2.詐欺師は神を恐れない?
【STAGE:巡礼者たちの大階段】
ひとまずあれやこれやがあって、教会を出て街を歩くことに決めた。
そしてまず教会を出ると見えるのが、『巡礼者たちの大階段』という、教会から地上までの螺旋階段だ。
これがまたとてつもなく高く、教会がどれだけ高い位置にあるかが分かる。
この下はもう街に続くのだが、そのためには、まずこの階段を突破しなければならない。
「さすがの景色ですが・・あなたたちも、羽があるなら飛べばいいのでは?」
「そういうわけにもいかないんだよ~・・・ここは教会の次に神聖な場所だし、天使でも足をつけないと天罰が下るって・・」
降りるだけなのに、これだけ大変だとは。
しかも、天使も意外と苦労してるな・・。
・・あ、そうだ。
私は別に天使じゃないし、よくない?
しかも私、よくよく考えたら天罰を与える側だし。
「じゃあ、私は行ってきますね」
「え、どこにっ・・て、女神様ーーーっ!?」
「女神様・・・まさか、自分は神だからって・・」
「おー、速い速い」
気付いた頃には、天使たちとはまた違う4枚の翼が背中にあって、着地速度を落としているようだった。
「ちょっと、僕たちを置いていかないでよ・・!」
「え、ちょっ、シニエラまでっ!?」
螺旋階段の終盤が見えてくると、私より随分と速いスピードで、シニエラが降下してきた。
「あら、なかなか速いじゃありませんか」
「そりゃあ、天界では一番のスピードだからね」
「天罰はいいのですか?」
「・・じゃあ、天罰を与える側のあなたが飛び降りているのはいいということなのかな」
「もちろん。私を誰だと心得ているのです」
口の達者な部下だ、全く。
全くの正論だけれど。
そして、空の旅も終わりを告げて、ようやく地上へと降り立った。
「しかし女神様、ハニエラはまだかな」
「もう、あの子はああいう所で真面目すぎるんですよ」
「~~っ・・・【白き足枷】っっ!!」
「、ハニエラ・・僕はまだしも、女神様まで・・・っ」
頑張って降りてきたらしいハニエラは、何らかの術をかけたらしい。
地上にいる私たちの身体は、石のように動かなくなり、意思とは無関係に縛られているようだ。
「ほう、素晴らしい術を持っていますね・・これなら魔王だっt」
「め・が・み・さ・まっっっ!!あとシニエラ!!」
ふっと息をつくと枷は解かれ、身体は動くようだ。
「あのねっ、さっきも言ったでしょ!?女神様はボケてるかもしれないけど、シニエラも悪ノリしない!女神様もボケない!!わかったっ!?」
ぼんやりと返事をした銀髪の天使は、こちらを見つめてほんの少し微笑んだ。
・・この子、笑ったら普通の女の子じゃん。
ちょっと母性が出た。
「ひとまず街を探索しないと、ハニエラ。君って意外と細かいもんね」
「私が悪いみたいな言い方しちゃって、あなたは所詮第二補佐でしょ~?」
「・・行きますよ、まずは調達からです」
普段は仲良しなんだよ、本当に。
ハニエラはちょっと“女”が出てくることあるけど。
【STAGE:歓楽街】
「まぁ、ここは広いですし・・・時間のある限り見てまわりましょう」
「あら、これはこれは女神様・・それに、天使のお嬢様方」
後ろを振り向くと、清純そうなお嬢さんがいた。
キャラメル色の癖毛なサイドテールに、桃色の瞳、膝上くらいのワンピースを着ている。
だが商人だろうか、リュックらしきものを背負っているようだ。
「今日はどうされたので?薬を買いに来たなら、ぜひ私のところでいかがです?」
「薬・・そうだね、回復薬はあるかな?」
「ええええ、いくらでもございますわ。ちょうどここで店を開こうと思っていましたし、少しお待ちを」
鞄を開くと、とても抱えきれないほどの薬が入っていた。
ていうか、よくこんな物背負って歩けるね・・。
「さぁどうぞ、ご覧くださいまし」
「んん・・・これも回復薬ですか?それに、こんなえげつない色の薬も・・。」
「はい、どれも回復薬ですわ・・そちらも解毒剤ですし、買っておいて損はないでしょう」
育ちの良さそうな言葉遣いが逆に怪しいが、これはどちらも買っておくべきだろう。
「・・えっ、これも回復薬?見るからに・・・ただの砂糖水だと思うんだけどっ」
「うふふっ、薬は人を選びますから・・砂糖水でよければ、買っていってくださいまし」
「・・・ふ~~ん」
あ、キレてる。
商人の冗談にまでキレてる。
・・という顔を、隣でシニエラがめっっちゃしてる!!
やめて!!
とばっちり来るからやめて!!!
「いいでしょう、砂糖水は私がもらいます・・あとは、一つお願いが」
「はい?女神様の望みなら、何なりと」
「なら、私たちと共に来てください」
「・・ふふ、これはこれは」
シニエラはいつもの無表情だが、ハニエラの顔がひどい。
何て顔してるんだ君。
「ただの薬売りが、女神様のお供に昇格とは・・」
「それで?聞いてくれますね?」
「ちょっと、女神様っ、この人は絶対・・」
「ええ、もちろんでございますわ」
お、あっさり。
だからハニエラ、顔、顔。
アニメ化したらえらい事なるよ。
「さすが女神様だね、この詐欺師を仲間にしちゃうなんて・・あ」
「詐欺師?」
「はーーっ!?だめだめっ、こんな犯罪者を仲間にだなんてっ・・」
「なかなかいい職業をしていますね、あなた」
「採用」
「何たる光栄でしょう、天使のお嬢さんと女神様にまでそう言っていただけるなんて・・」
シニエラに至っては親指を掲げ、ドヤ顔をしている。
そういう私も、ドヤ顔をしている。
「それで、名前は?」
「あぁ、そうそう・・薬売りのエリタ・フォンティーナですわ、覚えていてくださいまし」
「僕はシニエラ。それでこっちが・・・そう、爬弐之条江良佐衛門」
「よ め な い よ」
「はにのじょうえらざえもん」
「字面だけ見ると中国語っぽいですね」
「ふふ、とてもいい名前ですわね」
「そっか、ありがとっ♪」
普通に偽名を褒められて喜ぶな、君は。
そこは怒れ。
シニエラに怒れ。(正論
「じゃあ、エリタの薬もダブルで仲間になったと」
「そういうわけです」
「・・ま、いっか♪」
「さすが天界の方々、狡いお考えですわ・・♪」
ハニエラもとりあえず納得したようだし、これでハッピーエンドじゃないか。
「あ、そういえばエリタって・・人間なの~?」
「あぁ、種族ですか・・“サトリ”ですの」
「東かどこかの国の妖怪だっけ?心を読む、っていう」
「ええ、よくご存じで」
ハニエラ曰く“シニエラは学歴だけはいい”らしく、さすがの情報量だ。
それなら、あのドヤ顔をされても何も言えないな。
「では、今の私たちの心もお見通し、と」
「そういうわけですわね」
少し影のある笑みを見せて、詐欺師が微笑んだ。
「さて女神様っ、薬の次は仲間をもっと探さないとっ!」
「そうだね・・4人なんて、僕でも笑っちゃうよ」
無表情のまま、鼻で笑うシニエラ。
「さぁ、まだ時間が許す限り・・仲間探しを始めましょうか」
心を司る“場違いな詐欺師”が、旅の仲間に入った。