8.恋とゾンビと聖人と
「ちょっと・・・まぁとにかく、僕たちに説明してくれないかな」
「そうですわね、理解が少し・・」
それに続き、ハニエラと婆やもうんうんと頷く。
・・それもそうか。
確かに、急に“この二人が今から仲間ね”から始めても困るよな。
「そうですね、申し訳ない。こちらが看守長のローズマリーと、看守の霞です」
正確には、元看守長と元看守だが。
「うん・・・・うん」
「な、名前だけ?もうちょっとその~・・身なりについてさ」
「ローズマリーが“ゾンビ”で、霞が“悪魔”です」
「・・いや、僕でも分かるよ」
「というか女神様っ、よりによって悪魔なんて・・!」
「仕方ないじゃないですか、男手がいるかもしれないんですから」
もっとも、彼は一番の被害者だけれど。
「僕も、この幼女に連れられてきたので・・できれば温厚にお願いします」
青年は苦笑しながらも、天使のほうに笑顔を見せた。
種族の問題もいろいろあるし、ここは仲間として認められなくても・・、
「え・・あっ、よろ、しく・・」
「え」
「は」
言い出したはずのハニエラが、明らかに赤面している。
嘘だろ。
こいつ正気か・・。
という顔を、今回はシニエラにつられて、私もしていた。
「これは禁断の恋だよ、女神様」
「まさか、まさか種族は違えど・・!」
ハニエラが、悪魔である霞に恋をしている事実。
何というか、予想外ではないような、あるような。
「とっ、ともかくっ、こっちの女の子のほうはっ!?」
我に返ったハニエラが、焦りながら言った。
「おな゛か、すい゛、た・・・・・」
「えー、こんなとこに死体なんてありませんよー・・?」
どうやら空腹らしく、お嬢様口調から元に戻っていた。
霞も慣れた口調で、辺りを見回している。
そしてローズマリーを敵対視し始めたハニエラ。
お前、天使のくせに醜いな。
心が。
「死体なら、あそこにあるんじゃないかな」
シニエラが冷静に指さしたのは、近くに見える墓場。
・・お前も醜いよ。
「ボスがいそうなのは【悪魔神楽】ですし・・そこを中間地点にするのも良さそうですわよ」
「近くに【白き灰の病棟】という場所もあるし、もしかしたら薬も手に入るかもしれんしのう」
どちらも薬品関係のエリタと婆やは、行くほうに賛成している。
「じゃあ、あちらの・・【すすり泣く墓場】に行ってみましょうか」
満場一致し、新しい二人を加えて、再び歩き出した。
【STAGE:すすり泣く墓場】
今にも泣き声が聞こえてきそうな悲壮感と、どことなくひんやりした空気。
傍には、婆やが言っていた【白き灰の病棟】という大きな建物が建っている。
ここの下には、病棟で亡くなった者が眠っているのだろうか。
「にしても暗いですね・・あの建物の影でしょうか」
「えっとそのっ、あの・・・・か、霞くん、よかったら手を繋ぎたいなーって・・」
「あぁすいません、先客がいるもので・・・」
青年の傍らから、ちょこっと顔を出すゾンビ幼女。
・・あれ、これ戦争フラグ?
「そう、だったらいいんだけどっ」
全然よくない表情をしているのは君だ、ハニエラ。
自分の感情に忠実すぎるわ。
だが、霞も霞で全く気付かずに幼女と喋っているし、これは嫉妬しても仕方ない気がする。
鈍感男にほど熱中するものだぜ、女は。
「・・あ、女神様」
婆やが、前を指さして言った。
少し古びた、小さな噴水だ。
「誰かいるようですが」
そう言われてよくよく見ると、噴水のほとりに少年が佇んでいた。
男子にしては長すぎる髪を、サイドテールにまとめていて、髪飾りまで付けている。
・・最近の男の子のおしゃれは、よくわからないものだ。
「・・・あ」
そうぼんやりと考えていると、私たちに気付いたらしい少年が、こちらを向いた。
「・・うっそ、女神様っスか・・・とりまチョリーッス」
謎な言語で話しかけられた私は、考えるのをやめた。




