5.くりぬかれた双眸
【STAGE:腐臭のする監獄】
鉄の門に、張り詰められた有刺鉄線。
入るなという暗示が、門の時点でにじみ出ていた。
「ひぃ~・・・ここの門から既に怖いね~・・」
「僕はけっこう興奮してるんだけどな」
「こんなところ、もう二度と来てやりませんわ・・」
「恐ろしいものじゃ、今にも鞭打つ音が聞こえてきそうじゃのう・・」
皆が不安を感じている中。
私は、その鋼鉄の門に手を・・。
「・・・・あの」
「え?どうしたの、女神様っ」
「これ・・普通に私が開ける流れですか」
「当たり前じゃん」
「すいませんが、私は職業上・・」
「婆やの腕も、もう少したくましくあれば・・」
あ、これマジのビビるヤツじゃん。
マジパねぇじゃん。(死語
「・・・・・、ふぅ」
十分に心して、門に手をかける。
↓
そしてその瞬間にゲーム画面を開き、能力を使用する。
穏やかなときはいくら簡単でも、ここは牢獄だ。
「・・女神、いきまっす」
素早くその手を引き、ドアを―――――!
「何してるんですか、止まってください」
―――引くことはできず、易々と看守に銃を向けられた。
もうここは、能力で突破するしかない。
「っ、【白銀の大蛇】・・!」
現れた白蛇が看守を散らす中、真向からこちらへ来る人影が見える。
「女神様、油断しないで・・!!」
「わかって・・っ、」
人影が止まり、真っすぐこちらを見据えているように見える。
距離があるので、顔や表情は読み取れない。
蛇が暴れているというのに、未だ動こうとしていないようだ。
「あの看守だけ、何で棒立ちして・・」
ハニエラがそう呟いた瞬間、うっすらと向こうの口が開いた気がした。
「【不死の毒蛾】・・」
「っは、ちょっ、何あれっ!?」
「蛇が・・・信じられない・・」
私が出した蛇もろとも、ありえない数の毒々しい斑模様の蛾が、地面を包み込む。
その瞬間に地面は腐り落ち、紫の煙を巻き上げながら落ちていく。
「嘘・・・女神様の攻撃が当たらないたんてっ・・!」
「いや・・・・・恐らくこれは、蛾の毒が見せる幻覚じゃろう」
幻覚、と呪術師は言った。
・・そういえば、エリタからもらった解毒剤がなかったか。
「婆や、解毒剤は効きますか?」
「これは無理でしょう・・何せ蜃気楼のようなものですから、自然に目が治るのを待つほうがいい・・。」
しかしまだ目に映るのは、地面が沈下し、数百ほどの毒蛾が群がっている光景だ。
「なに゛・・しに、きたの゛・・・・?」
「は・・!?」
そうこう考えていると、突如、目の前にさっきの看守がいるのだ。
しかも、幼女の。
「こた、え゛て・・?」
あざとく小首をかしげるものの、その両目は“無く”、二つの空洞があるばかりだ。
しかも、その空洞からは滔々と血液が流れている。
死んでもおかしくないような血液が、その双眸から。
この異様な幼女看守を、どうやって怯えずにいるものか。
「っ、と・・まさか、こんな手荒に入るわけではなかったのです、申し訳ない・・・話なら別の場所で、どうか・・!」
「・・・・・か、すみ゛・・あん、な゛い・・」
「えー、僕ですかー・・?」
名前を呼ばれて来た青年が、ついてきてくれと合図をした。
この状況と能力から見て、幼女のほうは上司なのだろうか。
軍隊も、あんな幼女を入れるということは、あの看守に、何らかの恐ろしい力があるからに違いない。
さっき群がっていた毒蛾は消え、煙さえ見えない入り口を後にして、私たちは監獄の奥へと進んでいくのだった。