謎の美少女転入生?! 実際。美少女だろうと謎の転入生って恐怖でしかないよね。
結局、豚人間が何をしたかったのかも分からずにホームルームが始まってしまった。
「このリア充がァ!!」って怒ってきたわけでもなかったよなぁ……。
すると、先生の一言で教室がざわめき始める。
「今日は転入生を紹介しまーす」
このタイミングで転入生?! しかも、一ヶ月とかいう微妙な時期に……。
こんな生徒は変わったヤツに決まっている! 美少女だ! と言いたいところなんだけど……。Dクラスだから美少女が来るとは言えないんだよなぁ。
「入ってください」
ゆっくりと扉が開かれる。
そこから出てきたのはAクラスに余裕でいけるような美少女だった。
長く綺麗な黒髪が特徴で目がパッチリしている。鼻筋もスッとしていて顔全体のバランスがとても良い。
そんな美少女が何故Dクラスに??
彼女は真ん中に立ち、自己紹介をすると思いきや……。
窓側の席の方へ一人淡々とクスクス笑いながら歩き始める。
先生は止めようとするが、彼女は聞く耳を持とうとしないのか無視していく。
一番前の席。前から二番目……とどんどん超えていく。
誰かに用があるのだろうか? まぁ、俺は一番後ろの五番目だから関係は無いと思うがな。
第一、誰かも分からないし。
三番目、四番目と過ぎていく。
え、まさか俺? でも、こんな美少女知らないぞ。ファンタジー作品なら、この子に「世界を救ってください!!」とか言われて異世界へ行くんだろうなぁ。
ラブコメなら、昔幼馴染だった謎の美少女転入生! とかになるのかな。
まぁ、どちらも俺には関係ないんだけど。
すると、彼女は俺の席隣に立ち止まりニヤニヤと笑い始める。
何この子。実際にこんな転入生が来たら、美少女だろうと薄気味悪いな!
俺は正直に「何ですか?」と聞こうとすると彼女は突然座っている俺の胸に飛び込んできた。
動揺が隠せず、教室内にも関わらず「ふぁっ?!」と声を上げてしまう。もちろん教室での動揺も更に増していた。
だが、そんな事よりも胸がお腹に当たる感触。抱きついてきた髪、肌、服、全てからするいい匂い。
その全てに魅了され、考える事を放棄していた。
正直、こんな美少女に抱かれてるなら死んでも構わない。そうとすら思えてきた。
すると、彼女は俺の胸から離れ今度は立ち上がり俺の手をがっしりと掴む。
「お久しぶりです! えっ君っ……!!」
「えっ……君っ?」
「もう! 忘れたんですかー?」
えっ君……? えっ君? 昔、どこかで聞いたような……。仲の良かった女の子。っていうか、化け物。なら分かるんだけど。
完全にあいつでは無いよなー……。だって、完全に容姿が違うもん。
俺が手を掴まれたまま、しばらく考えていると先生が呆れたようにこちらへ近づき、手を引き離す。
すると、先生は耳打ちで彼女に何かを話すと満足したかのように「はーい!」と幼稚な声を上げて俺の後ろの空席へと座った。
ところで、本当にこいつは誰なんだ? 女の子ー……。女の子。
いやいやいや! あいつの名前は忘れたけど顔や体型くらいは知ってる。
俺の知ってる「えっ君っ……!!」は横綱体型のツインテールから送られる恐怖のボイスだったはず。あくまで幼稚園の記憶だけどな。
なんて、一人で考えていると先生がいかにもダルそうに彼女の紹介を代弁する。
「彼女は色々な都合でこの高校に入ってきましたー。まぁ、自己紹介だけでいいんだよね。彼女の名前は『松本 美咲』さんです。
それでは、ホームルームに戻ります」
松本……美咲。どこかで聞いたような……。
松ちゃん? いや、それはお笑い芸人だし。みーちゃん? それは俺の入れてるアプリの音ゲーだし……。
誰だ……?
そして、一時間目が始まる。すると、その直後に彼女から背中をツンツンされまくった。
「ねぇねぇ……」
彼女は耳に息を吹きかけるようなエロい感じで話しかけてくる。
「な、何?」
「思い出したっ……?」
昔、横綱でしたか?! って聞きたいけど、こんな可愛い子に聞けるわけがない。違ったら失礼すぎる。
「わ、分かりそうで分からない……。良かったら教えてくれない? じゃあ、昼休みにね」
彼女はそう言うと片目を瞑り、ウィンクをした。
いや、本当にこの美少女は誰なんだよ!! 人違いしてるんじゃないか?!
そんな不安を抱きながら、昼休みまで真剣に考えた。
そして昼休みになると「ご飯一緒に食べない?!」と松本さんは引っ張りだこだったが彼女は「ごめんね?」と皆に謝ると俺へと抱きついてきた。
周りの男女は「どういう関係ー?」と聞いてきた。
俺は首をかしげておいたが、松本さん(馬鹿)が「彼氏だよー! ふふっ」とかアホみたいなことを言ったせいで周りの女子が更に騒いでしまった。あー、これで男子からの視線がきつくなる……。
本当に馬鹿だろ!!
「ご飯食べよー! ダーリン!」
「その呼び方やめろ! 別にいいけど、どこで食べるんだ?」
「人に聞かれないところがいいなー。んー……」
すると、彼女は「待っててね!」と一言残しどこかへ立ち去った。
その際、男女に質問攻めをされたが「俺だって分かんねぇよ!」と少し半ギレで返しておいた。
しばらくすると彼女が戻ってくる。
「こっちこっちー」
と、引っ張られて連れて行かれた先は屋上だった。
確か、Dクラスの立ち入りは禁止だったような……。
「ここって使っちゃダメなんじゃ……」
「貸し切ったから大丈夫ー!」
す、すごい財力だな。
まぁ、ありがたく使わせてもらうけど。
屋上の真ん中にはお花見でもするような凄く豪華なお弁当と花見のセットのようにシートと日傘が置いてあった。
「あそこで食べよー!」
俺は言われるがまま付いていきシートの前で靴を脱ぐ。
その座った先に置いてある「食べよー!」と言われた弁当は運動会前日にお母さんが張り切って作ってきたー! みたいな豪華な弁当になっていた。唐揚げやら、タコさんウインナーやら本当にそれらしい弁当だった。
まぁ、そういう機会は無かったので全く分からないが。
「どう? 私の事。思い出した?」
「ごめん。悪いんだけど全然……」
「このお弁当を見ても……?」
「……分からない」
「そっか……」
彼女は少し悲しそうにした後、再びニッコリと笑った。
「なら、誰だか絶対に分かるようにするよ!」
すると、彼女は俺に顔を近づけた。