告によりますと、”改革派”と名乗る連中が闇の種族と共存を訴えておるそうですぞ。なんと
嘆かわしいことだ!」
「王国民は、闇の魔法で洗脳でもされておるのか!」
噴出する議論を黙って聞いていた中心にいる人物が、初めてその口を開いた。
「これは、唯一神にあらせられるハーネス様に対し、冒涜とも言える行為です。この教皇マデラの名に
おいて、聖戦を布告いたします」
教皇マデラ、”彼女”は若干22歳にして聖神教教皇の座についた人物だ。その法力は歴代教皇の中でも
群を抜くものだ。そして、まるで美の女神の祝福を受けたかのような神々しい容姿が、彼女の神秘性を
高めるのにも一役買っていた。その彼女は日本と魔界に対し、聖戦を布告したのである。




