3.黒き死臭の沼の主
【STAGE:呪術師の樹海】
一度街を抜けてしまうと、道は、暗い霧の立ち込める樹海へと続いている。
その奥深くには、『黒死沼』という“人魚が住む”といわれる沼もあるらしい。(シニエラ情報だ)
「この辺はかなりぬかるんでますわね・・確か、とある商人の話では、『黒死沼』を越えた先に呪術師がいるんだそうですが・・」
「呪術師、か~・・・本当にいるのかな、こんな森に・・」
「しかも、その呪術師は少女だとか幼女だとかうんぬんかんぬん」
「それは何やらお若そうですね」
少女と幼女の違いは、そこまで追求しないけれど。
・・でも、何か“幼女”って書かれてるほうが犯罪臭を感じない?
「ともかく、腕はヤバいと」
「なるほど、腕がヤバいと」
「“が”にするだけで呪術師さんの年齢を彷彿とさせますわね」
話しながら歩いていても、さっきから同じ景色から見えないばかりだ。
「ねぇ、まだ~?」
「遠すぎませんか、この距離・・・いくら歩けば着くのでしょう・・」
「いや、これは・・・・道のせいでもなさそうですわ」
ここは、樹海だ。
行く者を死へと追い込む、謎多き森。
「僕たちが、迷っているんだよ」
シニエラが口を開き、皆が改めて理解する。
「じゃあどうするの~・・ここで一生が終わっちゃうじゃん・・」
「何とか手はないものでしょうか・・・迷ったとき用の妙薬など持っていませんもの・・」
「そういう時は」
「え」
「女神様の力だよ」
もしかして。
もしかせずとも、私のアビリティにあるものなのだろうか。
「・・わかりました」
ひとまずゲームパッドを出し、迷わず『とくしゅのうりょく』の欄を開く。
使えそうなものを探していると、こんなものがあった。
**とくしゅのうりょく**
【めがみ/Lv.99999】
【神々の道標】:道のない場所に道を作ることができる。
***************
正確には、道がないわけではないが、使って損はなさそうだ。
「・・【神々の道標】・・・!」
「、これは・・」
「何てこと・・・道が、開けた・・!?」
ぬかるみだった道は泥を押しのけ、呪術師の元へと続くであろう道を、花や蔦で飾り付けながら指し示している。
「さすが、僕らの女神様だね」
「・・・さぁ、この道を進むのです」
自分でも、驚き過ぎて混乱している。
てか本当に大丈夫かな、これ。
いきなり地盤沈下とかならない?
お花とか咲かせちゃったけどいいの?
「あのさ、正直すごく今更なんだけどっ」
「はい?」
「その呪術師さんに会って・・まさか、仲間にしちゃうつもり?」
「もちろんです」
これだけは明確だ。
「どんな方なのかも分かりませんが、女神様が言うのなら・・きっと、それは正しいのですわ」
あ、それはちょっとプレッシャーかな。
「信ずれば道は開けるのです・・人も天使も妖怪も・・神も、同じように」
答えになってないような気がするけれど、一応それっぽいことを言っておいた。
・・よくよく見ると、ちょっと洗脳っぽかったかね。
「・・・珍しいお嬢さんたち、ちょっと止まりなさい」
「え、」
声のほうを伺うと、そこは。
底の底まで黒い、死臭のする沼だ。
【STAGE:黒死沼】
「この通り、あたしは目が使えないけれど・・こんな樹海にどうしたの、集団自殺?」
その死臭のする黒い沼のほとりにいるのは・・そう。
童話のモチーフにもなった、紛うことなき“人魚”なのだ。
しかもその人魚が、私たちに話しかけている。
言っている通り、両目は無残にも縫い付けられているが。
「あの・・あなたは?見たところ、この沼の主のようですが」
「んん、まぁそんなところね・・・そういうあなたこそ、他の動物や人間からは感じられないような・・樹海には相応しくない、神聖な雰囲気を感じるわ」
「そうでしょうか、それは光栄です」
下腹部から足までの、光輝く尾びれ。
この沼に映える、美しい翡翠色の長髪。
彼女を見れば見るほど、違和感しか感じられない。
「改めて、何をしに来たの?こんな場所、あなたたちが来るところじゃないんじゃない?」
「いえ、この奥にいるという呪術師に会いに。ちなみに、その方で知っていることは?」
「いいや・・何しろ、あたしが生まれるずっと昔からいたみたいだし・・・でも、いるのは確からしいわよ?ここにあたしの仲間がいた時も、その呪術師を見たことがあるっていうのは何度かね」
「そうですか・・あぁ、よければあなたのお名前を」
「ふふ、あたしはアーズィーヌ。名前を聞かれるなんて、何百年ぶりだか・・そうそう、あなたたちは?」
「私はハニエラでっ」
「僕がシニエラで」
「私がエリタですわ♪」
「私は・・・名乗る名もない聖人、とでもお思いください」
「聖人、ねぇ・・分かったわ、何かあった時は、必ず役に立つから」
「ありがとうございます・・それでは、神のご加護を」
「ええ、ご武運を」
沼を去り、突如として私たちの行く手を塞いだのは・・。
この世に存在しようもない、“大樹”だった。