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転生してチート貰ったのでダイジェストに生きる

作者: タタリ

 俺はある日、事故に遭って死んだ。そしたら何か神様的な存在が現れて異世界に転生させてくれるらしい。しかも転生時の特典としてチート能力をくれると言うので俺は催眠チートを貰うことにした。無論、使いこなすために相応な魔力も一緒にだ。

 そして俺は神様的な存在との会話を終え、異世界への転生を果たした。


 転生して数ヵ月経ったある日、赤ん坊の俺は一人で母が泣いている姿を見た。どうやら父との喧嘩が原因らしい。喧嘩した父は今は外出している。

 これは駄目だ。家庭内の不和はそのまま家庭の不幸に繋がる。俺だけが不幸になるなら兎も角、産み育ててくれた父と母が不幸になるのは避けたい。

 だから俺は催眠チートを母に使うことにした。喧嘩の事なんか忘れて幸福な状態になる様に調整した催眠を施したところ、母に笑顔が戻った。

 これで良い、と既に座った首で頷いた俺は父が帰宅する音を聞いた。母だけを催眠状態にしてはバランスが悪かろうと思い、父も催眠にかけた。父にも笑顔が戻った。

 夫婦仲が良いのは良い事だ、と俺は再び頷いた。


 数年後、自分の足で歩き回れる様になった俺は家の外に出てみる事にした。窓ガラス越しではない直射日光が眼に沁みる。だがほどほどに吹く風が心地良い、良い散歩日和の様だ。

 街中を歩いていると、当然ながら色々な人が居る。笑っている人や無表情な人、怒っている人や悲しそうな人まで様々だ。

 笑っている人は良い。無表情な人も、まぁ良いだろう。だが怒っている人や悲しそうな人は駄目だ。人は出来れば幸福に生きるべきだ。一生に一度しかない人生ならば、楽しまなければ損であろう。転生した俺が言うべき事では無いかも知れないが、それは置いておこう。

 と、言う訳で俺は催眠をする事にした。この歳になるまで両親に能力を使い続けた為か、赤ん坊の頃よりも俺の能力は強くなっている。折角なので街の住人全員に催眠をかける事にした。住民皆が幸せになってくれれば幸福な街になってくれるだろう。

 良い事をしたら気持ちが良い。俺はうんうんと頷きながら家に帰って行った。


 月日が経ち、俺も少年と呼べる歳となった。転生の際にチートと一緒に魔力も貰ったが、それを評価されてか王都の魔法学院への推薦を受けた。魔法学園、何だかワクワクする響きだ。異世界に転生してきたのだとひしひしと実感できる。

 いざ王都へ来てみると、なるほど確かに賑やかで華々しい。行き交う人々には大いに活気がある。その熱量は俺が生まれ育った街とは雲泥の差だ。

 だが光ある所には闇がある、とでも言うべきか。裏通りへ言ってみれば、浮浪者や孤児達が多く居た。王都はこの国の幸福の縮図であると同時に、不幸の縮図でもあるのだ。

 これではいけない。人は生きているなら当たり前に幸福を享受すべきだと言うのが俺の持論だ。どんな人間にも、幸福に生きる権利がある。

 故に催眠を施す事にした。何も問題は無い。今の俺はこの国全域にこの力を行き渡らせる事が出来るのだから、国民全員に幸福な人生を送ってもらう事が出来る。

 国民全員が幸福になれば、政治も経済も生活も良い具合に回ってくれる事だろう。そうして人々は更に幸福になるのだ。幸福の好循環とはこの事だろう。

 俺は屋台で買った串焼きを頬張り、頷きながら魔法学院へと向かった。


 時は過ぎ、俺も成人となり、魔法学院を卒業する頃になった。長く過ごした学院生活だが、皆良い人ばかりで良かった。ここには色々な思い出が詰まっている。

 卒業後の進路であるが、実技と筆記両方の成績が良かった為か宮廷魔導師としての誘いが来ていた。将来性は抜群の国家公務員だ。頑張って勉強した甲斐があったものだ。クラスでも友人に王子殿下が居たのも大きいのかも知れないが。気のせいだと思いたい。

 気のせいでは無かったかもしれない。宮廷魔導師となった俺は、何故か学友だった王子殿下の御供として諸外国を回る事となった。もう一度言う、何故だ。

 頭を抱えたくなったが、もう開き直って外国の雰囲気やらなんやらを満喫する事にした。しかしよくよく見てみれば、訪れた国には色々な不幸があった。それは貧困だったり、飢餓であったり、あるいは病気であったりと、兎に角色々なカタチの不幸がそこにはあった。

 不幸は駄目だ。それは文字通り幸福ではない。実に悲しい事だ。

 ならばと俺は催眠にかける事にした。既に俺の催眠の力は全世界を覆える程にまでなっている。人類皆が催眠にかかれば、もうこの地上からは不幸が一掃される事だろう。俺は万感の想いを込めて、力を全世界に向けて放った。

 これで良い、これで世界は救われる。そう考え、俺は頷きながら王子殿下の後を追った。


 俺も歳を取った。もう百年近くも生きて、寿命が近づいて居るのが分かる。もうすぐ自分は死ぬのだという予感が、段々と強くなってきた。

 嫁を取り、子を育み、孫が産まれと色々あった。これまでの人生の出来事が走馬灯の様に頭に浮かんでは消えていく。本当に色々な事があった。

 死ぬ前に為すべき事がある。そう、催眠だ。俺が死んではこれまで維持し続けていた力が無くなり、世界に再び不幸が現れるだろう。

 だがそんなことはさせない。地脈を弄ったり高位魔法に使う触媒を用意したりと様々な準備を行い、この世界を覆う催眠を永久に固定化する仕組みを作り上げたのだ。これで世界は幸福なまま続いていくだろう。これが俺の最後のにして最期の催眠だ。

 俺はそう頷いて、力を解き放った。

本当に幸せなのか

本当の幸せなのか

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