第10話 魔王さまの日本訪問その4(東京だョ 魔王さま)
ワンゲル達は迎えの車でホテルを後にし、新潟駅へと向かった。この駅は近年高架工事が完了し、政令
指定都市のターミナルにふさわしい威容を誇っている。ワンゲル一行は外国のVIP扱いのため、改札も
フリーパスだ。新幹線の改札内に入った彼らはしばし、構内の売店を珍しそうにしげしげと眺めている。
「ここだけで、食料品のほとんどが調達できそうだな」
「本当に物資も豊富なようですな・・・・」
なお、ここでも一悶着起きてしまった。
「だからっ! 私は成人なのですぅ!」
「未成年者にお酒は販売できません」
地酒を買おうとしたピコリーナだったが、あえなく店員から断られてしまった。容姿だけならともかく本人が
記者会見で12歳とサバ読みしてしまったので、まあ自業自得である。
「ピコリーナよ、もうニホンで酒を飲むのは諦めろ。魔界に帰ったらおごってやるからな・・・・」
「ううう、、、じゃあ魔王さま、地酒買ってくださいなのですぅ」
ワンゲルは仕方なくピコリーナの代理で、何本か地酒を購入した。余計な荷物が増えてしまったことに
彼はため息をついてしまう。そんなトラブルはあったが、一行はコンコースからエスカレーターでホームへ
上がっていく。このエスカレーターだけでもガイアードルでは未知の技術であった。
「うーむ、動く階段か。高い所でも疲れずに昇っていけるわけか・・・・」
「魔法がない分、こうした技術が発展したのですな」
魔界ではピコリーナクラスの魔導師になると、術式で高い場所に浮遊することも可能だが、それはごく
一部の者に限られる。そしてホームで一行を待っていたのは、JR東日本ご自慢のE5系電車だ。上越
新幹線では運用されていない形式だが、今回グランクラスで魔界の使節団をもてなそうとの目的で、
特別に仕立てられた列車だ。ワンゲルやガラリアなど主要メンバーはグランクラスへ、おつきの者たち
はグリーン車へと案内された。
「このイス、魔王城の玉座より心地よいな」
「ほほほ、魔界で購入できないか交渉してみましょうぞ」
と、ワンゲル達がグランクラスのすわり心地を堪能している頃、車輛の入り口では・・・・
「いやよっ! ライドル、あなたと離れるなんて耐えられない!」
「ヒトミ、わかってくれないか、これも魔界の神が定めし運命なのだ」
日本側のメンバーはグリーン車に割り振られている。そのため、君島とライドルは離れ離れになって
しまったのだ。いきなりの昼ドラ展開に、
「お前らなあ、、、、すぐ隣の車輛じゃないか。しかも2時間程度我慢できぬのか」
「君島君、さすがに公私混同もはなはだしいぞ」
さすがのワンゲルと武藤も2人に注意する。そして君島とライドルは渋々別々の車輛に移ったのであった。
ちなみに、同じグリーン車に乗った武藤とマリサが仲睦まじくしているところを見た君島が逆ギレするの
だが、これはまた、別の話である。
「まったく、まだ出発前なのにこれか・・・・」
「今度、綱紀粛正の通達を出さねばいけませんなあ」
そんなことを言いつつもやってきた出発時間、ほとんど揺れもなく滑るように動き出した新幹線に、魔界側
はまたもや驚きを隠せない。
「なんだこれは、魔導竜車などとは比べものにならない乗り心地だな」
「これが、庶民も普通に利用しているとは、信じられませんなあ・・・・」
「まるで、最速のドラゴンに乗ってるような速さなのですぅ」
少しして、アテンダントがウエルカムドリンクをシートに配膳する。新潟の地酒なのだがピコリーナには、
「はい、こちらオレンジジュースでございます」
「うう、オレンジジュース美味しいのですぅ・・・・」
もはや何を言っても無駄だと悟った彼女は、涙ぐみながらオレンジジュースを口にするのであった・・・・
「皆さま、間もなく東京駅に到着いたします」
「お、もう着いたのか。本当にあっという間だな」
下車したワンゲル達は、新潟駅を更に上回る巨大ターミナル、東京駅の威容に圧倒されながらも、迎えの
リムジンで近くの高級ホテルへと向かった。日本政府も初めて国交を樹立した異世界の使節を、上にも
下にも置かぬ丁重なもてなしで遇するのであった。
「それでは、本日は東京都内を見学された後、このホテルで夕食になります。明日は朝食後に相葉首相
との会談、昼食をはさんで天皇陛下との会談になります」
武藤の説明に一行もうなづくことでそれに答えた。そして最初に案内されたのは東京スカイツリー、展望台
から見る風景に、さすがのワンゲルも絶句する。
「なんだ、この広大な都市は、、、永遠に街が続いているかのようだ」
「この都市だけで人口一千万というのも、納得ですな」
「ああ、それにしてもハーネス聖神教のやつらは愚かだな、、、今、あいつらが存在しているのはニホンの
慈悲のおかげであろう」
ワンゲルやガラリアも優秀な為政者だ。彼らは日本とガイアードルに存在する国々との国力の差を、まざ
まざと感じ取っていた。そして、文字通り井の中の蛙なハーネス聖神教圏の人族に、憐みすら感じていた。
もし日本が本気になれば、ハーネス聖神教圏などあっという間に蹂躙されてしまうだろう。今日本がそれを
しないのは単なる慈悲なのだと・・・・
「いや~んライドル、ここ床がガラスだから怖いわ~」
「はっはっは、心配するなヒトミ、この魔将軍ライドルが、いかなる時でもそなたを守ること誓うぞ」
「ライドル、素敵・・・・」
「お前らなあ・・・・」
こんな時でも相変わらず通常営業のバカップルに、ワンゲルは何度目になるかわからない胃痛を覚える
のであった・・・・
サブタイの元ネタ、わかる人がいるだろうか(汗)




