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プロローグ 魔王さまは今日も胃がストレスでマッハ(死語)です


「くうっ、、、、胃が、今日も痛むな・・・・」


チュンチュンと小鳥のさえずる清々しい朝、誰もが素晴らしい一日の始まりを期待する陽気の中、彼は

シクシクと痛む胃を押えて憂鬱な表情だ。彼は一見すると20代後半のイケメンだが、頭に生えた2本の

ツノと、背中にある翼が人外であることを証明している。そんな彼の自室のドアが、コンコンとノックされた。


「うむ、入ってかまわぬぞ」


「魔王様おはようございます。朝食をお持ちいたしました」


この会話でわかる通り、ここは爛熟した科学文明を誇る地球ではない。マナに満ちあふれた剣と魔法の

テンプレなファンタジー世界、ガイアードルである。御多分に洩れずこの世界もいわゆる人族と魔族とに

別れている。さわやかな朝に胃痛をこらえている彼は、魔族の(おさ)であるワンゲル14世だ。


「すまぬが今日も胃痛がひどくてな、、、、朝食は下げてくれ」


「恐れながら申し上げます。魔王様はいつもそうおっしゃられて朝食抜きではありませんか。それでは体

に良くありませんよ。料理長も胃にやさしいメニューを考案しておりますので、どうか一口だけでも召し上

がっていただけませんか」


「わかった。皆の心遣い、このワンゲル感謝するぞ」


心底から彼を心配しているメイドの言葉を聞き入れ、器の料理をスプーンでその口に運んだ。その料理は

日本人が見たらお粥だと言うだろう。香辛料などの刺激物は一切つかわず、出汁だけで味付けした胃に

やさしい一品だ。


「おお、確かにこれは胃に負担がかからぬな。料理長にも苦労をかけてすまぬな」


「いえ、魔王様のそのお言葉だけで、料理長も喜ぶことでしょう」


そう笑顔を見せるメイドも一見人族だが、彼女の耳は横に長く伸びていた。地球では”エルフ”と呼ばれる

架空の種族にソックリだ。ガイアードルには他にもドワーフや獣人などに相当する種族が存在する。そして

この世界の人族はそんな彼らを十羽一絡げにして、”魔族”と呼び敵対しているのであった。


「魔王様、今日の会議ですが10時からの予定です。よろしくお願いいたします」


「ああ、遅れぬようにするよ。皆にも伝えておいてくれ」


朝食のお粥を平らげたワンゲルは、今日の予定を告げるメイドにそう答える。メイドはペコリと頭を下げて

空の食器を積んだワゴンを下げていった。


「さてと、、、食後の胃薬はこれだな」


久々に朝食を完食した彼は、食後の胃薬を流し込んだ。なぜなら、この後また胃をキリキリさせるような

会議が始まるから・・・・


「ふむ、、、人族の国同士で、争いごとが起きただと」


「はい、トルード王国は敗れ、現在占領下にあるようです。王族の行方は不明です」


「しかし、ハーネス聖神教の連中が剣を交えるなど、珍しいこともあるものだな」


ガイアードルの人族は、ハーネス神を唯一絶対神と崇める聖神教を信仰している。これは人族至上主義

のテンプレな宗教で、この世界でエルフなどが魔族扱いされている元凶でもある。


「トルード王国は総兵力5万は動員できる国だ。それを打ち破ったとすると・・・・」


「おそらく、キスリング王国かマイバッハ帝国あたりが同盟を組んで攻めたのかと」


トルード王国はこの魔族の国と国境を接しており、ワンゲル14世の代になってからも何度も小競り合いを

繰り返している。王国軍の精強さも知っている彼は、部下の言葉通り他の利害が対立している国が手を

結んで、戦争を仕掛けたのだと結論づけた。


「しかし、これはハーネス聖神教国の威信が落ちてきたことの表れではないですか」


「確かに、これまでなら人族同士の諍いは戦争になる前に、彼奴らが仲介しておりましたからな」


人族の間で絶対的な権威を誇るハーネス聖神教、それが揺らいでいるとみた向きの中には、これを絶好

の機会と捉える者もいた。


「魔王様、これは天が我らに味方したと思いますぞ。今こそ魔王軍の全力をもって、憎き人族を根絶やし

にする好機ですぞ!」


そう熱弁を振るうのは魔王軍総司令官のライドルだ。彼は虎の獣人で身長2mのいかつい軍人である。

その反面ピコピコと揺れる虎の耳や尻尾が意外とチャーミングだ。


「そう逸るなライドルよ。やつらが勝手につぶし合ってくれるのだ。わざわざ手を出さずとも高見の見物と

行こうではないか」


「魔王様何をのんきなことをおっしゃるのですか! 貧弱な人族なぞこの機に乗じて一気に攻め滅ぼす

のが最上の策ではありませぬか!」


「ライドル殿のおっしゃる通り、今こそ人族を根絶やしにする絶好の好機ですぞ!」


「人族なぞ、蹂躙し燃やし尽くしてしまうのですぅ!」


ワンゲルは部下の発言を耳にして、治まっていた胃痛がまた再発していた。この脳筋どもは戦争しか頭に

ないのか、魔王軍の実力なら人族全体を相手にしても負けることはないだろうが、向こうも必死の抵抗を

するだろう。勝っても大打撃を受けること間違いなしである。


「よく聞け皆の者、今は仲違いしていても我らが侵攻すれば、たちまちやつらは一致団結するぞ。その位

は理解せんか」


「むう、しかし・・・・」


なおも不満気なライドル始め会議の参加者を、何とかワンゲルはなだめすかして人族との全面戦争を回避

させた。彼としては人族とはなるたけ関わり合いをなくして、その分魔界の民の生活向上に力を注ぎたい

のだ。そんな為政者として当たり前のことを理解せず、威勢のいいことばかり叫んでいる重臣たちに、今日も

彼は胃が痛む思いをするのであった。


「まあ、魔王様がそうおっしゃるのならば・・・・」


「しかし、人族がこちらにちょっかいをかけてきたら容赦しないのですぅ」


「皆の言うこともわかるが、今は民の生活向上に力を入れようぞ。しいては、これが人族の侵略なぞ寄せ

つけぬ国の強化にもつながることだ」


ワンゲルの正論に、会議の参加者は渋々ながら賛同する。彼は痛む胃をひそかに押えながら、やれやれ

今日もコイツらの暴走を抑えられたと安堵する。これがいつもの定例会議の流れであった。しかし、今回

はこれだけでは済まなかった。会議終了直前に伝令が息せき切って飛び込んできたのである。


「港町アイゼンの守備隊から緊急の連絡です! 人族の使節が上陸いたしました。目的は、我が国と正式

に国交を結びたいとのことです!」


魔王ワンゲル14世、彼の苦労はこれから本番を迎えるのであった・・・・


新連載始めました。だいたい30話くらいの中編になる予定です。

よろしくお願いいたします。

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