21.使者たちは片方だけ
【STAGE:悪魔神楽】
「く、っはぁ・・・さすが女神様の補佐じゃん・・ちょっと甘く見てたよ、あたし」
へらりと笑い、口元の血を拭う彼女。
状況で言えば、嬉しいことに、僕のほうが優勢だ。
「案外、片腕でも戦えるものだね」
僕は剣を見て、そう呟いた。
「その片腕にやられてるなんか・・ママに何て言われるかねぇ」
彼女はもう一度立ち上がり、刀を拾う。
その間に、僕は全神経を研ぎ澄ませ、集中する。
「準備はいいかな、悪魔さん」
「忠告するなんて、律儀な奴・・いいよ、かかって来い」
剣を横に構え、羽根が舞うほどの速さで、彼女の元へ潜り込む。
そして、ここからが大勝負だ。
「・・右足」
剣を振った。
「!?・・っう、あぁ゛ぁあ・・・・・・、くっそ・・!!」
彼女の片足を、落とした。
膝から下が、彼女から消えたのだ。
苦しそうに顔を歪ませ、どうにか立ち上がろうと、身体を震わせながら痛みに耐えていた。
「ころ゛、す・・・・・・・殺して、やるッ・・・!!!」
「どうせなら、初めからその気になってほしかったよ」
「、っは・・・・まさかやり返されるなんて・・ね・・・・!」
どうやらこれは、腕をもがれるよりも痛そうだ。
殺意が沸く理由も分かるし、自らが情けなくなるのも分かる。
「もう手加減しないし、容赦もしねぇよ・・・・・クソ天使がッッ!!!!」
我を忘れたように駆け出し、斬りかかろうとこちらに向かってきた。
「誰かを失うことは最も怖い・・けれど、自分を失うことだって、僕は十分怖い」
「だから何だ・・何が言いたい!?お互い腕と足をやられて、アンタはおかしいんじゃないの!?」
“おかしい”か。
腕を失くして、血を流して。
それでも冷静に言葉を紡ぐ僕は、気でも狂ったように見えるのだろうか。
「これでも君を殺したいと思ってるんだよ、僕は」
「やぁぁぁぁぁああああぁぁぁあああぁぁぁぁぁあああぁぁあ!!!!!!」
「君がどれだけ狂おうと、悪魔のかたちを失おうと」
「死ね・・・ッ、死ね!死ねぇええぇッ!!!」
「僕は、君を殺す」
刀の技も握り方も忘れたかのように、闇雲に刀を振るい続ける彼女。
少なからず、僕もダメージを受ける。
「っつ・・・・クソッ、足、が・・!」
だが、右足を失くした彼女のダメージは、歩けなくなるほど大きいのだろう。
「こ・・・ろ、せ・・もう、殺せ・・・・・!!!!」
殺意に燃えた醜い悪魔が、死刑を望むほどには。
「・・そこまで君が死を請うのなら、別にいいけれど」
何というか、後味の悪い終わり方だ。
僕としても、君としても。
「お願い・・・・殺して・・ッ」
彼女の欠けた足からは、止まる気配がないほどの血液が溢れている。
こんなところで生かしておくのも、無慈悲が過ぎるというものか。
「やっぱり無理だよ、僕には」
「は・・・?・・っぐ、何で・・・・・!!」
理由なんて、分かりきっている。
「天使だから」
それ以外に、どんな意図があるのだろう。
神聖なる“窒”に生まれてきたのだから、仕方ない。
“僕が天使だから”。
それだけじゃないか。
「でも、処刑くらいはしてあげようかな」
勝負の終わりを告げる、処刑くらいは。
「んは・・・っ、調子乗りすぎでしょ・・」
高笑いする気力もないらしく、彼女はそう言った。
「君が望んだんだから・・僕だって、先を急いでるからね」
「あーそう・・・・じゃあもう好きにしなよ・・好きに殺せ」
「そうだね、そうさせてもらうよ」
何か、違和感を感じる。
自分がこれから死ぬというのに、あっけらかんとしすぎじゃないか。
いや、これは彼女から頼まれたことだけれど。
首を落とす前に、他も・・。
いや、これはちょっとクズだからやめた。
僕、天使だし。
「じゃあね、悪魔さん」
僕が剣を振り上げた瞬間、彼女が嗤うのが見えた。
やっぱりか。
「・・って言いたいところなんだけれど」
「・・は・・・・!?」
僕は、彼女の首筋に剣を当てる。
ある意味予想通りだ。
「吸血鬼の正式な殺し方を、君は知っているかな」
話題を変え、僕は【天の箱舟】で、剣から木の杭を造り出した。
「これから君の胸にこれを刺して、焼こうと思う」
言っていることは、もはや天使の片鱗もないが、これは正当な手段だ。
中級以上の悪魔は、身体が死んでも、“霊体”として生きている場合が多い。
全ての中級以上がそうなるとも限らないので、断言はできないが。
だが、身体さえ消し炭になってしまえば、もう終わりだ。
つまり、“身体の原型”が残っていなければ、霊体にはなれない。
そういう場での“焼死”というのは、実に有効な手段だといえる。
昔、書物で見ただけの情報なので、僕自身、実際に試したことはないが。
「焼く・・・か~・・恐ろしいことを考えるねぇ」
「まぁ、それが正当な処刑だからね」
その理由は、いつも変わらない。
「僕が天使だから、悪魔である君を殺すんだ」
彼女は下劣な笑みを浮かべて、こう言った。
「やってみろよ、カス天使」
僕は冷静に、平坦にこう言った。
「当たり前だよ、クソ悪魔」




