表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/37

第9話 魔王さまの日本訪問その3(初めての日本の朝編)


翌朝、ホテルの朝食会場ではワンゲル一行がスケジュールの説明を受けていた。


「では、朝食後に新潟駅に向かい、新幹線に乗車いたします」


「わかった、出発は2時間後だな」


そして目の前に運ばれてきた朝食、これは魔界側たっての希望で和食にしたのだが・・・・


「この黒いのは、紙か・・・・」


「これ、豆が腐っているようなのですぅ・・・・」


「ほ、ほほほ、、、、このガラリア、生の卵なぞ生まれて初めてですぞ」


などと、実にテンプレな反応をかましてくれたのであった。


「お口に合わないようでしたなら、洋食に変更もできますが」


「いや、ニホンの伝統的な食事を希望したのは我らの方だ。皆の者、心して食するのだぞ」


こうして、恐る恐る和朝食を食べ始めた一行、思い切って口にしてみると、見かけほど味は悪くない。

特に地元村上の塩引き鮭や魚沼コシヒカリは絶品だ。


「えっ! ヒトミ、納豆に生卵混ぜるのか・・・・」


「そうよ、これ意外と合うのようね~」


思わずライドルも引いてしまったが、君島が美味しそうに食べるのを見て彼も真似をすることにした。

しかし、口の中に入れるのを躊躇してしまう。


「どうしたのライドル、やっぱり納豆は苦手なのかしら・・・・」


「は、ははは、何を言うかヒトミ、この魔将軍と呼ばれた我に、恐れるものなぞないぞ。お、見かけとは

違ってなかなかイケる味ではないか」


そう強がってこの奇怪な食物を口にするライドル、言葉とは裏腹にすでに涙目だ。


「あやつ、、、、無理しやがって」


「これに生卵って、、、、まるで伝説の悪魔の錬金術なのですぅ」


しかし、ライドルの受難はこれで終わらなかった。彼は更なる試練を君島に課せられてしまうのだ。


「ねえライドル、これも一緒に混ぜるとおいしいのよ」


「ヒ、ヒトミ、、、、これは一体なんだ。野菜にスライムでもあえておるのか・・・・」


君島の差し出したものは、オクラの入った小鉢だった。こうして、ネバネバ地獄に陥ったライドルに、魔界

の一行はそっと涙をぬぐうのであった。


「それでは、30分後に迎えの車が参りますので、それまでロビーでお待ちください」


「ああ、わかった」


朝食後、ワンゲル達はホテルのロビーでコーヒーや紅茶を楽しみながらくつろいでいた。ワンゲルの視線

は、ロビーにある大きな液晶テレビに向けられている。今は日本各地のニュースを放映していた。


『次に函館からのニュースです。本日の早朝大きなイカが水揚げされ、話題になっています』


「んっ・・・・?」


画面に映し出されたのは、全長20mほどとやや小ぶりながら、海の魔物と恐れられるクラーケンだった。


「あら、これはずいぶん大きなイカですねえ」


「ダイオウイカかな。この世界にもいるんだなあ」


「いや、あれクラーケンだから・・・・」


ワンゲルの呟きは、日本側には届かなかった。


『現地にはリポーターの松下かえでさんが取材しております。松下さん、大きいイカですねえ』


『はい、今回このイカを水揚げした、イカ釣り漁師の佐藤さんにお話しを伺いま~す』


「軍隊じゃなくて漁師に捕まったのかよ、クラーケン!」


ワンゲルは思わずテレビ画面に突っ込みを入れた。ガイアードルでは軍隊でないと対処できない、という

のが常識なのだ。


『いやあずいぶん抵抗されたんだげど、オレの船も最近大馬力のエンジンに換装したばかりだから、港まで

無理やり引っ張ってきたよ、わはははは』


「わははじゃねえよっ! あれ仕留めるのに軍船5隻は必要なんだよ。何で漁師が捕まえられるんだよ!」


「ははは、まあ函館はイカ漁が盛んですからなあ」


「ところであのイカ、味の方はどうなんでしょうか。ダイオウイカはまずいそうですし・・・・」


更に突っ込みを入れるワンゲルに、日本側はのほほんとした対応だ。そして、更にワンゲルを驚愕させる

出来事がテレビ画面で展開していった・・・・


『ところでこのイカなんですが、函館名物のイカそうめんにしてみました。調理は朝市で食堂を営んでいる

丸見さんで~す』


「あれ、食べるのか・・・・」


ワンゲルはもはや呆然と画面を見ているだけだった。


『身も透き通っていますね、、、、うわっ! 甘~いですよ。これは』


『松下さん、そんなに美味しいですか。これまで大きいイカというのは不味いと言われていましたが』


『いえいえ、こんな美味しいイカ生まれて初めてですよ。他の料理も紹介しますね』


そうしてリポーターは、焼きイカやイカフライ、ゲソ焼きなどの料理をそれはそれは美味しそうに平らげて

いく。それを見ている魔界ご一行は、お口あんぐりな状態だ。


「あれだけ大きなイカが獲れるのなら、イカについては心配しなくても良いようですなあ」


「いや、あれイカじゃなくてクラーケンだから、魔物だから・・・・」


ワンゲルの呟きは、日本側の誰にも通じることはなかった・・・・


『続いての話題です。マグロで有名な青森県の大間町で、10mの巨大マグロが水揚げされました』


「もうええわっ!」


ガイアードルで恐れられる海の魔物も、日本人からしたらただの大きいイカ、マグロの扱いだ。ワンゲル

の胃は朝からキリキリと痛むのであった・・・・


ちなみにその後函館では山形県の巨大芋煮にヒントを得て、有名駅弁業者協力のもと、


”ギネスにチャレンジ、世界最大のいかめし祭り”


なるイベントを開催するのだが、これはまた、別の話である。


「なあムトウ殿、”ギネス”というのは何なんだ」


「ギネスブックと言いまして、何でも世界一を集めたイギリスの本ですよ」


「イギリスって、、、、ガイアードルにはない国だろ」


「はあ、、、まあ世界一と言えばギネスですからな」


「そうか・・・・」


ワンゲルは、考えることを放棄した・・・・


富山では、ダイオウイカをスルメに加工した水産業者があったそうで(実話)

欧米人から恐れられるクラーケンも、日本人から見ればただのでかいイカ(タコ)で

あります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ